第十七話 オリジン
「おーい!どこにいるんだー!!」
あの子を何時間も探していたが、街中にはどこにもいなかった。
炎は既にこの街の人たちにより消化され、今は怪我人の捜索が開始されていた。
そういえば、探している時に感じていたが、街の炎と森の炎は魔法により燃えていたが、2つの魔法は別の魔力を感じていた。
「この街が燃えていたのは、あの子のせいでは無いのか?」
闘技場で話をしていたあの二人は妙な会話をしていた。
このぐらいやれば...
2人のうちの1人はそう言っていた。
この街の炎はあの二人がやったのだろう。
だとしたら......
俺は走って街から出て、もう一度燃え尽きた森に向かった。
「確か、こっちだったか」
あの子がいた場所を探し、燃え尽きた木や草を見ていく。
「......」
辛かっただろう......
記憶を頼りに、例のものを探していくと、
「あった....」
やっと見つけたのはあの子が入っていた水晶。
その水晶に触ると、周りが光に包まれ、やがて景色が見えるようになった。
「小さくなった?いや、水晶の中に入ったのか」
周りを見ると、燃え尽きた森や草が大きく見えた。
「水晶の中から外の景色が見えるということは....」
水晶の中の空間を歩いていくと、やがてうずくまっている女の子が見えてきた。
「こんにちは」
女の子に声をかけると女の子がふりかえる。
その瞬間、女の子の周りに魔法陣が現れ、あの時と同じ槍が向かってくる。
俺はそれをよけず、全て食らう。
「ぐふっごほっ」
口から血を吐き、食らった箇所からも血が吹き出る。
女の子はそれを見て、驚いたような顔や、心配そうな顔をしたが、体はオロオロしているだけだった。
「大丈夫だよっ......わざとじゃないんだろ?」
女の子はまたも驚いた様な顔をし、首を何度も縦に振った。
そして、またも魔法陣が現れると、女の子は
「ダメっ」
と叫ぶが、魔法陣から槍が放出される。
俺はそれも避けようとはせず、全て受ける。
「なんでっ」
「元々....避けられないしなっ....仕方ないさ.....ごほっ...」
何度も血反吐を吐き、女の子はそれを心配する。
「えとっ、えとっ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
女の子は何度も謝った。
「君は...えと、名前はなんて言うんだい?」
女の子は怯えながら、
「な、名前は...ないです」
名前が無いのか....
俺は必死に痛みを我慢し、名前を考えた。
「......じゃあ、君の名前は、リオン...リオンだ...それでいいかな」
必死に考えた名を口にすると、リオンは
「リオン....私の...名前」
と言い、口をニコッとした。
「笑ったね....笑うということは....君が人間だからだ...よろしくね」
手をリオンに向ける。それを見たリオンも手をこちらに向け、握手をする。
「....ぐっ」
リオンが負わせてしまった傷が痛み、俺は呻き声を上げる。
「あっ、えとっ、私っ、う、うあああああん」
リオンが泣き叫び、先程より多い魔法陣が現れる。
そんなリオンを、俺は抱きしめた。
「えっ......」
「大丈夫だ、お前のせいじゃない....安心して」
その台詞を何度も抱きしめながら言うと、魔法陣が消えていく。
「リオン......君は人間だ...君はこれから...何をしたい?」
弱々しい声で聞き、俺は貫かれた箇所が熱く感じた。リオンが話すまでの間、俺はずっとリオンを抱きしめていた。
「....私は、みんなと一緒に暮らしたい...お姉ちゃん達や、ターナや、ラノとリナ、そして....輪、あなたとも...」
やっぱり....
