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第21話 春宮、戦闘モードに移行する。

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 2日目のバイトを終えて家に帰ると、母親が俺のぶんの朝食を作ってくれていた。再び両親と食卓を囲む。


「どうだった?」

「何かあったら母ちゃんに言いな」


 期待と不安が入り混じったような顔を向けられれば、「脅されていやいや働かされている」なんて間違っても口にできない。


 食事のあと、今朝はしっかりと入口の封印を確認してから聖域に入った。


「眠い‥‥‥」


 万年床に転がるとすぐに(まぶた)が重くなる。昨日と同じでルーティンの空想のまえに泥のような深い眠りに落ちた。


 空腹で目が覚めると1階から物音が聞こえた。両親が帰宅しているということは、もう夜になっているということだ。今夜もバイトがある‥‥‥重い体をむくりと起こし!? 少し体が軽いような気がした。


 誰かさんにブタと罵られないよう風呂に入る。その前に体重計に上がってみれば、なんと数字が3桁から2桁になっていた。少し軽くなったと思ったら痩せていた。

 思えばこの2日間、夜は立ちっぱなしでバイトし、帰ってからは昼食を抜いて夜まで眠っていた。それに毎日のように食べていた糧食(おやつ)も抜きだった。今までどんだけ食べてたんだってことなんだろうけど‥‥‥。


 バイト3日目―――やっと週末だ。今夜を乗りきれば休みが待っている。

 トイレ掃除から始まった仕事のあとは、春宮にレジ周りの仕事を教えてもらう。


 とにかくレジが1人でこなせないとコンビニではやっていけないということらしい。ふつうの会計に加えて公共料金の支払いや荷物の受け取り、受け渡しなど他にも覚えることがたくさんあった。


「山ぴーさぁ、思ったより仕事覚えんの早くねぇ?」

「そ、そうかな‥‥‥」


「キモ。やっぱ敬語になおせよ」

「えっ‥‥‥!?」


「ははは。冗談だって、冗談。あたしは覚えるまでけっこう時間かかったし」


 そういえば春宮をこの店で見かけるようになったのは最近だ。違うコンビニでのバイト経験があるのだろうと1人で納得する。


「いろんな客がいただろ? 昼間と夜の客層ちげーからその辺はあたしに頼っていいぜ」

「先輩、お願いします」


 年下の春宮は、こんな俺に意外と気をつかってくれてるようだった。頼もしい一言に素直に頭を下げた。


 自動ドアが開き客の来店を告げた。


「しゃあーせぇー」

「し、しゃあーせぇー」


 やる気のない春宮の返事と、やや緊張気味の俺の返事が虚しく響く。

 バイト3日目の結論は、深夜に訪れる客のほとんどが、レジの俺たちに意識すら向けないという事実。昨夜のチャラ男みたいな一部の客は例外だ。

 引きニート生活が長く対人スキルが著しく低下している俺にとっては好都合な職場といえた。しかしこの店を訪れる客は悪い意味でキャラが濃い。


「絶対に押さないわよ」


 俺たちの目の前では、酒を購入しようとした客の美魔女が年齢確認ボタンの押下(おうか)を拒否していた。春宮によればよくある問答らしいのだが‥‥‥。


「決まりなんで」


 戦闘モードに移行するように、春宮はスッと表情を消した。今夜はどんなテクニックを見せてくれるのだろうか、と隣で固唾を呑む。


「こんなおばさんに年齢確認って、あなた私をバカにしてるんでしょ」

「してません」


「顔に書いてあるわよ!」


 すごい剣幕で顔を寄せてくる美魔女に対して、春宮はなんら臆する事がなかった。


「本音を言ってもいいですか?」

「ほら、やっぱり! いいわ、ハッキリと言いなさいよ!」


 客は目の前の美魔女のみ。

 嫌な沈黙が店内を包む。

 緊張で俺の喉がゴクリと鳴った。


「お客さんは年齢確認の必要な歳には見えません―――」


 春宮の明け透けとした言葉に、客の美魔女が目に力をいれて強くあごを引いた。

 唇を強く引き結んで、いまにも飛び掛かりそうに見えた。だから俺は春宮のほうに少しだけ体を寄せた。


「―――でも、母のいないあたしは、綺麗なお客さんの姿を見ていて、ああこんなふうな歳の取りかたがしたいって、正直思いました」


 春宮の口から淡々と紡がれる言葉に、美魔女の雰囲気が変わったように感じた。つり上がっていたまなじりが下がる。


「そ、そうなの‥‥‥ちょっとからかってる?」

「あたしの本心です」

 

 そう言った春宮は、両手を胸の前で合わ、つぶらな瞳を美魔女に向けたまま力強く頷いてみせる。

 いや、滅茶苦茶臭い芝居ですが‥‥‥。


「な、なんだか飲み過ぎちゃったみたい。すこし意地悪したくなっただけなの‥‥‥大人げなかったわ。本当にごめんなさい」

 

 気まずそうに言って頭を下げた美魔女は、年齢確認ボタンに触れると会計を済ませて帰っていった。自動ドアを潜る前に丁寧にお辞儀をする。


「先輩、お見事です」


 素直な感想だった。異性の俺には真似できないやり取りではあったが、コミュニケーションという面では大いに勉強になった。


「あんなの、ただの酔っ払い」


 淡々と言ってのける春宮だが、対人スキルの低い俺には到底倒せない(対処できない)相手だった。

 春宮には母親がいないのか‥‥‥さっきの客との会話を思い返す。ここは俺なんかが触れてはならない領域だ。


「じゃあ次は月曜な。逃げんじゃねぇ~からな」


 捨て台詞のように言って今朝は春宮が先に帰った。次のシフトのパートのおばちゃんに引継ぎを終えバックヤードで私服に着替えてから俺も店を出た。


 家に帰ると両親と食卓を囲って朝食を食べた。今夜と明日の夜の2日間は休みなので、今朝はゆっくりと風呂に入りたい気分だった。


「お風呂入ってるよ」


「えっ!? 入れてくれたんだ母ちゃん‥‥‥」


「ゆっくり入んな」

「駿、仕事で汗かいたあと入る風呂は格別だぞ。出たらビールでも飲んで寝ろ」


 両親が仕事にいくと、途端に我が家は静かになった。

 お疲れ、俺。頑張ったご褒美にゆっくりと湯船に浸かろう。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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