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無幻の黄昏   作者: ふみりえ
第一部 命の始まり
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第十八話 玉藻の前

 賭けの街からしばらく歩き、そこらの川の近くで野宿の準備をしていると、パールとアルンがみんなを集めた。


「え〜、みんなに紹介したい人がいるの」


「輪のおかげで、リオンは魔力の暴走を抑制できるようになったけど、リオン、無理してるでしょ」


 リオンがビクッと身体を震わせる。


「うん....」


「それで、リオンの魔力の暴走を無理なく抑えるために、あなたにはある妖怪と契約をしてもらうわ」


 パールがそう言うと、突然パールの横に狐のようなしっぽと耳がついた人が現れた。


「妾の名は、玉藻の前!リオン、あなたが私のご主人様ね!」


 玉藻の前についてパールに聞くと、


 玉藻の前は裏の世界に住んでいる妖怪で、リオンと契約することで魔力の通り道を作り、魔力の暴走を抑えるのだそう。


「最初は召喚した人じゃない人に仕えるのは気が引けたんだけど、ご主人様の過去を聞いて、心が変わっちゃった!あなたが妾のご主人様よー。んーちゅっちゅ」


 玉藻の前がリオンのほっぺにキスを何度もし、契約を完了すると、なにか聞きたいことはないかと聞いてきた。


 契約ってあんなんでいいんだ。


「じゃあ、前から気になってたんだけど、裏の世界ってどんな世界なの?」


 そう尋ねると、玉藻の前はニヤリと笑う。


「裏の世界....天の次元、地の次元、その2つとは違う、世界の裏となる場所。そこは天の次元と地の次元に住む者の感情が集まる、血と肉が溢れかえる残忍な場所....そこでの暮らしは、それはそれは、とても楽しいものでした。」


「ふーん、そこにはどうすれば行けるんだ?」


 パールに聞くと、俺たちの目的地であるコア・シティから行けるらしい。


「くれぐれも、間違えて裏の世界に行く魔法を唱えないようにしないとね」


 質問が終わると、玉藻の前はふわぁとあくびをした。


「では、妾は召喚された身だから、そろそろ眠らせていただきます。いつもはご主人様の中にいますので、必要になったらお呼びしてね。あそうそう、妾のことは気軽にモーちゃんと読んでね!それでは〜」


 玉藻の前の体が徐々に消え、そして完全にいなくなった。


「それじゃ、ご飯にしましょうか」


 みんなで食事の準備をし、騒ぎながら食べ終わると、直ぐに眠りに入った。








「う、うーん」


 俺は寝具から一旦起き上がり、もう一度眠りにつこうと、目を閉じるが、眠れそうになかった。


 しょうがない、川に顔を洗いに行くか


 皆を起こさないようにゆっくりと川に歩いていった。


「......綺麗だな」


 川で顔を洗い、空を見上げると、それはもう見事に丸い月とたくさんの星があった。


 風が心地いい。


 生前、何度も夜の道を歩いたり、空を見上げたりしたが、ここまで心地の良い風と月と星は見たことがない。


 川のすぐ近くに座り、夢中で空を見上げていると、川からじゃぶじゃぶという音がした。


 川の方を見ると、そこには服を洗濯している最中の成人らしき女性がいた。


「えと、こんばんは」


 声をかけると、洗濯をしていた女性は俺に気が付き、服を桶に入れた。


「こんばんは、全然気が付かなかったわ。私はゼノア、すぐ近くの家に娘と一緒に暮らしてるの。あなたの名前は?」


 女性は笑顔でそう答え、立ち上がる。


「俺の名前は輪、旅の最中なんだ。」


 名前を言うと、元々笑顔だった顔をさらにニコッとし、こちらに歩いてきた。


 ところが、転んでしまい川に落ちてしまった。


「あぷっ!助けっ!」


 ゼノアは泳げないようで、川の先にある滝に流れそうになった。


「あちょっ!捕まって!」


 背中につけていた剣の柄を女性に近づかせ、女性は必死に柄を掴み、俺は力いっぱい引き上げた。


「はぁ、はぁ、ありがとう、助けてくれて」


 お礼の言葉を言われ、俺はどういたしましてと言い、みんなの元へ帰ろうとした。


「待って!お礼がしたいの、私の家に来てちょうだい」


 ゼノアが俺の手を掴みそう言うが、別に必要ないので、断ると、


「なんなら、お仲間さんもいいですよ。数日ぐらいなら泊まってもらって構わないわ。」


 と言うので、アイツらも野宿よりもちゃんとした場所で寝たいだろうと思い、明日行くことを伝えると、家までの地図を貰った。


 ゼノアが家に帰ったので、俺もみんなの元へ戻り、眠りについた。




 




「なぁ輪、まだなのかよぉ」


 昨夜のことをみんなに話し、家で寝れると知ると、すぐにその家まで案内を頼まれた。


「もう少しだと思うんだけど....」


 地図と周りの景色を交互に見ながら、目当ての家を探していると、


「ねぇ、あれじゃない?」


 リオンが指さす方向を見ると、遠くに一軒の家が見えた。


 地図を見て、そこが目的地だと確認すると、ルーナを先頭にみんなで家まで走った。





「いらっしゃい!今日はゆっくりしていってね!」


 ゼノアに家の中を案内してもらい、俺たちが寝る部屋で過ごしていると、部屋のドアが開き、外から俺と同じくらいの女性が入ってきた。


「えと、君がゼノアさんの言ってた娘さん?」


「えぇ、私はラノア、母ゼノアの娘です。」


 丁寧な口調で自己紹介をされ、こちらも自己紹介をし、ラノアの話を聞いた。


 なんでも、この家は前まではたくさんの姉妹がいたのだが、ラノアを覗いて他の姉妹はみんな亡くなってしまったらしく、つい最近も最後の姉が不治の病で亡くなってしまったんだそう。


