第七十話 仮初の記憶
シーパは船の方をしばらく見ると、一瞬で俺の目の前に移動した。
「久しぶり、輪くん、びっくりした?ねぇねぇ、びっくりした?」
な、なんだこいつ、今までと全然違う。全てが違う。
「私ね、あれから必死に特訓したの、それこそ血のにじむような努力を。あなたを殺したくて殺したくて。それでね、今見せたこの天災、ウェーブはその末に手に入れたの。」
シーパが無防備な状態で俺に話しかけ、その隙にマーリンが包帯を解こうとすると、
「今はしない方がいいんじゃないかしら、それよりあなたは船長の元に行った方がいいんじゃない?」
「!!」
そう言うと、マーリンはすぐに船の中に走っていった。
「さあ、始めましょうか、殺し合いを!!!」
「くっ!」
俺はすぐに剣をぬこうとすると、その一瞬でシーパは俺の体を斬り裂いた。
「がはっ!」
は、速すぎる......見えなかった......
「どう?強くなったでしょ?」
剣を抜き、シーパに斬りかかるが、その全てを躱される。
「遅い、遅すぎるわ、全部見える。」
なら!
俺はオーバーアイを発動し、攻撃を再開する。
が、先程まではいかないが、ほとんどを防御される。
「もっともっと!楽しみましょ!!」
「おいノア、大丈夫か!!」
マーリンは操縦室に行くと、ノアと船員数名がいた。
「あまり、大丈夫じゃないみたい。津波で船が押し出されて、岩にぶつかった。このままじゃ沈没する。」
「そんな......」
周りの船員が慌てる中、マーリンはノアの顔を見た。
「どうすれば、こんな時、どうすれば。ホイ......」
マーリンは少し考えると、
「我が少しの間食い止めよう」
「「!!」」
船員全員がマーリンの方を向いた。
「我は時空の番人マーリン、少しの間ならこの船の沈没を食い止められる。」
包帯と眼帯を解き、マーリンは操縦室の機械に触る。
「な、なにを。」
すると、傾いていた船が元の角度に戻った。
「我が食い止めてる間、お前らはすぐに壊れた箇所を修復するんだ!!」
ノアがマーリンの後ろ姿を見ながら、
「わかった!!」
すぐに周りの船員に指示を出しその場から動き出した。
「えい!!」
シーパの攻撃を受け船上から船の中まで落とされる。
「そーりゃ!」
上からシーパが落ちてきて、俺の腹に刃が突き刺さる。
「とりゃ!」
そして、横に切り裂かれる。
「ぐあああ!!」
い、痛い......
そして、俺の腹の中にシーパが手を突っ込み、
「あはは、やっと見つけた!」
内蔵を抉り出す。
「ごほっ!」
あまりの痛みに涙が流れる。
シーパが内蔵に見とれてる隙に、腕を動かし、剣で斬る。
それをシーパは余裕な表情で躱し、後ろに引く。
すぐに魔法で腹を治癒し、剣を構える。
「ねぇ、私も本気を出すから、あなたも出してよ。」
まだ、本気じゃなかったのか!?
俺は驚き、本気で死を覚悟した。
だが、死を覚悟すると、いつもあいつのことが頭に浮かぶ。
エミナ......
その瞬間、俺は目を閉じた。
そして、呼吸をはやくする。
もっとだ、もっと速く......
