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第22話 現実世界と異世界と

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 目を覚ませば天井の低い質素な造りの部屋だった。

 王城で遭遇したリクトールという男の顔が脳裏をよぎり、心臓のあたりがチクリと痛んだ。

 粗末なベッドに寝かされていた体のあちこちには、丁寧に包帯が巻かれ治療の痕跡が見て取れた。どうやら俺が望んだ治癒術師(ヒーラー)がいるようなので、とりあえずは安堵する。


「おい」


「―――はっ!? 目が覚めた!? これは、その‥‥‥よく眠っておられたゆえ、ついつい‥‥‥ごほぉん! 寝ていませんが、なにか?」


 目の前の椅子に座っている耳の長い亜人に声を掛けると、目を開けてあたふたとする。言動から面倒くさそうな奴だと光速認定した。

 居眠りをしていたように見えたのだが‥‥‥もしかして監視役だろうか?


 呼び掛けた声に驚いて立ち上がった彼女は、見た目で俺と同じか少し上ぐらいの年齢にみえた。しかしこの世界では、人間の尺度で相手の年齢は計れない。ましてやエルフともなれば、言わずもがな。


「いや、なんでもない‥‥‥俺の連れはどうなった?」


 軽装の武具を身に付けていることから普通の村娘ではないのだろう。


「ああ、お連れのサキュバスか」

「そっちじゃない」


「なら野良猫―――」

「―――違う!」


「それではあの重篤じゅうとくな‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「―――どうなった!」


 監視役のエルフが無駄にタメを作るので、ついつい急いで言葉を被せてしまう。


「村で唯一の治癒術師(ヒーラー)がついておるゆえ安心‥‥‥いや、あ奴はあまり腕が良いとは言えぬから―――しばし待たれよ」


 そう言うと監視役は慌てた様子で部屋から走り出ていった。‥‥‥悪いやつには見えないが、間違いなく面倒くさい。

 それよりセリーナのことだ。どんな内容だろうと請負った仕事を完遂するのが俺の主義。こんなところで死なれたら俺の矜持(プライド)が許さない。それに特別な報酬がパーになってしまう。


 ベッドから起き出すと右足首に違和感があった。が、その程度だった。どうやらこの村の治癒術師(ヒーラー)は優秀らしい。

 部屋にはガラスのはまった窓があり、煙突からもくもくと白いけむりを吐きだす質素な造りの家々が見えた。

 絶体絶命だった俺たちを風の精霊シルヴィアが運んだ先は、深い森に囲まれた隠れ里のような小さな村だった。


 蝶番がギーっと鳴いて部屋のドアが開いた。


「おや、もう目が覚めたのかい」


 先ほど出ていった監視役のエルフを従えて、腰の曲がったエルフの老婆が現れた。司祭のような格好で杖をついている。


「なるほど。風の精霊様が肩入れするわけさ」


 しげしげとこっちを見つめて老婆が言った。

 立ち上がった俺を片手で押しとどめる仕草をして、先ほど監視役が座っていた椅子に腰を下ろした。セリーナのことが気掛かりではあったが、とりあえずベッドの縁に腰を下ろす。


「わしはフルエラ。この村で長老と呼ばれておる」

「俺はスグル。治療のことは礼を言う」


「な~に、精霊様のご意思じゃて。それより、そなたの力についてじゃ」

「俺の力‥‥‥!? わかる、のか‥‥‥?」


 静かに向けられた老婆の真っ黒い瞳。

 その奥に深淵を見たきがした。力と聞いて、『現状を修正』するチート能力のことを指しているのだと理解した。


「もちろん知っておる。この村に生まれた者の中には(まれ)世界樹(せかいじゅ)の力が宿るんじゃ。そなたの力、あれはだめじゃ」


「‥‥‥だ、だめ!?」


 チート能力を駆使し、不利な状況を覆して冒険すること早10年以上。はじめて会ったエルフの長老からダメ出しをくらって動揺を隠せない。


「ああ、だめじゃな。その話の前に、そなたに風の精霊様からの言伝(ことづて)がある」


「‥‥‥」


 全てを見透かすかのようなフルエラの真っ直ぐな瞳に、俺は返す言葉を飲み込んだ。


「では―――、久しぶりに会って僕は確信したよスグルくん。君は驚くことに2つの世界を生きてるんだね、てへ。だからどっちの世界でも死んじゃだめだぞ、めっ! 取り返しがつかないからね、きゃはぁ―――以上じゃ」


