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第15話 夢の中 ~死闘~ その1

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 魔法には瞬間的に魔力を放出するものと、継続的に魔力を必要とするものの2種類があった。

 

 ―――そして2つの系統が存在していた。

 神々の時代に精霊と契約を交わした者たちの系譜と、悪魔の系譜だ。後者については禁忌(タブー)とされるものが多く、この世界では忌避されていた。前者は言わずもがな。

 

 ルールーが放った火球(ファイアボール)や俺の鎌鼬(ウインドカッター)のような魔法は、瞬間的に魔力を放出するもの。

 そしていま目の前で展開している気流が渦巻く空気の壁―――嵐の壁(ストームウォール)は継続魔法だ。注ぐ魔力量によって、その規模や持続時間が調節できる。使いどころによっては絶大な効果を発揮する。


「―――聞けぇえええー!! 一歩でも近づけば嵐と炎の壁がお前たちの体を八つ裂きにするぞっ! 命が惜しければ下がるのだあああー!!」


 嵐の壁(ストームウォール)が炎を(まと)ったのは偶然の産物だ。それは地獄の業火というやつを再現したような迫力があり、俺の恫喝とあいまって兵士たちの前進を阻む。

 

 本来ならルールーの放った火球(ファイアボール)は、着弾と同時に爆ぜて消えるもの。効果は継続しない。

 しかし、どうやら俺の展開した嵐の壁(ストームウォール)と重複したことで火球(ファイアボール)にも継続魔法の特性が現れているようだった。


「集中力を切らすな。魔力を注ぎ続けろ」


「そんなこと言われても‥‥‥疲れるっす‥‥‥」


 俺とルールの魔力が続く限りこの炎を纏った嵐の壁(ストームウォール)攻略は難しいだろう。これで相当時間が稼げるはずだ。

 いまさらだが、ルールーの魔法を着弾させなかった俺のメンヘラな判断は、この世界では褒められたものではなかった。


 それは、祭壇前でのカラミヤの戦いを見れば一目瞭然だ。

 

 鋼のムチの猛攻をかいくぐった衛兵の首筋に、容赦なく戦輪(チャクラム)が見舞われ、相手は血しぶきを上げて倒れ込んだ。

 直後、斜め横から衛兵の直剣が突き入れられ、カラミヤが寸前で身をかわす。

 華麗なバク転で距離を取り、持ち替えた鋼のムチが別の衛兵の膝から下を切断した。


 そうなのだ、俺たちは戦っている。命のやり取りをしている。

 厳かな雰囲気に包まれていた聖堂は、いまや誰の命でも簡単にこぼれ落ちてしまう戦場と化していた。


 俺のメンヘラな行動は後悔へと変わる‥‥‥歴戦の猛者だろうが世界を救う英雄だろうが、一瞬の判断が生死を分け、運・不運で命を落とす。

 

 ―――だから本当なら、正面からなだれ込んできた兵士たちをぎりぎりまで引き付けて‥‥‥そこに火球(ファイアボール)を叩きこんで敵の数を減らした方が戦術的には正しかったのだ。


 俺の取った行動はあくまでも先送りの悪手―――時間稼ぎにすぎなかった。

 

 なんとかして窮地を打開する方法を見つけなければ全滅する。

 祭壇横の通路からは、軽装の衛兵が次から次へと湧きだしてくる。さすがにカラミヤだけでは捌ききれない数だ。

 

 孤軍奮闘するカラミヤはすぐに複数の衛兵に囲まれた。

 その中で舞を舞うようにして戦っているカラミヤの表情は嬉々としたものだったのだが‥‥‥浮かべた表情に比べて状況は悪化するばかりで徐々に押し込まれる。

 露出度の高いボンデージ衣装からのぞいている腕や太ももには、痛々しい切り傷がいくつも刻まれていった。


 祭壇横の通路から湧き出した一部の衛兵がこちらに向かって駆け寄ってきた。


「おまえは目の前の魔法に集中しろ」

「あいさー」


 嵐の壁(ストームウォール)に向けて両手をかざしているルールーの体は震えていた。多勢に無勢、明らかに空元気な返事を寄こす。


 魔力の一部を嵐の壁(ストームウォール)に注ぎながら、俺は風の魔法を体に纏った。そしてにじり寄ってくる相手に向かって―――瞬時に間合いをゼロにする。

 突然の出来事に驚く衛兵。手にした直剣を振りかぶるいとまもなく、その場で大きく態勢を崩して仰け反った。


 この衛兵はただ仕事に忠実なだけの男だろう。別段、恨みがあるわけではない。如何せんこの場所が戦場になっただけのこと‥‥‥次の瞬間には俺の得物(ククリナイフ)が喉笛を掻っ切っていた。