 姉妹以外の子供を見るのは俺たちが初めてで、遊びたくて話しかけたとラノアは言った。


 リオンはそんなラノアを見て、


「寂しくないの?」


「ううん、たとえ死んでも、お姉ちゃん達は私の心の中にいるから、そう思えば、寂しくないから」


 そう言って、姉妹の写真を見せてもらった。


「これは......えと、本当に沢山いたんだね」


 そこにはラノアとたくさんの女性が写っていた。


「この人が最近死んじゃったアロナ姉さん」


 ラノアが指さした人はラノアとよく似た、背の高い女性だった。


「ねぇねぇ、はやく遊ぼうよ」


 ラノがそう言い、リナも早く遊びたくてうずうずしている様子だった。


 外に出ると、まだ午前だと言うのに陽光が暑く照らしていた。


「よーし、鬼ごっこで遊ぶぞー!まず私が鬼なー!」


 ルーナがそういい、目を瞑り、100秒数える。


「99、100!!よーし、全員捕まえるぞー!パール、タイム計ってくれよ!」


「ええ、ちゃんと計るわ」


 パールは鬼ごっこには参加せず、読書をしながら、ルーナが捕まえるタイムを計った。


 ルーナはまず近くの森に走り、俺たちを探した。


 俺たちは2人1組になり、ルーナを見つけたら教え合い、逃げ切る作戦を立てた。


 組み合わせは、俺とリオン、ターナとアルン、人数が合わないので、ラノとリナとラノアが1組になった。


「輪」


 リオンに声をかけられ、指を指した方向を向くと、ルーナが辺りを見回りながら俺たちを探していた。


 俺たちは近くの木に隠れ、様子を見ていたが、ルーナが突然こちらの方向を向いた。


「見つけたぞー!!リオンー!魔力がビンビンだぜー!!」


「ちょ、魔力を感じるとか反則でしょー!!」


 ルーナから見つかり、俺とリオンは一緒の方向に走った。


「よし、ばらばらに走って逃げて、ルーナを撒こう。」


 俺の作戦にリオンも頷き、俺が合図すると、リオンが俺から離れて走っていった。


 さて、どっちを追いかける?


「待てリオンーー!!お姉ちゃんがハグしてやるよーー!」


 ルーナはリオンの方を追いかけ、猛烈な形相で走っていた。


「いやーー!!ハグなんてしなくていいからあっち行けーー!」


「そんな事言うなよーー!!ハグして、夜になるまでそこらを歩き、そして熱い一夜を共に過ごそうぜー!」


 うわぁ、きもい。


 走りながら指を変態みたいに動かすルーナはリオンをあと少しの所まで追い詰めた。


 そこで俺はリオンと入れ替わりで近づいた。


「おっ!輪ーー!!お前もハグしたくなったのかー!!いいぜー、骨が折れるくらいの強烈なハグをお見舞してやるよー!!」


「くっ!おらよ!」


 追いかけてくるルーナに向かって、氷の魔法を繰り出す。


「つっ冷めてー!魔法使うのは反則だろ!!」


「そっちも魔力感じ取っただろ!おあいこだおあいこー!」


 そんなこんなで、何とかルーナを撒き、大きな木のそばで休憩をとる。


「あいつ、化け物かよ....はぁっはぁっ、てうわぁー!!」


 突然、俺の目の前にルーナの顔が逆さに見え、捕まった。


「どっから湧いてでたお前!」


「木の上で探してたらすぐ下にいたからな!さぁお前もパールのところに行きな。みんなが待ってるぜ」


 パールがいる場所に行くと、そこにはターナとアルン、そしてリオンもいた。


「なんだ、みんな捕まったのか」


「あいつ、化け物よ」


「私が....魔法使いに体力で負けるなんて」


「マジで死にそう」


 それからしばらくルーナたちを待っていると、ルーナが1人で戻ってきた。


「ダメだ、あいつら見つかんねーよ。私の負けだ」


 3人を探すことにし、家や森をくまなく探したが、どこにもおらず、一旦家に戻った。


「みんなー!お昼よー!」


 ゼノアの声がし、3人がまだ戻ってこないことを伝えていると、


「みんなー、助けてー!ラノアがー!」


「崖に落ちちゃったの!」


 ラノとリナが大声でそう叫び、戻ってきた。


「それでね、それでね、下に獣がいて、それで」


「わかったわ、私が行って来る。」


 リナの言葉を聞き、ゼノアが1人で向かおうとした。


「待って!獣がいるなら、私達も!」


「大丈夫よ、すぐに戻ってくるから」


 そう言って、ゼノアは走って行ってしまった。


 しばらく経つと、ゼノアがラノアを抱いて戻ってきた。


「へっ....」


 ラノアの片足がなかった。獣に食われたのだろう。


 俺は固まったまま、みんなが家の中に戻ったあともしばらく外にいた。






 考えもしなかった。そうだ、ここは日本とは違う。そこら中に危険がある。もしかしたら旅の途中で俺たちの誰かがラノアのようにどこかを失うかもしれない。もしかしたら、命も。


 怖い、怖い。


「はっ....」


 昔の記憶がよみがえった。


 そうだ、元の世界も同じだ。毎日当たり前のように人が死んでいた。


 ここでも、あっちでも。


 なら、俺が死んだ意味は何なのだろう?これから、生きる意味は。


 できるなら、今すぐにでも死ねる。


 背中につけた剣を見ようとした時、後ろにリオンがいた。


「ゼノアさんが、お昼食べようって」


「あ、うん。今行く。」


 俺はリオンを見て、安心したのか。さっきまで考えたことは放棄し、家の中に入っていった。

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