表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/44

序話

 はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 スローな立ち上がりですが、10万字を目指して頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 部活を終えた俺たちは、夕暮れの土手道を一緒に歩いて帰っていた。

 隣にはいつものようにマネージャーであり幼馴染の芹那(せりな)の姿。

 ポケットの中でスマホが微かな振動を伝えた。


陸人りくとからだ」


 取り出したスマホの画面を確認して、隣を歩く芹那へと差し向けた。


「えぇ~コンビニ寄るの?」


「買って帰らねぇーと陸人のヤツがうるさいだろ」


俺たちの親友はコンビニの唐揚げがご所望らしい。寄り道の不満を表明した芹那は、頬を膨らませて俺を睨む。


 明日は土曜日で学校はない。陸上部も3年生の学校行事で休みとなっていた。

 だから今夜は、俺の部屋に集まって今ハマっている対戦ゲームに興じることになっている。


 俺の部屋(子供部屋)は大工である父親が庭先に建てたもので、母屋とは別棟になっていた。

 そのため普段から親友の陸人や幼馴染の芹那が気兼ねなく入り浸っているのだ。


 こんな俺たちの関係性を知った級友は、『陽キャ』だの『リヤ充』だのと囃し立てたりするのだが、俺たちにとってはなんら変わらない日常であって当然そんな意識はない。


 コンビニに立ち寄ると、反対していた割に芹那は大量の菓子を購入した。その結果、俺はいつもと同じで荷物持ちに‥‥‥。


「あれ、何‥‥‥!?」


 次の角を曲がれば自宅まで目と鼻の先。

 突然立ち止まった芹那が、真っ赤に染まった空を見上げて指を差した。


 そこに見えたものは、勢いよく立ち上る蛇がとぐろを巻いたような真っ黒い煙。すぐに真っ赤な空の色が夕焼けだけのせいではないことが理解できた。


「火事‥‥‥なのか? はっ―――!? い、家の方角!?」


「―――えっ!?」


 事態に気づいた俺たちは同時に駆け出していた。

 先の角を曲がると、立ち上る黒煙の発生源が自宅の庭先だと確認できた。


「芹那はここにいろ!!」


 そう言った俺は敷地の外で芹那を待機させ、迷わず庭先へと飛び込んだ。

 そこでは―――平屋の俺の部屋が燃えていた。外からでも熱を感じる。窓ガラスは粉々に割れもの凄い勢いで黒煙が吐き出されていた。


 中には親友の陸人が居るはず。無事に逃げ出している可能性を考えつつも、どこかで最悪の事態を想定していた。


「陸人ぉおおお!!」


 入口の外から呼び掛けてみたが返事はない。

 少しの逡巡の後、俺は意を決して中に飛び込んだ―――。


「熱ぃー!」


 吸い込んだ空気が尋常じゃない熱を肺に届けた。口元に手をやり息を止める。ぱちぱちと何かが爆ぜる音がして、すぐに真っ黒い煙に巻かれてしまった。


「ごほっ、ごほぉ―――陸人ぉおおお!! いるのかぁあああ!?」


 煙で目が染みて、溢れ出た涙がさらに視界を悪くした。

 中に入ると不思議なことに、親友がまだこの場所に留まっているという確信が生まれる。


 天井にまで届いた炎が、霞む視界をオレンジ色に染め上げた。もう一刻の猶予もない。勇気を振り絞って足早に奥を目指す、とそこに親友の姿を認めた。


「陸人ぉおおお! 何をやってんだ!? 早くこっちへこい!!!」


 そう叫ぶと、茫然自失したように立ち竦む親友が、はっと我に返って振り向いた。

 その瞬間、近くにあった本棚が崩れるようにして倒れ掛かり―――、


「―――危ねぇえええーーー!!」


と叫んだ俺は咄嗟に駆け寄って、本棚と親友の間に体を滑り込ませた。

 

 背中に火箸を押し当てられたような激しい痛みを感じた。陸人の体は俺の体に弾き飛ばされるようにして床に転がり、その勢いで燃え上がる炎に頭から突っ込む。


「うぁあああーーー!? あ、熱いぃいいい!!」 


「に、逃げろ陸人‥‥‥!?」 


「うああああ、顔がぁあああ! 痛いぃいいい!!」


「―――立てぇえええ! 陸人ぉおおお!! ごほっ、ごほっ‥‥‥早く、逃げるんだ!!」


 パニックを起こした親友。

 俺は煙混じりの熱い空気を肺一杯に吸い込んで、鼓舞するように声を絞り出した。

 

 張り上げた俺の声が届いた陸人は、爛れた真っ赤な顔をこっちに向け、本棚の下敷きになっている俺の状況を見て驚きで目を見張る。


「ごほ、ごほごほっ‥‥‥早く―――逃げろぉおおお!!!」


 立ち上がった親友―――俺はその背中を押すように、追い立てるように最後の声を振り絞った。


 ―――陸人と視線が交わる。


 その目は「ごめん」と言っているように感じた。

 そして親友は唇を強く引き結ぶと背中を向けて入口の方へと駆け出した。


 本棚が見た目より重くて、俺はもうそこから動けそうになかった。

 炎のまわりが早い。


 ―――嗚呼、俺はここで死ぬんだな‥‥‥


 意識が朦朧とする中、俺はそんなことを考えていた。

 視界が明滅を繰り返し‥‥‥瞼を閉じる‥‥‥。


「しっかりして!!」


 聞き間違えようのない凛とした声音が耳朶を打った。

 暗闇に沈みかけた意識が呼び戻され、俺の瞳はハッキリと幼馴染の姿を映す。


「バカ、野郎‥‥‥な、なんで‥‥‥ここに!?」


「ほら、1、2の3で立ち上がって」


「無理だ‥‥‥芹那は逃げるんだ」


「絶対に嫌っ!」


「‥‥‥もう動けない。ごほ、ごほ―――お願いだから逃げてくれ」


「じゃあ一緒に死ぬ」


「バカ、言うな‥‥‥!」


「駿のほうが馬鹿だよ。あなたが死んだら私はどうなるの!? だったら私も一緒に死ぬ」


「ああ、くそぉおおお!! なんでそんなに我儘なんだぁあああ!!!」


 背中に覆い被さっている本棚が炎に包まれていた。

 俺は最後の力を振り絞って、腕立て伏せの要領で体を持ち上げる。ふと背中が軽くなった気がした。


 そのまま中腰になり体を前へ―――俺はその時、両腕を炎にあぶられ痛みに耐えながら本棚を引っ張っている幼馴染の姿を見た。


 俺たちが子供部屋から脱出するのと同時に、消防車と救急車が到着した。

 火事の後、警察と消防が現場検証を行ったが、結局、火事の原因は不明とされた。


 でも俺は、火事の原因に少しだけ心当たりがあった。それは初めて組み立てた自作パソコンの不具合だ。火事が起こる少し前から異音がしていた。


 その事を俺は言い出せなかった。親友と幼馴染は火傷を負っている。傷は癒えても跡は確実に残るだろう。

 俺は怖かった。火事の原因が自作パソコンの不具合だったとして―――大切な人を傷つけた俺自身の責任を考えると、家から出ることができなくなった。

 

 そして俺は―――あの日から聖域の守護者となったのだ‥‥‥。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも3話以上(毎日が理想)の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