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ムーラン・ルージュ!  作者: 千代田 昌子
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別荘での出来事


 土砂降りの雨の中、少年が小さな女の子を抱えて走り過ぎていく。何かに追いかけられていないか、目を見開きながら後ろを振り返る。


 少年は何度か後ろを振り返りながら、小さな雑木林の小道を走り続けた。


 走っていく中で、少年は時折何かを思い出していた。そして歯を強くかみしめて目を閉じ、女の子の頭に自分の頭を付けて、


「畜生・・・。」と呟いた。


 林を抜け、崖を下り、たどり着いたのは大きなマリア像が飾られている教会だった。その入り口にある門に着くと、少年は小さな女の子を寝かせ、自分の上着を脱いで少女にかけた。


「ここなら大丈夫だ。・・・大丈夫だよ。」


 声を絞り出すようにそう言うと、少年は教会の方に石を投げつけ、来た方向へと走り出していった。




 少年は少女を協会に預けたことで少し安堵したのか、街灯から少し離れた木の側で立ち止まり、木に寄りかかりながら大きくため息をついた。


 別荘の中での出来事が蘇っていく。


 祖父と同じ政治に関わる大人たちが沢山、祖父の別荘に集まっていた。僕は夜中に目が覚めたので、用を足すために部屋から出た。用を済ませた後、部屋に戻ろうとしたら、一番奥の部屋のドアが開いていて、部屋の明かりが漏れていた。その部屋から、何か猫の泣き声のような声がした。


「あれ?猫でも迷い込んだのかな?」そう思って、明かりのその部屋の方に近付いていくと、こっそりドアから部屋をのぞいてみた。


 大きな円卓のテーブルの上に、角のある羊のような大きな像が置かれていた。その周りには赤い蝋燭が並べられ、その蠟燭と同じ数のワイングラスが6つ並べられている。そして大人たちが一点を見つめていた。


 テーブルの上には女の子が仰向けに寝転んでいた。


 目は開いているが、呆然としている。まるで意識が無いようだった。誰かが、その口元をガーゼで覆った。そうするとその子は目を閉じた。それはまるで、何かのドラマに出てくる、気絶させるための麻酔薬をかがされたような様子だった。


「うーーん。」女の子は少し意識があるようで、小さな唸り声を上げた。さっきの猫の鳴き声は、この子の声だ、、、!


 テーブルの近くの椅子に、もう一人女の子が座っていた。あれは幼馴染の燈子ちゃんだ。燈子ちゃんも意識がもうろうとしている様だった。


燈子ちゃんのお父さんとお母さんはどうしたんだろう。


 不思議に思って燈子ちゃんたちが宿泊している部屋に行ってみた。ドアの鍵はかかっていなくて、燈子ちゃんのお父さんとお母さんはぐっすり寝ていた。


「どうして、燈子ちゃんだけあの部屋にいるんだろう。」そう思って、何度か燈子ちゃんのお父さんとお母さんを起こそうとしたが、全く反応が無い。


「これ、まさか眠り薬でも飲んでいないよね。」


そう思った瞬間、なんだか嫌な予感がした。急いで元の部屋に戻ってみると、


「ぎゃっ!」という声がした。テーブルに横たわっていた女の子の首から血が出ていた。大人たちがおかしな表情でワイングラスを手に取っていくと、女の子を抱き上げ、首から血を滴らせ、それを一息に飲んでいく。


 僕は体が震えた。どう見ても本当に切り刻んでいた。何が、一体何が行われているんだ!


 ぴくぴくと動いていた手足から力が抜け、ぐったりと首を落とすと、誰かが女の子の頭の辺りにナイフを振りかざし、ゴソゴソとしていた。血だらけの手にある、小さな塊を上にかざして恍惚とした表情でそれを見ると、それを口に運んだ。咀嚼したあとに飲み込むと、目をガッと見開き、


「う・・ははははは!」


と嬉しそうな声を上げ、目を見開いて笑っていた。



 その時、ワイングラスを置いた誰かが燈子ちゃんを別の部屋に抱きかかえていこうとした。その人も不気味な笑い声をあげていた。


見つからないように、急いで僕は柱の陰に隠れた。


「助けなきゃ・・・助けなきゃ!!」 


 震えながらも燈子ちゃんが連れていかれた部屋に向かった。


「・・・・!」大人の男の人の話し声が聞こえた。


「この子を見てみろ、この美しい顔、瞳は薄い灰色なのか、青なのか。高貴な血筋ゆえに、罪深い美しさだな。大きくなってこの美しさで罪を犯していくならば、その前に私のものにしようじゃないか!」


