第13話 夢の中 その2
はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
基本、俺は眠に落ちるまでの時間で、空想世界を冒険している。
しかし現実と夢の狭間をたゆたいながら空想している時がしばしばあって‥‥‥そのまま眠りに落ちることが少なくなかった。そして空想していた世界の続きを、これまでに何度も夢に見ることがあった。
そういう時、チートスキルは使えない。だって、そうだろう? 自分が見ている夢を自在に操ることなんて誰にも出来ないのだから―――。
夢の中だと理解してもなお、心臓が早鐘を打っていた。理屈ではないが、ここで誰も死なせてはいけない、と本能が告げていた。
まもなくこの聖堂は駆け付けた衛兵や出動した軍隊によって包囲されるだろう。すぐに行動しなければ全滅だ。進退窮まって立ち尽くすなか、黒猫に似た影がすっと忍び寄った。
「逃げないのか?」
「もう囲まれてるわぁ」
身軽そうなカラミヤが俺たちと一緒に落下したのは意外だった。
報酬に目が眩めば身を亡ぼすってことは、俺たちの世界じゃ常識だ。1人なら逃げることも出来ただろうに‥‥‥。
大きなため息をついて振り返れば、黒光りするボンデージ衣装に身を包んだ同業者の姿があった。仮面の一部が割れ、整った素顔を晒している。見たところ怪我はなさそうだ。潜伏能力に長け身軽な彼女ならこの瞬間でも逃げ切れる可能性は十分にある。
「早くしないと突入してくるぞ」
「‥‥‥そうねぇ」
もったいぶった言い方。カラミヤ・ハルは何かを思案しているようだった。俺の顔から視線を外さない。
そして、「あたしと組まないかしらぁ」と言って艶然と笑った。
「断る」
「あらぁ~つれない態度ねぇ。報酬は山分けってことでどうかしらぁ?」
今回の暗殺は、依頼主に特別な報酬を提示されたことから始まった。で、なければ暗殺―――に見せかけた王女の保護という危険な橋は渡らなかった。その脆くて危険な橋は、いま真ん中からポキリと折れかかっているのだが‥‥‥。
カラミヤ・ハルの言う報酬と、俺が提示された報酬が同じものならば、山分けという言葉は適切ではない。
だからこそ、「いいだろう」と前言撤回した。
俺たちのいる聖堂は石造りの巨大な建物で、ガラスに突っ込んで落下した場所は、吹き抜けの天井に祭壇がある厳かな空間だった。
まだ俺たち以外の気配はないが、聖堂の外は殺気に満ち武具が奏でる騒がしい音が響いていた。
「少し時間を稼いでくれ」
「相手の数にもよるわねぇ~」
「師匠、ボクもやれるっす」
カラミヤ・ハルは鋼のムチを手に祭壇横の通路を凝視していた。
ルールーは正面に当たる入口に向け両腕を伸ばしている。
「任せたぞ、野良猫」
「あぁああん!?」
「‥‥‥巨乳」
「てめぇ、殺すぞ!!」
「お願いします、お姉さん」
半眼で俺を見据える女暗殺者は、ふんと鼻を鳴らした。
「カラミヤでいいわよ。そうそう、サキュバスのメスガキっ! あたしの顔蹴ったのはしっかり覚えてっからな!」
「し、師匠が、師匠が命令したんっすよ‥‥‥」
キャラが安定しない黒猫だった。すぐ師匠を売るルールーはカラミヤに絡まれて青くなっていた。
こんな状況で軽口をたたいているが、いざ突入が始まれば長くは持たないだろう。
現実逃避の空想が夢のなかに引き継がれた状況では、チートスキルは使えない。
なだれ込んだ衛兵たちに圧殺される場面を幻視して、恐怖を覚えた。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。
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