第十六話 それぞれの戦い
魔法陣の部屋で詠唱を開始した3人は、額に汗を浮かべ、丁寧に魔法を思い描く。
(ルーナの提案だけど、もうこれしか....)
ルーナの提案とは召喚魔法を使うことだ。
裏の世界から強力な妖怪を召喚し、あの子と契約を交わせば、召喚した妖怪に魔力が流れてくるので、それにより魔力の暴走を抑えられるというものである。
他に案が浮かばず、時間もないため、すぐに詠唱を開始したが、召喚魔法はとてつもなく難しく、さらに裏の世界から喚ぶので、水晶の時の時間よりも長くなってしまう。
(お願い、みんな......耐えて...)
「どうしたのどうしたの!!勢いが無くなってるわよ!」
何度も追ってくる魔法にターナはどこまでも走り、時々魔法を刀で切ろうとするが、放たれた魔法は物質と触れると爆発する仕組みになっていた。
(さすが、伊達に原魔六血家の人間ではありませんね)
ターナは魔法から逃げるふりをし、敵に向かって走り出した。
「そうよね!来るわよね!」
敵の1人である女性を斬ろうとした時、ターナの目の前に魔法のバリアが出現し、ターナは女性ではなくバリアを斬った。
バリアを放ったのはもう1人の敵である男性だった。
男性は女性に近づき、何故か一緒にダンスを踊った。
「私たちに勝てるとでも?」
「出直してこい」
2人は同時に魔法を発動し、ターナに魔法が放たれる。
ターナは刀を地面に突き刺し、刀を使った側転をして魔法を躱す。
刀を抜き、構え、相手を切ろうとするが、またも魔法で防がれ、後ろから先程の魔法を背中に食らう。
「げほっ、げほっ」
血反吐を吐き、刀を地面に突き立て立ち上がる。
「ねぇ?なんであなた、魔法を使わないの?何かしら魔法を使えば、少しくらいは戦えると思うんだけど」
一旦魔法の発動をやめ、ターナに女性がそう聞く。
ターナは女性の方を向き、
「使わないのではなく、使えないのですよ」
少女、ターナは業の里で生まれた。
両親はターナを大事に育て、刀や魔法を教えた。
しかし、ターナは刀の才能はあったが、魔法は何一つ使えなかった。
簡単な魔法すら使えず、ターナは両親に嫌われると思い、必死に隠した。
だがある日、魔法が使えないことが両親にバレてしまい、ターナは家から飛び出した。
森の中を一日中歩き、何度も魔法の練習をしたが、それでも出来ず、ターナは泣き叫んだ。
その声を聞き、探しに来た両親がターナを見つけ、家に帰ると、両親はターナにあることを言い出した。
「魔法なんて使えなくていい、刀も別に使えなくてもいい。」
「私たちはあなたが1番大切なの。あなたが自由に生きてくれれば、それで満足よ」
その言葉にターナは救われ、それから刀一筋で日々を過ごしてきた。
あれからしばらく経つと、時空収納ぐらいならできるようになったが、他の魔法は今でも使えなかった。
女性と男性は意外そうな顔をし、お互いの手を握り、次の魔法を繰り出そうとした。
その一瞬、ターナは刀を構え、技を繰り出した。
「潔白流、除界二閃」
光の速さで技が繰り出され、2人に技が直撃する。
2人は倒れ込み、血が沢山出る。
「......終わった」
膝から崩れ落ち、そのまま息を大きく吸う。
(私も、早く輪を手伝いに行かなくては。しかし、さすがに疲れました、少し休みましょう)
刀を鞘に収め、小休憩を取っていると、後ろから声が聞こえた。
「そう.....あなた....魔法が使えないのね...そうなのね」
「魔法が....使えないなどとは....出来損ないだな.....」
すぐに刀を抜き、後ろを振り返ると、そこにはターナが斬った傷からたくさんの血が流れている2人がいた。
「あなたはこれから死ぬけど、冥土の土産に名前を教えてあげる。私はニーナ、この人はダーナ。私たちの子供はルーナよ」
(ルーナの、ご両親....)
