第十五話 変貌
水晶から出てきた彼女を追い、洞窟から外に出ると、目の前にある森が燃えていた。
「これって...あの子がやっちゃったのか...」
彼女はこの中にいると考え、魔法の水を精製し、自分にかけ、森の中へ走っていった。
「おーい!いるんだろー!!出てきてくれー!」
自分から大声を出したのはいつぶりだと思いながら、何度も叫び、彼女を探した。
このままじゃ、森が全て焼けてしまう。
闇雲に探すのは無理だと思い、その場で一旦止まり、周りの様子を見る。
周りはどこも燃えており、とても暑く感じる。
森が燃えている速度を見ると、右方向の木がほかより原型を留めていた。
「こっちか」
その方向に走り出し、彼女を追いかける。
しばらく走ると、目の前から黒い玉がとてつもないスピードで飛んできて、それに俺はモロに食らった。
「ぐっ、あああああ!!」
今までもたくさんの痛みを味わったが、今感じた痛みはそれらとは比にならない程の痛みだった。
すぐに眼鏡を外し、魔法で回復する。
すぐに次の攻撃がきたが、運良く目の能力が発動し、その全てを躱す。
だが、躱した黒い玉が森にあたりそこから黒い炎が燃え上がった。
まずい、この黒い炎、ほかのとは違う。
黒い炎はいつまでも燃え続け、消えようとはしなかった。
とりあえず今放たれた黒い炎は放置し、次にくる黒い玉の対処を考えようとした。
その間も黒い玉は飛んできたが、全て躱し、それらは森に燃え移った。
早く何とかしなくては...
しばらく考えると、1つのアイデアを試す。
剣に手をかざし、魔法を纏わせ、剣に黒いオーラが現れる。
パールから魔法を教えてもらった時、何故か剣やコートに魔法を纏わせることだけは簡単に出来た。
それどころか普通に魔法を使うよりも何倍も強力になっているらしい。
パールからは水や炎を纏わせる魔法を教えてもらったが、今発動させた魔法はある日、突然できるようになっていた。
この魔法は多少のものなら黒いオーラでそれを包み込み、無効化させられる。
「せあっ!」
飛んでくる黒い玉に向かって剣を振りかざし、黒いオーラが包み込む。
「いける、これなら!」
それからは何度も来る黒い玉を走りながら剣で斬り、無効化させていった。
だが、時々目の能力が消え、何発かを食らったり、森にも燃え移ったりした。
黒い玉が飛んでくる方向に走れば走るほど、強力な魔力を感じると、突然今までの黒い玉と、魔法の槍が飛んできた。
「くっ!」
魔法の槍は黒い玉とは違い、森を燃やしたりはしないが、とんでもないスピードで飛んできており、目の能力があってもギリギリ避けられる速さだった。
おいおい!この槍避けながら玉を斬るとか無理だろ。
それからも槍と玉を避けたり、斬ったりしていたが、やはり、いくつかは体に当たったり、森を燃やしてしまい、あまり進めなかった。
すると突然、大きくて丸い影が目に入り、上を見上げる。
「......うっそぉ」
空から今までのものとは比べ物にならないくらい巨大な黒い玉が落ちてきた。
俺はそれを食らい、意識を失った。
傷の手当てをし、パールたちは急いで輪を追いかけていた。
「ねぇパール!あの子はなんでいきなり私たちを攻撃したの?」
走りながらアルンがそう聞き、パールはしばらく考え、答えた。
「実験の資料だと、あの子はそもそも魔力がとてつもなく大きくて、量も他の人とは違って永久に増え続けるから、自分でも制御出来ずに、暴走してるんだと思う。多分、このままじゃあの子の心と体が壊れてしまう....」
「なら、どうすればいいのでしょうか」
ターナがそう言い、パールはまた考える。しかし、
「ごめん、わからないわ。元々の計画では、魔法であの子の魔力を抑制するつもりだったのだけど、どうやらその魔法が機能していないみたいなの」
パールが頭を抱え、その場で泣きながらうずくまる。
「わからないわ....どうすればいいの....せっかくここまでやってきて、やっと一緒に過ごせるって思ったのに....」
完璧だったはずだ。
この日のために何年も前から計画し、魔法を勉強した。
しかし、それが全て無駄に終わり、それどころかあの子をさらに危険な状態にしてしまった。
パールはその場から動こうとはせず、そんな彼女を心配して他のみんなも立ち止まってしまった。
「とりあえず、輪を助けに行かなくちゃいけない!ターナ、ラノ、リナ、お前たちは輪を助けに行ってくれ!私とアルンはパールと一緒にいる。」
ルーナがそう言い出し、ターナとラノとリナは走っていった。
「もう無理よ、もう...無理よ...」
パールがそう呟くと、ルーナがパールの顔を見て、
「なぁパール、私たちはお前の性格を理解している。だからこそ、あえて言うぜ、諦めるな!!まだ何かできるはずだ!」
「そうよ、パール、何とかなるわよ、ここにはターナやラノとリナ、そして輪、何より、私たち3人がいるんだから!」
パールはそんなふたりの顔を見て、涙を拭い、その場に立った。
「えぇ、そうよね。私たち3人がいるんだから、何とかできるはずよね」
「とりあえず、あの部屋に戻ろう。魔法で何か出来るはずだ!」
3人はターナたちとは反対方向に、魔法陣がある部屋に走って戻っていった。
「うっ、うーん....」
目を覚ますと、先程まで燃えていた森は全て燃え尽きており、木や草は荒れていた。
どのくらい寝ていたんだ
そうだ、あの子は?