「きりがないわぁ~こっちにも壁を作ってくれないかしらぁ」


「あいにく1枚しか展開できない」


 余裕ぶった発言のカラミヤは、衛兵に取り囲まれ危険な状況だった。

 本来のスタイルは近接戦闘。カラミヤは強い。しかしそれは暗殺者ゆえに1対1でのことであって‥‥‥もともと複数相手には向いていないのだ。


 包囲の輪が縮まる中、カラミヤの戦輪(チャクラム)が近寄った衛兵の喉笛をかすめる。

 すると衛兵たちの包囲の輪が広がり、こんどは距離を取った。

 

 敵ながら上手い戦い方だと感心する。

 カラミヤの攻撃は間合いが不十分で、相手に届いたとしても致命傷を負わせるまでにはいかないだろう。

 イラつきを隠せないカラミヤが深追いして前に出ると、すかさず直剣が突き入れられた。


 流石は王城の衛兵というところか。カラミヤの手の内を知ると戦法を組み立てたようだ。戦いなれた精鋭が揃っている。分が悪かった。

 それに相手の手数も多い‥‥‥後方と斜め横から突き入れられた直剣を華麗にかわしたカラミヤだったが‥‥‥真正面からの大きな踏み込みに対応が遅れた。

 

 直剣がまっすぐ顔面に迫り、彼女はその切っ先を瞬きもせずに見つめていた―――。


 風魔法ってやつは、そもそも主役級の魔法ではない。あくまでも持論だが、物語に登場するラスボスは風魔法では絶対に倒せない。それに炎や雷といった派手目の演出(エフェクト)がある訳でもない。ゲームの中においても、『序盤は全体魔法で時短できます』的な扱いで地味な立ち位置なのだ。


 ―――それでもこの世界の俺は風の魔法に愛されていた。

 

 風はどんな時にだって吹いているし、どんな所へでも流れていける。優しく流れる風は人を癒し、激しく吹きつける風は時に雷雨を運ぶ。

 

 時間の流れがやけにゆっくりに感じた。カラミヤが目を閉じるのが見える。

 俺は迷うことなく風の魔法を体に纏わせ―――包囲の輪を縫ってカラミヤとの間合いをゼロにした。


「―――っつ!!」


 彼女の体を正面から抱きかかえた瞬間、俺は左肩に焼けた火箸を押し当てられたようなひりつく痛みを感じた。


 俺の登場に驚いたカラミヤが目を開け、不思議そうな顔で見つめてくる。なんとか間に合ったが‥‥‥直剣につらぬかれた肩が痛てぇ。


「しっかり掴まれ」


「‥‥‥」


 無言の彼女の両手が俺の背中へ添えられた。

 そのままルールーの所まで後ろ向きに体を滑らせる。

 移動しながら一瞬だけカラミヤと目が合った。

 

「肩は大丈夫すっか?」

「おまえは壁に集中してろ。はさみ撃ちになったら終わりだ」


「りょー」


「いいかげん離れてくれないか」

「はっ―――!?」


 俺の言葉に体をびくりと跳ねさせたカラミヤが距離を取った。


「野良猫のおねえさん、顔が真っ赤っすよ」

「っな!?」


 不肖の弟子見習いよ、俺は集中しろって言ったよな‥‥‥こういう状況で事を混ぜるな。


「ま、真っ赤じゃねぇえええーしっ! 誰が野良猫だぁあああ!?」

「真っ赤っすよ。師匠、リンゴみたいに真っ赤っすよね?」


「や、やめろメスガキ!」

「メスガキってなんすか? ボクにはルールーって名前があるっすよ」


 さっきまでカラミヤを包囲していた衛兵たちが、いつの間にかこちらに迫っていた。


「野良猫、俺の背中に掴まれ。間合いを詰めたらおまえは左の2人、俺は右の3人を()る」


「‥‥‥肩は、大丈夫なの?」

「これくらいどうってことはない」


 背を向けて立つと、カラミヤの両手が再び俺の背中に添えられた。

 露出の多い衣装の割に、意外と体温が高い気がするな。


 横一線になってこちらへ駆け寄る5人の衛兵たち。

 その眼前に風の魔法を纏った俺たちの体が間合いをゼロにして瞬時に現れる。

 驚いて隊列を崩したところで、俺の背後に掴まっていたカラミヤが野良猫のように飛び掛かった。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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