ニーナとダーナは魔法を発動させようとしているが、魔力が足らないようで上手く発動しなかった。
「なんでよ....今この街はこんなにも感情が溢れているのに....なんでよ....痛い痛い痛い痛い....」
魔力は様々なことで精製されるが、そのうちのひとつが感情だ。
人間が何かを思う度に魔力が精製される。
(今この街は逃げ惑う人々の感情で溢れている。しかもこの街にはあの魔法陣があるのに....まさか、パール達が何か魔法を発動させているのでしょうか....なら)
ターナは覚悟を決め、ニーナとダーナに向かって叫ぶ。
「あれぇ?魔法が使えないんですか?あっはっはっは、先程私のことを出来損ないと言ってましたが、あなた達も同じ出来損ないなんじゃないですかぁ?」
不慣れな煽り口調でそう叫ぶと、2人は狙い通り、怒ったような顔をし、こちらに歩いてきた。
「このガキ!殺してやる....殺してやるわ」
「あぁ!殺してやる!」
ターナはふっと笑うとすぐに2人から走って離れた。
「回復魔法が使えなくてもね!このぐらいなら使えるのよ!」
ニーナが魔法陣を1つ展開し、そこから箒が出る。
2人はその箒に乗り、ターナを追いかけた。
(もっと、遠くへ....はぁ、はぁ、頭がふらつく。あの時の傷が開いてきましたね)
大会の時、ロフに受けた傷を手で覆い、必死に走る。
「おしまいよ!!死になさい!」
ニーナがそう言い、ダーナが魔法を繰り出す。
(もう...無理....)
魔法がターナに当たる瞬間、その魔法が2つに切り裂かれた。
「これは....」
煙が晴れ、ターナの前に立っていたのは、ロフだった。
「大丈夫かのぉ?ターナや」
「ロフ....どうして....」
ターナがそう聞くと、ロフは髭を撫でながら、
「何、たまたま通りがかっただけの事じゃ。たまたま通っていると、この事件の首謀者をたまたま見つけ、そこにたまたまお主がいただけのこと。」
そう言い、ロフは刀をニーナとダーナに向け、
「それでは、事件の首謀者たちよ。この儂とターナが、お主らを退治してくれる!」
ロフがそう叫ぶと、刀を構え、2人に向かって走っていく。
ターナも直ぐに息を整え、ロフとともに走り出す。
ニーナとダーナはお互いの手を握り、防御魔法を展開する。
ロフはそんなものなど気にせず、刀を横に振る。
「老いぼれが!そんなただ横に斬っただけで、私たちの魔法を破れるわけが!わけ....が....なんだと!」
ロフが刀を横に斬った途端、2人の魔法が破れる。
「ターナ!今じゃ!」
2人の懐にターナが潜り込み、技を繰り出す。
「潔白流、円羅!」
横切りをかまし、ニーナとダーナの体を切り裂いた。
「やったぁ!勝ち....まし...た...」
2人に勝つことが出来、満足したターナは今までの疲れが一気に来たようで、その場に倒れ込み、すぐに気を失ってしまった。
(もう少し.....)
詠唱を開始し、どのくらい経ったか分からない。
もしかしたら一日経ったかもしれない。
だが、もう少しで完成する。
そんな思いのまま、最後まで気を抜かずに魔法の詠唱をし、そして
「出来た....」
「疲れた...」
「2人とも、いくわよ」
パールがそう言い、2人が頷くと、魔法を発動させた。
魔法陣が光だし、周りが光で包まれた、と思ったら、すぐにどす黒い光に変わり、3人は身を固めた。
「まぁ、そうだよな」
「裏の世界から呼ぶんだから、当然よね」
「来るわよ、2人とも」
魔法陣の中央がさらに黒く光だし、一気に黒く包まれた。そして、
「裏の世界より召喚されました。さて、妾のご主人様は、だぁれ?」