第十二話 もう少し
アルンと共にルーナ達のいる店に戻ると、
「いらっしゃいませ〜、カジノでしたらあちらのテーブルへ、飲食でしたらこちらのテーブルにお座りくださーい」
「....なにやってんのルーナ」
「なんだ、お前たちか」
ルーナはメイド服を着ており、慣れた口調で俺たちに話しかけた。
よく見ると、飲食のテーブルにはラノとリナがお客と一緒に座っており、楽しく雑談をしていた。
パールはカジノの方でタキシード姿でディーラーをやっていた。
カジノのテーブルには先日アルンがぼろ負けした男もおり、まだゲームをやっていた。
「そんで、何やってるの」
「おう、どっかのぼろ負けちゃんが泣きながら店を出たあと、そこにいるギルガってやつに提案されてな、お金が無いならここでしばらく働きなって。いやぁ良い奴だぜあいつは。」
アルンは頬を膨らませ、ルーナを睨んでいた。
「むーっ」
そこにギルガが現れ、
「なに、かわい子ちゃんがお金に困ってるっていうんなら、助けてやるってのが俺だからな、これなら俺の店も助かるからな」
と言い、ルーナの頭をぽんぽんと叩く。
「まぁ!今日はこの子達に沢山働いてもらったからある程度の金は稼げたと思うぜ!おう、パールの嬢ちゃんにおちびちゃん達もう上がっていいぜ、連れも帰ってきたことだしな、服はやるよ」
それを聞くと、パールとラノとリナがこちらに歩いていき、この店のマスターから4枚の紙袋をもらった。
「これでしばらくの旅金は確保できたわ。行きましょう」
「よっしゃ、行くか!」
「「行こう行こう」」
4人は元々着ていた服に着替えず、そのままの格好で出ていった。
あの服気に入ったのかな
「ねぇ、怒ってないの?アルンが賭けしたこと」
そう言うと、4人はふりかえり
「まぁいつもの事だしな」
「元々お金もなかったし」
「お店の人と沢山遊んだからおっけー」
「お店の色んなもの食べたり飲んだりしたからおっけー」
そういうもんなのか
俺たちはそのまま近くの宿屋に行った。
部屋でくつろいでいると俺はあることを思い出した。
「....ターナはどこいったの...」
「「「あっ」」」
どうやら全員忘れていたようである。
急いでみんなで外に出て、ターナを探した。
しかし、どこを探してもおらず、もしかしたら何かあったのではと思い始めた。
「あの剣バカどこに行ったの」
「事件とかに巻き込まれてたりしない?」
「あいつが絡まれたら剣で一刀両断だろ」
そんなことを話しながら、ルーナ達が働いていた店に入ると、ターナはいた。
「だぁかぁら!私はあれほど危ないことはするなって言ってるのにあの馬鹿はぁ!」
「姉ちゃん、分かったからもう飲むのやめな。体に悪いぜ」
酒好きのおっさん達がなだめるほど、お酒を飲んでいたターナは酔っ払いながら、誰かの愚痴を話していた。
「ターナ、こんなとこにいたのか。いつからいたんだ」
「あれ、ルーナじゃない、私ここでずっと待ってたんだけど!どこに行ってたの!」
こいつらは一日中ここで働いてたのに?