「ずっと意識があったんだね.....この何年もの間...」
「!!うん!私、ずっとみんなを見てた!パールのお姉ちゃんが色んなところに連れてってくれて、みんなが話しているのを聞いて....私も話したい!みんなと一緒に、ご飯を食べたい!」
それを聞いた俺は、フッと笑い、
「じゃあ....ここから出よう...」
「うん!」
そこで俺は、意識をなくした。
「あなたは...あなたは何をしたの?」
あの空間でまたも例の声が聞こえ、俺は声の方向を向く。
今度は顔は見えないが、体が見えた。
女性のような見た目で背中には翼が見えた。
「君は......なぜ、なんで、俺を」
俺がそう呟くと、女性は質問に答えようとした。
「それは....あなたが...」
そこで女性は別の方向を振り向くとすぐに消えていった。
「あっ、待って!聞かせて!お願いだ!!」
それから何度も質問をしたが、返されることは無く、俺も次第に意識が消えていった。
「輪!起きたか!!みんな!輪が起きたぞ!」
目を覚ますと、目の前にはルーナがおり、周りにはパール達が集まった。
自分の体を見ると、全身に包帯が巻かれており、動くと痛みが走った。
そして、俺が寝ているベッドに顔をつけ、寝ているのは、
「うっう〜ん。ん?輪....おはよう」
眠っていた少女が起き上がり、朝の挨拶をする。
「うん、おはよう。リオン」
リオンと呼ばれた少女はニコッと笑い、俺に抱きついた。
「輪!良かった!良かった!本当に....」
リオンの目の下には隈があった。
「ずっとここにいてくれたんだね、ありがとう。俺も嬉しいよ」
リオンが俺から離れると、パールが話し出した。
「輪、私たちは仲間なのよ、だから、ちゃんとあなたの言葉で話して」
そう言われ、俺は驚き、
「いや、でも」
「今さら他人行儀の方が気難しいわ」
「ほら、言ってみろよ輪、お前らって」
アルンとルーナもそういい、ラノとリナ、そしてターナも俺の言葉を待っているようだった。
俺ははぁっと息を吐き、
「本当、めんどくさいな、お前らは」
みんなが笑い、
「いきなり言われると、ちょっと笑っちゃうな」
「はぁ!?お前らが言ったんだろ。俺はこのままいくからな!」
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきまーす」」」
俺たちは宿のご飯を食べていた。
幸い、賭けの街は元々の建物の素材や、そこにいる人々のおかげで、あまり大きな被害は出なかった。
「ほらほら、リオン、これ食えよこれ!」
「食べてる!食べてるから!もう既に食べてるから!」
ルーナがリオンの口に食べ物を入れようとしていた。
「ルーナあんた、それあなたの嫌いな食べ物よね?」
ルーナはギクッと顔を震わせ、すぐにリオンの口の中にねじ込んだ。
「....ルーナ、私がアーンしてあげよっか?」
「いーや、その手には乗らないぜ、どうせそう言って私の嫌いな食べ物がって、それは私の大好物なお刺身!アーン」
アルンがルーナの口の中に刺身を入れ、ルーナはそれを美味しそうに食べた。
アルンはそれからも何度も刺身を入れ、ルーナはそれを全て食べていった。
「うーん、美味しいぜこのお刺身!上品な脂が沢山乗ってて噛めば噛むほど旨みが広がり、そして、コリコリして死にそうなほどの苦味がっ、てこれピーマンじゃねーか!アルン、お刺身の代わりにまたピーマン入れたな?吐き出してやる!」
ルーナがピーマンを吐き出そう口を開けると、アルンはそれを見逃さずにすぐにピーマンを口の中にねじ込んだ。
「ほら!美味しいわよピーマン!お刺身だと思って食べなさい!」
「むぐむぐむぐぅ!カミカミコリコリごっくん!」
ルーナが苦しそうな顔をし、飲み込む音がすると、アルンはルーナからフォークを離した。
それを見ながら、俺を含め、他のみんなも笑っていた。
そして俺は、口をアーンと開け、パールから次の食べ物を口に入れてもらった。
「よく噛むのよ」
「はいはい」
「あなた、今回も死にかけたのよ」
食事が終わり、雑談をしていると、突然、パールがそう言った。
「今回はリオンのためだし、仕方ないとは思ったけど、あなた、この短期間で何回死にかけたと思ってんの?」
「そうです!今回は私もですが、輪!あなたは死にすぎです!このままじゃ、あなたいずれ死んでしまいますよ!」
パールとターナからお叱りを受け、俺は今後パールかターナから離れないことを義務付けられた。
「ではでは、出発の準備は出来ましたね!みなさん!」
みんなで荷物の確認をし、賭けの街の出入口へ歩いていく。
「あっ、ギルガや店のみんながいるぞ!」
「イルもいる!」
出入口にはこの街で知り合った人々がおり、見送りに来てくれていた。
「一日だけ働いたってのに、お前らがいなくなると寂しくなるなぁ」
「行かないでくれー!」「また一緒に飲みたいよー!」
ギルガやほかのみんなからの話を聞き、アルンはイルと会話をしていた。
「イル、じゃあね。兄妹たちと仲良くね」
「うん、アルンも元気で。あの、これ、兄妹たちと作ったんだ」
イルはアルンに小さい箱を渡し、店の準備があるからとすぐに戻ってしまった。
「アルン、ありがとう」
イルが走り去る中、そんな声が聞こえた。
そして、街のみんなと別れ、俺たちは賭けの街を後にした。
「あれ?ターナ刀1本増えてね?」
「ほんとだ!なんて刀なの?」
ターナは自慢げな顔をしながら刀の名前を話した。
「その名も、静轟です」
「矛盾してね?」
「だからかっこいいのです!」
そう言い、ターナは刀を頬に擦り寄せた。
「さーて、これから何が起こるんだろうな!」
ルーナが空を見上げ、俺達も空を見上げた。