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風神の恋(2)

 砂嵐の砂漠を北へと向かう一向、シルフィーとクラウス。そして幼い少女、オルガの前に、砂嵐をかき分けて旅人が現れる。

彼は言う。


「君たちを探していた。」

 その言葉を聞き、クラウスはシルフィーたちへと振り返った。


「知り合いか?」


 シルフィーは首を振った。


「いいえ。」


「・・・だそうだ。」


 クラウスは向き直ると剣を抜いた。


 しかし、男に敵意は無いように見える。その証拠に、剣を構えた相手に対して、身構えようとすらしない。


「戦っても構わないが、君たちにとっては無駄な時間だぞ。」


 彼は無防備に両手を上げて、手のひらをこちらに向けながら笑顔で言う。


 妙に脱力した男の様子に、クラウスも戦意が失せたようだった。ため息を吐いてゆっくりと剣を鞘に収めた。


 そして、後ろのシルフィーに目配せをする。


「いいか?」

と目で尋ねている。シルフィは小さく頷く。


「ありがとう。私を信用してくれるようだな。ならば、私が君たちを安全に砂漠の端へと連れて行こう。」


 言うと、彼は「ついて来い」と手のひらを煽って手招きをする。


 暫く彼について歩く途中、彼の上にぽっかりと空いた砂塵の割れ目から見える空に、星が光っていることに気がついた。


 もはや、ランタンが無ければ足元もわからない。


「風たちもそろそろ眠る時間だ。」

などと前を歩きながら、男は呑気に言った。


 彼がそれを口にしてから、不思議なことに嵐も和らいでいき、静かな夜になった。しかし、先ほどよりは暗くない。大きな月の明かりが白い砂の絨毯を照らしていた。


「砂漠の端はもうすぐだが、夜は夜行性の生物も居て危険だ。ここらでキャンプにしないか?」


 男は提案した。


「分かったわ。」

とシルフィーは答えて、抱えていたオルガを下ろした。


 地面に降りたオルガはローブのフードを下ろし、シルフィーにしがみ付くようにして彼女の腰に顔を埋めた。シルフィーは彼女の頭を優しく撫でてやる。




 一行は砂の上に荷物の中から敷物をそれぞれ敷いて腰を下ろした。


 火を起こすと、シルフィーは暖を取りながらオルガを休ませた。


 オルガは頭をシルフィーの膝の上に乗せて横になっている。シルフィーはその頭をしきりに撫でてやる。


 オルガは心地良さそうに目を閉じた。

 彼女の長い黒髪をすくように指を滑らせると、砂塵が纏わりついてざらざらとした感触がした。


 今は大丈夫なようだが、慣れない環境にオルガは体調を崩していた。


 出来るだけ早く砂漠を通り抜けたかったが、かえって彼女を疲れさせてしまったかもしれない。


「君たちは、その・・・」


 男は静かに言うと、三人をゆっくりと見回した。「家族なのか?」と問いたいのだろう。


「・・・えっ、ち、違うわ。」


 意味を理解したシルフィーは慌てて否定する。

 彼女が慌てたのは、隣の男、クラウスと夫婦と思われることを嫌ったからだった。


 シルフィーには生き別れた恋人が居る。今でも彼女は彼を想っているが、向こうがどう思っているのか、そもそも、まだ生きているのかすら分からない。


 男は可笑しそうに笑った。


「違うのか?その割にはその子は君に懐いているな。それに、そちらの男を君は信用しているように見えるが・・・。」


 確かに側からみれば彼らが家族のように見えるだろう。しかし、実際に彼らの関係を説明するには、家族や友人と言った言葉は適切ではない。


「色々と複雑なのよ。」


 シルフィーはオルガの寝息が聞こえて、撫でる手を止めた。


「ところであなたは何者?」


 顔を上げるとシルフィーは聞いた。


 この男、敵意は無いようだが、こちらを探していると言った割には、先ほどの質問のようにあまりこちらのことを知っているとも言えないようだ。


「・・・かつての風神、とでも言えば良いか。」


 男は火の中に視線を落としていた。火の加減を見ているらしい。


 シルフィーとクラウスは視線を交わす。普通なら自分を風神だと言う男が居れば、「この男は頭がおかしいのだ」と思うが、さきほど砂塵を掻き分けて悠々と現れたところを見ると、あながち一笑にして終わるわけにもいかなかった。


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