体の至る所にある血がどんどん速く流れていくのを感じ、全てが覚醒する。
目を開き、俺はシーパを見た。
オーバードライブ
「やっと本気を出してくれた、それじゃ、私も本気を出すわね。」
ごめん、ノア、多分この船はぶっ壊れると思う。
「その部分は7人で修理に向かって!あとは僕がやる!」
船員全員をそれぞれの箇所に向かわせ、ノアは残りの部分の修理に向かう。
(マーリンが食い止めている間になんとしてもこの船を動かせるようにする。これは僕たちの、大事な船なんだ。)
ノアは昔のことを思い出す。
「おーい、ノアー!」
草原で本を読んでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「なんだい?ホイ。」
声の主はホイ、ノアの親友である。
「旅に出よう!」
ノアは一瞬ポカンとするが、すぐにふふっと笑った。
「もう何回もこの島を旅したじゃないか。」
すると、ホイは首を横に振り、
「違う違う、こんな小さな島じゃなくて、もっと大きな島に旅に出るんだ!」
そんなことを言うホイにノアは呆れながら、
「無理に決まってるだろ、この島の周りには海が広がってるんだから。」
「だから、作るんだよ、僕達で他の島にもいける乗り物を!!」
ノアは一瞬びっくりし、すぐに無理だと言おうとした。
しかし、ホイの目は輝いていた。
「設計図はもうできてるんだ。」
ホイが大きな紙を広げると、そこには細かく書かれた設計図があった。
「僕達で作るんだ!この世界をどこまでも旅できる乗り物、そう、船を!!」
ノアはホイの言葉を聞き、わくわくした。
自分はどうせ、この先どんなに努力しても結局凡人のまま終わるのだろうと思っていた。
しかし、この船を完成させれば、自分は周りの人達から賞賛され、満足のいく人生を歩めるのだと思った。
そこからは必死だった。
何度も何度も設計図を見直し、周りの木を使い、2人で組み立てていった。
そして、
「できたー!!」
何日もかけて作り上げた船は若干不格好ながらも、何とか人が乗れるようになった。
「それじゃ明日の朝、出発しよう。」
ノアは家に帰り、明日が楽しみで楽しみで仕方なかった。
「それじゃ、行くか!」
二人が船に乗るが、船は軋むこともなく、海に浮いた。
「これで漕ぐんだ。」
ホイから櫂を渡され、二人で一生懸命漕いだ。
「ちょっと大変だね。」
「まぁそこら辺はぼちぼち改善していこう。」
必死に船を漕いでいき、ふと後ろを振り向くと、自分たちの島がすでに見えなくなっていることに気づいた。
「僕達、島から出たんだ。」
(ここから僕たちの旅が始まる。)
ノアは心が踊り、楽しそうに船を漕いだ。
しばらく漕いでいると、目の前に島が見え始めた。
その島は自分たちのいた島より何倍も大きく、二人はどんどん船を漕いだ。
すると、
「なんか、雲行きが怪しくなってきたな。」
突然、空が黒くなり、やがて雨や津波が訪れた。
「まずい、早く島につかなくちゃ。」
先程よりも速く船を漕ぎ、島につこうとしたが、津波で思うように進まず、船がひっくり返った。
「げぼっごほっごほっ」
「ノア、大丈夫か!?」
船がひっくり返った衝撃で海の水をたくさん飲んでしまい、ノアは溺れてしまった。
「ノア!!」
海の中へ沈んでいくノアをホイはすぐに助けようとし、海に潜った。
「......げほっごほっ!!」
ノアが目を覚ますと、そこは先程目の前に見えた島のようだった。
「ホイ!?」
横を見ると、ホイが倒れていた。
(僕を助けてくれたんだ。)
「ホイ、もう大丈夫だ、島に着いたんだよ!!さあ、旅をしよう!」
ホイの体を揺さぶりながら、声をかけ続ける。
しかし、ホイは目を覚まさない。
「ホイ!!起きて!お願いだから!」
蘇生術を何度も繰り返していくと、ホイの口から水が吐き出る。
「ホイ!!」
「げほっごほっ!ノア......生きてるかい?」
ホイの意識が戻り、ノアは安堵する。
「生きてるよ、よかった、すぐに病院に連れていくよ。」
ホイを担ごうとすると、ホイはそれを振り払う。
「もう、無理だ。僕はもうじき死ぬ。」
それを聞いてノアは信じられないと言った顔になる。
「そんな......嘘だよね!?ねぇ、嘘って言ってよ!!」
ホイは腕をプルプルと震わせながら、ふたりと一緒に流れ着いた壊れた船を指さす。
「あの船を使って、もう一度作ってくれるかい?あれよりももっと大きい船を......そして、僕みたいに死にそうな人がいたら、その船で助けてあげて......」
「うん!作るよ!!なんでも作る!だから死なないで。」
「お願い、約束して......」
そして、ホイは死んだ。
「ホイ!!ホイ!うぅぅぅぅ......」
それから数時間その場にじっと蹲っていた。
「......」
心が落ち着き、ノアは立ち上がると、ふたりで作った船に視線を移し、決心する。
「作るよ、約束したからね。」




