第三十八話 冬の歌 その二
「来なさい、天叢雲、八咫鏡、八尺瓊勾玉。」
地面に黒い穴が現れ、そこから三種の神器が現れる。
(いくらご主人様でも、九尾の姿では魔力が足りずに危険......早めに決着をつけねば。)
「さぁ、妾の本気見せてあげましょう!」
リオンは自身の魔力が玉藻の前に送られていくのを感じ、しばらく経つと気絶してしまった。
「行きましょうか。」
玉藻の前のしっぽが九尾になり、服や気配が変わる。
それを感じ、ガブリエルは汗を流す。
「な、これって......」
玉藻の前は一瞬でガブリエルの目の前に移動すると、ガブリエルがそれに気づき、魔法を発動する。
しかし、玉藻の前に当たる寸前、八咫鏡が代わりに魔法を受けると、その魔法がそのままガブリエルに跳ね返る。
「ぐあああああ!!」
その一瞬を見逃さず、玉藻の前の天叢雲を使い、首を切った。
「あと100万年修行すれば、いい線いってたんじゃないかしら。」
ガブリエルが光のように消えるのを確認すると、玉藻の前はすぐに一尾になり、リオンの元へ走った。
「ご主人様!大丈夫?」
リオンは眠るように気絶しており、玉藻の前はホッとした。
(良かった、あと少しでも長引いてたら魔力が完全に無くなってしまう所だった。)
玉藻の前はすぐにリオンの中に入り、眠りについた。
「う、うーん。」
リオンが目覚めると、そこには誰もいなかった。
「玉藻の前、また助けてくれたんだね。」
リオンは少し俯くとすぐに顔を上げ、みんなの元に走ろうとしたところに、ハルネとキイとリーノがやってきた。
「あ、あなたがリオンさんね!」
「ハルネ、キイ、リーノ!」
ハルネ達はリオンを見つけ安心すると、
「さぁ、体をみせて。怪我がないか確認するから。」
リーノがリオンの体を隅々まで見て、怪我がないのを確認すると、
「それじゃ、ルーナたちの元に戻ろうか。」
「くそぉ!!なんなんだこれはぁ!!」
ルーナ達は火山の頂上へ向かうと、突然何かにぶつかり、調べると魔法の壁だった。
「くそ!ロンギヌスの槍でも全然傷つかねーぞ!」
「おーい、みんなー!!」
後ろを振り向くと、ハルネ達がリオンを連れて帰ってきた。
「おぉリオン!見つかってよかった。すまねーが、玉藻の前を呼んでくれないか?」
ルーナがそう言うと、リオンは申し訳なさそうに、
「ごめん、さっきまで玉藻の前が戦ってくれたから、今は休憩中なんだ。」
「そ、そうなのか......」
ルーナはちょっと残念そうな顔をすると、すぐに状況を伝えた。
「とりあえず、この魔法の壁を攻撃するんだ。何としても、エミナを取り戻すぞ。」
俺は暗闇の空間で、ずっと蹲っていた。
頭の中ではずっと、前世での記憶が甦っていた。
信号待ちをしていると、突然、横にいた人が赤信号なのに前に出る。
そこに車が激突し、血が吹き出るのを見る。
学校では、一人の机にたくさんの落書きがあった。そこはいじめられている人のもので今は家に引きこもっていた。
何度かその子の家に行ったが、全て断られてしまった。
ある授業中、生徒と教師がつまらないことで喧嘩し、教師が生徒を殴った。
家に帰り、テレビを見ると、たくさんの事故や死亡のニュースがたくさん報道されていた。
スマホで政治のニュースを見る。
そこのリプ欄には、たくさんの批判コメがあった。
全てが嫌だった、あの世界での全てが。
だから死んだ。あんな世界で生きるより、死んだ方がマシだった。
でも、一緒だった、死んでこの世界に来ても、スリや暴力は当たり前、同じだった。
他となるべく関わらないようにしてた。
でも、一人はいいけど、一人ぼっちは嫌だった。
「もう、死にたい......」
