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第12話 夢の中 その1

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 俺は風を操る魔法使いだ。

 魔法を自身の体に纏えば、少しの距離なら滑空できる。空中に飛び出した俺の腰には必死な形相のルールーがしがみついていた。


 腕には血の気が失せた顔色のお姫様を抱いていた。自分を含めて3人までなら、なんとか距離を稼いで無事着地できるだろう。


 ―――うん!? 


 どうもおかしい‥‥‥緩やかな放物線を描いて降下していく想定なのだが、俺たちはなぜだか急降下していた。


 足首のあたりに違和感があった。恐る恐る確認すれば、蛇のような何かが絡みついていた。目を(すが)めてみればどこかで見たことのある鋼のムチだった。 

 

「ルールー、蹴り落とせ」


 垂れ下がるムチを辿れば、女暗殺者カラミヤ・ハルがぶら下がっていた。黒猫が生きていやがった。


「あらぁ~つれないことを言わないで―――って、やめろぉおおお! 蹴るんじゃねえ! 殺すぞメスガキ~!!」


「師匠ぉおおお、この人こわいっす」 


 涙目で言いながらルールーの足がカラミヤ・ハルの顔面を踏みつける。


「―――ちょ、やめ、マジ殺すかんなぁあああーーー!!」


「このままだと地面に激突する」

「か弱いあたしを見捨てるなぁあああ!!」


「弱くはない―――離せ!」


 ルールーの足先をかいくぐりカラミヤ・ハルが鋼のムチを伝い登ってくる。そして俺の足へと抱き着いた。


「いやぁあ!! 絶対に離さねぇからっ!」

「このままだと全員死ぬぞ!」


「イヤっ!! 死んでも離さねぇえええ!!」


 ボンデージ衣装に包まれた豊満な胸がぐいぐいと俺の足へ押し付けられる。うーん、やっぱり助けようかな、と本能が囁く。


「メーデー! メーデー! し、師匠ぉおおお~ 墜落するっす―――!」

 

 眼前にぐんぐんと地面が迫る。体は斜め下に急降下を続けた。 


 そして、


 ―――ズッ、ドォォォオオオン!!


と、王城の敷地内にある聖堂の壁面をかすめたと思ったら、神話の神々が描かれているステンドグラスを突き破った。


 粉々になった色とりどりのガラスが、月明かりと聖堂内のほの暗い照明を反射してキラキラと輝き、冷たい床に転がっている俺たちに容赦なく降り注いだ。


 ―――うぐっ!!


 立ち上がろうとした右足に力が入らなかった。それどころか激しい痛みに見舞われる。どうやらセリーナ・リューレインをお姫様抱っこで着地した衝撃に、足の骨が折れてしまったようだ。


「師匠ぉぉぉおおおー! 大丈夫っすか!?」


 対の角をさらけ出し頭から血を流してこちらへ近づいてくる不肖の弟子見習い。自分の状況を顧みず俺のそばへ駆け寄ってきた。


「お前のほうは大丈夫か? 血が出てるぞ」

「ボクのことより師匠っすよ。あ、足が変な方向に曲がってるっす!?」


 見れば骨折したと思われる俺の足―――つま先が本来なら絶対に曲がらない方向に‥‥‥。


「曲がってるな」

「やっちゃいましたね」


「やっちゃったな」


 俺のいまの状況は、額が割れて血がドクドクと流れ出し、左わき腹は肉がえぐれていた。それに加えて右足首の複雑骨折ときたもんだ。


「―――ううっ!」


 腕の中で意識のないセリーナ・リューレインがうめき声を上げた。鎧の隙間からとめどなく真っ赤な血が流れだし、どんどんと生気が失われていくのがわかる。


「まずいな‥‥‥これでは暗殺の任務が失敗する」


「成功の間違いでは‥‥‥???」


「いやここで死なれたら失敗だ。おまえには黙ってたが―――」


「ううっ‥‥‥」


 眉間にしわを寄せたセリーナが再びうめき声を上げた。


「この人、死んじゃうっすよ」


 心配そうにセリーナの顔を覗き込むルールー。状況を整理するため聖堂の冷たい床にいったん彼女の体を横たえた。

 あまり時間がない。目の前には、直剣に貫かれて腹部から大量出血している瀕死のセリーナ。そして、おそらくは軽傷のルールーと重症の俺‥‥‥もうまともに戦うことも逃げることもできない状況だった。


 それなのに不肖の弟子見習いが、期待を込めた眼差しを俺に向けていた。


「あれっすよ、あれ。師匠、いつものやつは!?」

「いつものって、なんのことだ」


 ルールーの言ってることは、たぶん俺のチート能力のことだろう。しかしまて、なんでルールーが俺のスキルについて知ってるんだ?

 あのチートスキルは現状を修正する能力なのだ。だから修正された現状以外の認識を俺以外は持てないはずなのに‥‥‥ルールーはまるで修正前の記憶があるような言い回しだった。たしかに俺が能力を発動すると、しばしルールーは混乱する様子を見せていた。


「う~ん‥‥‥いつもだったら師匠に都合のいいことが起こるような‥‥‥ボクはなにを言ってるんっすかね‥‥‥!?」


 腕を組んで頭を左右に傾けるルールー。もしかしたら俺のチート能力を誰よりも近くで体験したことで何らかの影響が残っていたのかもしれない。


「ダメなんだ」


 俺は不安そうな表情のルールーを見て首を横に振った。

 あの時―――顔に火傷の痕が残る男―――リクトールが登場した場面で気づくべきだった‥‥‥


「な、なにがダメなんっすか!? 言ってる意味がわからないっす」


 混乱したルールーは、意識のないセリーナと俺の顔を交互に見て頭を掻きむしる。


「現状は修正できない‥‥‥」


 誰に向けた言葉でもなかった。呟いた言葉が聖堂の冷たい床にこぼれ落ちた。

 

 俺は目を閉じて眠りに落ちるまでの時間、嫌な事を考えないための現実逃避の手段としてこの世界を空想する。

 登場する主要なキャラクターの多くは、現実の身近な人物―――自分にとって害のない存在を投影していた。一部例外は復讐を誓ったコンビニ店員みたいな存在だけ。


 だから顔に火傷の痕が残るリクトールという人物は、けしてこの世界に登場するはずがなかったんだ‥‥‥。

 俺は気づいてしまった。眠りに落ちているということに―――いま夢を見ているのだということに。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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