そう思っていると、ギルガが近づき、
「このねーちゃんあんたらの知り合いだったのか...あんたらとすれ違いでこの店に入ってきて、あそこにいるやつが酒を飲ました途端、でろんでろんになってんだ」
「ターナは酒に弱いからなぁ」
とりあえず、ターナを抱え、店を後にし、宿に戻った。
ターナはそのまま寝てしまい、俺達もお互い疲れていたので、すぐに寝た。
「起きてくださーい!朝ですよー!」
いつもの声が聞こえ、目を覚ますと、ターナが立っていた。
「おはようございます輪!さぁ、他の人も起きてくださーい!」
ターナがそう言い、みんながくるまっている毛布を全て剥がした。
「えと、ターナ、昨日のこと覚えてる?」
「もちろんですよ!実は街を歩いてる時にいいものがありましてね」
「いや、そうじゃなくて、夜にターナがあの店に入った時からの記憶」
ターナは頭を傾け、少し考えると首を横に振った。
あぁ、こいつは酒を飲むと記憶を無くすタイプか
俺がなんでもないと言うと、ターナは不思議そうな顔をしたが、気にせず、他の奴らを起こそうとした。
「ほら、ラノ、リナ、起きてください。そこのいつもの3人組も早く起きてください!」
ラノとリナが起き、歯磨きをしている間、例の3人はまたも一言ずつ台詞を言い、寝た。
「いい加減にしてくださーい!」
「むにゃむにゃ、まだ眠い」
朝食を食べている間、3人は眠たそうな顔をしたが、ターナはそんなことなど気にせず、ひとつのチラシを見せた。
「これは?」
「この街の中央で今日、剣術大会があるそうなんです。魔法は使用不可の剣だけでの戦い!私、今日これに参加します!」
「そうなんだがんばってね」
俺がそう言うとターナは俺の胸ぐらを掴みながら顔を近づける。
「いやいやいやいや、この大会はあなたにとっても良いものだと思うんですよ。日頃の鍛錬の成果を示すときです!」
「成果なら昨日示せたから」
ターナが不思議そうな顔をし、アルンだけがその意味を知っているので、1人だけふふふと笑う。
「でもこの大会、優勝したらお金が貰えるんです。チームで戦ってもいいので、一緒にやりましょうよ〜」
お金という言葉を聞いたパールとルーナは
「「輪、やりなさい(やれ)」」
まぁ、金は必要だし、ターナもいるから
「わかった」
「やったー!ではでは、朝食を食べたらすぐに行きましょう」
そう言うと、ターナは楽しそうに朝食を食べた。
「それじゃ、私たちはその間、地下で例の魔法を発動させるわ」
「場所は私が教えるわ」
ルーナ、アルン、パールは地下に行くことにし、俺、ターナ、ラノ、リナは大会に行くことにした。
「それじゃ、行ってくるわ。じゃあね」
「ちゃんと優勝するんだぞ」
「みんなよろしくね」
3人と別れ、俺たちは大会の会場まで歩いた。
「はいはいー、参加締切まであと10分ですよー!他に参加者はいませんかー」
大会の応募場所まで行き、応募をする。
「すみません、参加したいんですけど」
「あーはいはい、それではここに名前をお書きください」
ターナと俺の名前を書き、ラノとリナは見物場所へ、俺とターナは控え室に案内された。
周りは剣を持った人がたくさんおり、ちょっと萎縮した。
「大丈夫です、あなたはとても強くなってます。私もいるのですから、元気だしてください」
その言葉に俺も元気が出た。
その後、お互いの剣の見直しをし、作戦を立てた。
「え〜それではこれより、対戦相手を決めるため、くじ引きをします。呼ばれた方から順番にくじを引いてください。まず....」
次々と名前が呼ばれ、目の前にあるボードに対戦相手の表が書かれていく。
そして俺たちの順番が来た。
「え〜ターナチームの対戦相手はボルノチームとなります」
対戦相手が決まり、試合までベンチでもう一度剣のチェックをしたり、作戦の見つめ直しをした。
闘技場の入口から何度も歓声が聞こえ、あの中で戦うのかと、またも不安になった。
「大丈夫です、あなたは私が守ります。あなたも私を守ってください」
ターナが俺の膝に手を添え、そう言ってくれた。
そして、俺たちの出番が来た。
「私の背中はあなたに任せます。頼みますよ、相棒!」
「おっけー、俺の背中もよろしく!」
お互いの拳を合わせ、闘技場に歩いた。
「さーて、次の対戦カードはー?ボルノチーム対ターナチームだー!ターナチームはなんとなんとなんと、女性が入ってるぞー!」
女性が出ることがそんなに珍しいのかと思い、そういえば控え室にはターナ以外女性が見当たらなかったことを思い出した。
相手のボルノチームを見ると人数は3人、武器は俺と同じくらいの長さの剣を1本ずつ持っていた。
「それでは、開始!」
開始の合図が来た途端相手のチームは1人が右端、1人が左端、1人が真ん中から走ってきた。
「作戦変更です。私が2人やります!」
ターナが左と真ん中の間ぐらいに走っていき、2人と交戦する。
俺も1人の相手をするため、眼鏡を外し、右から来る敵を迎え撃つ。
「ここが魔力の集まった場所ね」
「やべーなここ、たくさんの魔力をビンビン感じるぜ」
パール達は前の洞窟の入口から入り、イルと交戦した場所にいた。
「それじゃ、とっとと始めようか」
大きな魔法陣の真ん中に水晶を置き、それを中心に三角形になる形でそれぞれ立つ。
「それじゃ、行くわよ」
「えぇ」「おう」
詠唱を開始し、魔法陣が光り出す。
ここから魔法が発動するまで数時間はかかるらしい。
3人は休む間もなく、詠唱を続けた。