魔法が飛んできていた方向を見ると、その先には誰もおらず、燃え尽きた森の景色が見えていた。
「うっ!」
先程受けた傷が今になって痛み出し、その場に転ぶ。
魔法を使おうとするが、上手く発動しない。
魔力が枯渇してるんだ。
回復魔法が使えないので残り僅かな魔力を時空収納に使い、そこから薬を出す。
傷を受けた箇所に薬を塗り、包帯を巻く。
巻き終わると、すぐに立ち上がり、あの子を探した。
見ると、賭けの街が燃えていた。
「あっちか!」
すぐに街に走り、街の中に入る。
これは......酷い
街はあらゆる場所が燃えており、人々が避難していた。
「おい兄ちゃん!早く逃げろ!」
近くに走ってきたギルガがそう叫び、魔法で火を消そうとしていた。
俺はそんなことなど気にせず、特に燃えている街の真ん中にある闘技場に走っていった。
道中、怪我をした人や迷子の子供がおり、見捨てることも出来ず、その人たちを近くの人に預け、闘技場に走った。
「これぐらいやれば、さすがにあの子たちも出てくるわよね」
「見つけ次第すぐに捕まえるんだぞ」
炎が舞っている闘技場の中央には2人の人間がおり、隠れて俺は会話を聞いていた。
「この魔力....あの子たち、例のものを解放したそうね」
「それは都合が良い。あいつらを捕らえたらそれも回収しよう」
あの子たち?例のもの?まさか....
会話を聞き、ひとつの答えを考えると、後ろから肩を叩かれた。
「輪、大丈夫ですか?」
ターナとラノとリナが来てくれていた。
「今来たのですが、あの二人は?」
「多分、アルンかルーナかパールの両親だ」
それを聞くと、ターナは目を光らせ、
「あの人たちが3人の....」
そう言うと、刀を抜き、
「分かりました。あの二人は私たちが相手します。ラノとリナは外に行って、困ったいる人を助けてください。輪、あなたはあの子を探してください」
そう言うと、ターナは走って闘技場の上に立った。
闘技場から離れ、ラノとリナと別れると、俺はすぐに街の中を走り、大声を上げながらあの子を探した。
「あなたは?」
2人のうちの1人、
女性がターナにそう聞いた。
「私の名はターナ、アルンたちの仲間です」
「そうか、なら彼女たちがどこにいるのか教えてもらおう」
「教えたらどうするつもりですか?」
2人はしばらく考えると、
「私たちは親だからね、自分の子とその友達が今どういう状態か心配してるんだ」
ターナと2人がしばらく無言を続ける。
途端、ターナがはぁとため息をし、
「確かにあなた達はあの人たちを心配しているようですね。しかし、それは実験に影響が出るか出ないかの心配では?」
そう言うと、2人はターナを睨み、魔法陣を展開する。
「当たり前だ、あの子たちは私たちにとってただの実験台に過ぎない。もう一度言う、あいつらはどこにいる?」
「教えるわけないじゃないですか!仲間を裏切るくらいならここで腹を切ります!」
そうターナが叫んだ瞬間、魔法陣からいくつもの魔法が繰り出され、ターナはそれを刀で斬った。
「私の名はターナ、ただの剣士であり、あの人たちの、仲間です!!」