その大人の人は燈子ちゃんに顔を近づけていった。その人は僕には気が付いていない様だった。僕は部屋の中を見回すと、大きなガラスの灰皿が目に入った。


ぼくは-、近くにあった大きなガラスの灰皿でその人の頭を殴った。


 服装の乱れている燈子ちゃんを抱きかかえ、柱の陰に隠れながら部屋から出た。


 誰かに付けられていないか確認しながら、後ろを振りかえった。


別の誰かが廊下に出て来た。あれは・・・。


「お父さんだ・・・!お父さんは、あの部屋には居なかったのに・・・!」


僕は見つからないように、急いで別荘の外に出た。




 教会の建物の入り口に明かりが点いた。中から白人の神父が傘を差し、出てくる。神父は門のところに着くと、

「Oh!」と声を上げる。


「Oh My God !Oh My God !」


 急いで少女に駆け寄り、少女の額とのどを触る。


「Has a pulse !Warm up quickly !(脈はある!急いで暖めなければ!)」


 神父は少女を抱き上げ、急いで教会の中のへ走り出した。神父は毛布を持って来ると少女を包み、電話をかける。そして発音が日本語らしくない日本語で、話し出す。


「シスター、夜中にすいません。入口の門に女の子が倒れていました。急いで来てくれませんか?」




 そしてシスターが2人来て、少女の体を拭くためにタオルを集め、少女の衣服を脱がしていく。その時、一人のシスターが、


「このアザは何?それにこの子、何だか薬草みたいな変な匂いがするわね。」


「なんだか・・なんだか服が乱れていない?」


「えっ?・・・。」そう言ってもう一人のシスターが衣類を確認する。


「もしかして、この子は・・。」


愕然とする2人のシスター。


 二人は顔を合わせる。そして、もう一人のシスターが神妙な顔で言う。


「この子はまだ小さいわ。このことは伏せておきましょう。服を整えてあげて、すぐに警察に連絡を。」




 1時間もしないうちに、教会に警察のパトカーがやってきた。少し離れた林の中で、僕はまだ協会の様子を見ていた。僕に気が付く人は誰もいなかった。


 遠くでも別の救急車の音が鳴り響いていた。多分、さっきまでいた別荘の方だ・・・。



 どれだけの時間がかかっただろうか。僕は別荘に辿り着いた。あの森の小道で、燈子ちゃんと一緒に探検をした事があった。百合の花を見つけた僕は、綺麗な燈子ちゃんに似合うと思って、百合の花を一輪切り取って、燈子ちゃんの髪に近付けてみた。


 木々の隙間から太陽の光がこちらに降り注いでいた。


 キラキラ光る大きな瞳。透明なガラスのような灰色の瞳。僕はまだ子供だったけれど、燈子ちゃんの美しさに、目を奪われていた。

挿絵(By みてみん)



 呆然として自分の部屋に戻った時、僕の部屋にお父さんがいた。お父さんは僕を見ると立ち上がり、怖い表情で僕の襟元を掴み上げ、僕を殴ってこう言った。


「燈子は何処だ!」


「教会に・・・!教会に助けてもらった・・!僕、男の人をガラスの灰皿で殴った。あの男の人はどうなったの?」


お父さんは怖い表情で僕の襟元を掴み上げ、続けてこう言った。


「今日の事は全て片付けておいた。見たことは誰にも言うな!いいか!」


そう言うと、お父さんは僕を床に突き飛ばした。


「このことは絶対に母さんに行っては駄目だぞ。そして、蓮司。お前はこれから先、燈子がこのことを思い出して他の人間に話しはしないか見張っているんだ。もし、今日のことを燈子が覚えていたら、必ず口止めして、私に報告するんだ。いいな。」


「首を切られた女の子は・・?」


「あれは今日連れてこられた孤児院の子だ!どうなったかは知らんでいい!!」


「はい・・。分かりました!」


お父さんの顔があまりにも怖くて、僕はもうそれ以上何も言えなかった。 

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