第20話 山ぴー
はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
目が覚めると夜になっていた。
とうぜん昼食は取ってない。
腹を空かして1階に下りれば両親が帰宅していて、夕食は一緒に食べることになった。母親が昼食を用意してくれていたから、それも一緒に食べる。
「適当に頑張れよ」
「つらくなったら母ちゃんに言いな」
引きニートをどこまでも甘やかす。やっぱり俺の両親は過保護だ。だから俺のような人間が育つんだ。
「夜は何時からなんだ?」
「10時‥‥‥」
「それまで寝るかい? 時間がくれば母ちゃんが起こそうか?」
「いいよ。風呂入って履歴書を完成させないと」
自分で言いながら引っ掛かる。そうか初日の俺はそのまま働くと思ってなかったから風呂に入っていなかった。前に入ったのはいつだっただろうか‥‥‥。
そういえば春宮からブタって言われたのは、太っていることに加えて体が臭かったからなのだろう‥‥‥いまさらながらに納得した。
風呂から上がって聖域へ戻れば、スマホに見たこともない数のSNS通知があった。
基本、他人との繋がりのない俺である。相手は言わずもがな。オニ通知がなくても行きますよ。だって警察のお世話になりたくないから‥‥‥。
◇◇◇◇◇
バイト2日目はトイレ掃除から始まった。
学校以外でトイレ掃除などしたことがなかったのに、なんでいまさら他人が使った便器を掃除しなくちゃならないんだ。
脅されるかたちで働き始めた俺の労働意欲はゼロに等しい―――それを口に出して文句を言えば春宮に何をされるか‥‥‥。
それにしても擦れば擦るほど白くなる。掃除した箇所が綺麗になると意外と気持ちいいもんだな、っておい俺! すぐに感化されるんじゃない。
「終わったらこっちな~」
「あ、はい」
掃除を終えたタイミングで、レジの方から春宮の呼ぶ声がした。
深夜帯に入ってから客足が途絶えていた。ほかの店のこと知らないが、さすがに客の数が少ないのではと心配になる。
「山田ぁ、おまえ年上だったんだな」
レジに立つ春宮は、俺が持ってきた履歴書を手に取って眺めていた。ビッチには俺が何歳に見えていたのだろうか? 着崩したコンビニの制服。大きく膨らんだ胸元をチョロ見する。
「あたしの7つ上かよ」
なるほど。茶髪ギャルの春宮は21歳か。うん? こいつ俺が年上だとわかってもタメ口だな‥‥‥モヤモヤするぜ。
「あ、あの‥‥‥オーナーの面接とか、そのへんどうなんでしょうか?」
「ああん? あたしが採用したんだからオッケーっしょ」
俺は気になってることを聞いてみた。いくらバイトの採用だからって、さすがに春宮に決定権はないだろう‥‥‥本当に俺は採用されてるのだろうか? つまりバイト代はもらえるんだろうか‥‥‥ふたを開けて見ればただ働きだったみたいな‥‥‥そんなことは絶対にいやだ。
しかし俺の心配をよそに春宮の答えはじつに軽かった。
「オーナーたまにしか来ねぇーんだよ。またこんど会えるっしょ」
「そうなんですか‥‥‥」
相手が年下だとわかっても敬語な俺は、なんだかんだで春宮と同じだ。ここでバイトしてたら少しは対人スキルが身につくだろうか。
自動ドアが開いた。
「しゃあーせぇー」
「しゃ、しゃぁーせぇ」
来店のあいさつをすると客の男―――20代前半のチャラ男が春宮に軽薄そうな笑顔を向け、次に射殺すような視線を俺に向けた。
「レジ打ち教えっから」
「あ、はい」
レジの前で並んで立つ俺と春宮。客のチャラ男は店内を一周すると『肝臓に効く系のドリンク』を台の上に置いた。
「いらっ、しゃぁーせぇー」
小声で指導する春宮の言うとおり商品のバーコードを読み取り、袋がいらない想定で「このままでいいですか?」とチャラ男に聞いた。
「何こいつ? 春宮ちゃんいつからブタ飼ってんの? ウケる」
ことさらに俺を無視したチャラ男は、春宮を名前で呼んだ。知り合いなのだろうか? それにしても印象が悪い。初対面でブタ呼ばわりとは‥‥‥うん、誰かさんもそうだったな‥‥‥。
「新人だよ」
スッと春宮から表情が消えたのがわかった。
「できが悪そうなの抱えて春宮ちゃんも大変だね。俺もケチな姫を送ってその帰りなんだわ。これから店に戻って第2戦ってとこよ」
「頑張ってください」
2人の会話からチャラ男はホストかなにかか? 春宮の変化に気づかずに、大きく膨らんだ胸元にいやらしい視線を向けていた。
いつものギャルっぽい雰囲気が影を潜めた春宮は、チャラ男の話に淡々と受け答えしている。ただそれだけだった。
「―――こんど、な、行こうぜ。アカウントをフォローしてくれたら―――」
「しゃあーせぇー!!」
別の客が来店したタイミングで春宮が大きな声を上げた。そこでチャラ男は、「ちぇっ」と舌打ちしてから会話を諦めて店を出ていった。
「知り合いなんですか?」
「はぁあん? 年上なら敬語つかうな」
「あ、はい‥‥‥」
「あんなの知り合いじゃねぇ~し。こっちの名札見てるだけっしょ。あっ、そうだ―――」
バックヤードに消えた春宮が新品の名札を手に戻ってきた。マジックで『山ぴー』と書いて、それを俺の左胸に付けた。その時、春宮の頭が俺のすぐ近くにあって‥‥‥鼻腔内は髪から漂ういい香りに満たされた。
「さすがに山ぴーはマズいと思いますが」
「マズくねぇ~し。敬語つかうな」
「あ、はい。うん」
「なんだよ、うんって。キモ」
今夜もリアルでキモを頂きました。
はぁあ~それにしても時間が経つのが早いな。気づけば辺りが白み始めていた。嫌な時間ほど長く感じるっていうけど、それはホントのことなんだろうか‥‥‥。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。