そうだ、死ねばいいんだ。
とっととこんな世界からもおさらばしたい。
背中にある剣を持ち、首を切る。
だが、斬った感触はあれど、首が落ちることは無かった。
「な、なんで......」
次に腕を切る。足を切る。しかし、全て感触はあったが、落ちることは無かった。
じゃぁもう、ずっとここにいようか。
そう思い始めた頃、後ろから音がした。
それが誰なのか、すぐにわかった。
わかったが、俺は振り向こうとはしなかった。
「輪......」
俺が振り向かないので、エミナが俺の前に移動する。
「輪、大丈夫?」
「こっちこないでよ......」
俺はエミナを全力で突き放すが、エミナはずっと目の前にいた。
「ずっといるよ、ここに。」
「おらぁ!!」
サタールは最後の敵を倒すと、流れた血を拭い、ルーナたちが向かった先を見上げた。
「はぁ、はぁ、はぁ、このくらいで息切れとは、俺もまだまだだな。」
サタールがしばらくその場で休んでいると、
「サタール、なんでここに。」
後ろから声がし、振り向くと、アルンとパールがお互いに肩を貸し歩いてきた。
サタールがここに来た理由を話すと、二人は納得し、ルーナ達の元に歩いていった。
「全部が、嫌だったんだ。なにもかと、人間の関係が、人間の行ったこと全てが。でも、同じくらい好きだった。」
しばらく経ち、ずっといてくれたエミナに自分の気持ちを話した。
すると、
「うん、知ってる。」
俺は驚き、顔を上げる。
「私は、あなたの前世の全てを見たの。あなたが感じたこと、やりたいと思ったこと、あなたがどういう気持ちで前世を生きてきたのかを。あなたは、最初は疑り深いくせに、すぐに人を信用しちゃう人。綺麗なものを綺麗と言える人。人前では普通を装うくせに、本性はちょっとクズ。私はずっと前から、あなたが好き。」
それを聞いた瞬間、俺の心臓がドキッとした。
「私がここにあなたを呼んだ理由はね、あなたと暮らしたかったから。あなたの人生を一から見て、あなたの全部を知った。私はそんなあなたが好きになりました。」
俺はずっとエミナの顔を見続け、
「ねぇ、この空間は生と死の狭間、私と君、どちらかが死の淵に経つと自動でこの空間に呼ばれるの。」
エミナは間を空けると、
「ずっとここにいようか、二人でずっとここに。私ね、もうすぐ死ぬの、生贄にされて、そうすれば、君たちは元の世界に帰れるはずなんだ。」
俺はエミナの話を聞きながら、
「そうだね、ここにいてもいっか。」
エミナは俺の手を掴む。
「でも、それでいいの?」
俺は掴まれた手を見ると、次にエミナの顔を見る。
その顔は泣きそうだった。
「私、あなたと一緒に世界を見たい!あなたと一緒に暮らしたい!」
俺はその言葉を聞き、ハッとする。
「ねぇ、君はどう?私と一緒に、暮らしたい?」
俺は考える。
そうだ、俺はこの世界で、生きていたんだ、前世で出来なかったこと、やろうと思っていたことを、アイツらと出来ていた。アイツらが大事で、アイツらが大好きで、エミナとも、また一緒に旅をしたい
「うん、俺はお前と一緒に暮らしたい!世界を見たい!」
俺は涙を流しながら、エミナと一緒に立ち上がる。
「そうだね、うん、そうだね!」
エミナも泣きながら俺に言葉をくれる。
「絶対に助けるから。」
「うん待ってる。」
エミナは俺の手を両手で掴むと、光だし、剣が現れた。
「この剣の名は神威、そして、最初に渡した剣の名は、幻想。」
剣の名を教えてもらい、俺が歩き出すと、エミナはボロボロになったコートを掴む。
「エミナ?」
「......」
しばらく経ち、エミナはコートを離し、
「じゃあね。」