「‥‥‥」


 声色と雰囲気を変えて話し終えたエルフの長老。

 俺はまたしても言葉を飲み込んだ。これは見てはいけないものだったのではなかろうか‥‥‥。


 監視役だったエルフの彼女に至っては、あんぐりと口を開けたままで固まっていた。口の端から涎が垂れてますね‥‥‥。


「おほぉん! 言伝(ことづて)じゃからな。正確にマネてみたまでのことじゃ‥‥‥」


 半眼になった俺たちの様子に、長老のフルエラは少し気落ちしたように見えた。


「少しだけ似ていた」


 あまりにも気の毒に思えたので、治療の礼を兼ねてリップサービスすると、「そうかぁのお~」と言ってフルエラは口元を綻ばせた。意外とお茶目なところがある。


「‥‥‥すまぬな。少しばかり話が脱線した。さてスグルよ―――このリンゴは何個に見える」


 フルエラが威厳ある態度に戻ると、なまあたたかい空気が流れていた部屋の雰囲気がガラリと変わった。

 唐突に差し出されたのはよく熟れた真っ赤なリンゴ。

 エルフの長老が発した言葉の意味が理解できず、俺は受け取ったリンゴをしげしげと見つめた。


「1つだ」


 単純な質問に、何のひねりもなく端的に答える。


「では、この村にリンゴは何個存在する?」


 質問の意図がわからなかった。

 ただ存在という言葉に引っ掛かりを覚える。


「‥‥‥意味がわからない。リンゴはほかにも沢山あるだろう。収穫の時期にもよるが」

「そうさな。リンゴはほかにも存在する。―――では世界はどうじゃ?」


「世界‥‥‥? なんのことを言っている。世界は1つに決まっているだろう」


「不正解じゃ」

「いや世界は1つだ!」


 なんだか挑発されているような気がして、少しだけ語気が強くなった。


「おや、それはおかしいねぇ~。リンゴはほかにも存在するんじゃろ。なら、ほかの世界も存在するんじゃないのかい」


「リンゴと世界は違う」


「ふぉふぉふぉ。どこかの誰かさんがずっと昔に同じようなことを言っておったぞ。リンゴと世界はなんら違わんよ。1つでも存在すれば、ほかに存在する理由は十分じゃ。これが村に伝わる世界樹(せかいじゅ)の話。この世の真理(しんり)さね」


 この世界は―――俺が現実逃避のために作り上げた空想世界だ。

 我ながら面白い設定だと思う。本当に2つの世界を生きているのだとしたら、俺は異世界召喚されたことになるんだろうな。

 だが現実は―――いまここで目を開けば世界は色を失うのだ‥‥‥。


「残念だが、ここは俺の空想世界だ‥‥‥」


 言い訳のように、それとも自分に言い聞かせるようにして、俺を見つめるフルエラに言葉を返した。

 空想することをやめれば、いつだってもとの世界に戻れるというのに‥‥‥。


「そなたを見たときの違和感の正体がわかったぞ。スグルよ‥‥‥そなたは大きな勘違いをしておる」


「勘違いなどしていない。世界は1つだ。そしてここは俺の空想が生み出した幻だ!!」


 目を開ければいいだけのこと。そんな簡単なことができない俺は、空想世界で滑稽にも焦燥に駆られて声を荒げていた。


(あわ)れなことよ‥‥‥大きな勘違いはそなたの力が原因のようじゃな」


「―――違う! 俺の力、『現状を修正』するチート能力こそがここを空想世界だと証明している。チートだ! チートスキルだ! 俺の力は反則技なんだ。自分に都合よく不利な現状を修正する力―――なんでこんな力があるのかを考えればわかる。それは当たり前のことなんだ。だってここは俺の思い描いた異世界なんだから‥‥‥つまりこの俺は神なんだよ!!」


「思い上がった(いびつ)な考えじゃな」


「そうじゃない! そうじゃないんだ‥‥‥俺は神なんかになりたいわけじゃない! 俺は嫌なことを忘れて自由気ままに冒険していたいだけなんだ! ただ‥‥‥それだけなんだ‥‥‥」


「そなたは特別な力を持ったがゆえに、この世界が偽りであるかのように錯覚―――そう思い込んでるだけなんじゃよ。もしかしたら、本当は気づいてるんじゃないのかえ?」


 ◇◇◇◇◇


 と、ここで体を揺さぶられる感覚があり、


「起きな―――駿(すぐる)


と聞きなれた声が聞こえた。


 たしかバイトから帰ってそのまま風呂に入って‥‥‥湯船のなかで眠ってしまったようだ。

 空想世界から俺の意識はたゆたって‥‥‥いつしか夢の中にいざなわれていた。


「母ちゃん‥‥‥」

「こんなところで寝て、溺れたらどうすんだい!」


 そういえば聞いたことがあったな。人は膝下くらいの浅瀬でも簡単に溺れるって。

 母親が風呂場からいなくなると、少し熱めのシャワーを浴びた。頭の中がすっきり覚めても、湯船の中で見たリアルな夢の内容はおぼろげな記憶になることはなかった。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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