第九話 ぼろ負け
アルンのあとをついて行くと、ひとつの店に入っていった。
中はいかにも賭け事が行われているような様子で、至る所で賭け事が行われていた。
そして、アルンはお金を沢山持っていそうな人に話しかけた。
「ごめんなさい、私たち賭けをしたいのだけど、相手してくれない?」
そう言うと、相手はニヤッという顔をし、
「いいぜ、姉ちゃん。ルーレットにするか。」
「いいわ、色で賭けましょう。」
「賭け金を出しな。」
相手の男がチップをチップを数十枚出した。
「それなんだけど、私たち今お金が無くって、別のものを賭けさせてくれない?」
「というと?」
大丈夫なのか....と、俺が思っていると
「大丈夫だって、アルンはちゃんと考えがあるからあんな強気なんだよ。アルンを信じろ」
とルーナが言うと、アルンが一瞬俺たちの方を向き、こう言った。
「このルーナを賭けよう!」
「はあああああああああああ!?」
すぐさまルーナがアルンの首元の服を掴みながら、
「てめぇどういうことだよこれはー!?私はお前を信じてたのによぉ!」
と叫んだ。
「大丈夫だよルーナ。私を信じてくれてるなら、まだ信じてて。絶対に勝つから」
そんなアルンを見て、ルーナは覚悟を決め、
「.....信じてるからな、アルン」
「ええ、任せて」
アルンは男の方に振り向き、
「さぁ、始めよう!」
「なんでさーー!!おかしいよ絶対!イカサマよイカサマ!反則だわ今のー!」
「お前どういうことじゃこれはー!!嫌だー!!行きたくないー!私はまだ自由でいたいー!!」
店の中に2つの大きな声で溢れかえり、他のお客さんもこちらを見ていた。
「ちょ、他のお客さん見てるから。やめて、恥ずかしいから。」
パールが2人をなだめていると、賭けに勝った男がルーナの腕を掴み、
「じゃあ、この姉ちゃんは貰ってくぜー!また賭けてもいいんだぜ?さっきのチップとこの姉ちゃんをな。そっちも何か賭けるんならな。」
と言った。
そんな男の顔を見て、アルンはまたも賭けをしようとした。
「当たり前よ!今度は、パールを賭けるわ」
「嫌よ、どうせ負けるんでしょ...」
「負けない!今度は負けないから!一生のお願い!さぁ、始めるわよ!」
パールの意志など無視し、すぐに賭けを始めるアルン。
そんなアルンの顔を見て、既に諦めているパール。
結果は、
また負けた
「なんでよー!!絶対におかしいわ!なんでなんでなんでなんでー!」
子供みたいに床でじたばたしてるアルンを見て、
こいつってこんなやつだったのか
と思い、パールが絶望した顔をしながら大人しく男の方に歩いていった。
「へっへっへ、パール〜。お前も仲間だぜ〜。」
ルーナがそんなことを言いながら、男の方にゴマすりをしながら話しかけた。
「へっへっへ、兄貴〜。あそこのチビ2人も貰っちまいやしょうぜー。」
お前はどっちの味方だよ。
リナとラノは怯えた様子でお互いの手を握りあっていたが、そんなことなど気にもとめないアルンはこの2人を賭けて、また挑戦することにした。
「アルン、もうそろそろやめといた方が...」
「何言ってるのよ。このままじゃあ、あそこの2人が帰ってこないし、お金もないのよ。引き下がる訳にはいかないわ。」
「好きだぜ、その心意気。さぁ、始めようか!」
「えぇ、行くわよ!!」
「なんでよーー!!」
3度目のなんでよー!を聞き、俺はリナとラノが男の方に歩いていくのを大人しく見ていた。
「くっ!」
アルンが俺の方を見たので、
次は俺か
と思ったが、
「おっと、男はいらないんだ。賭けるんなら今度はあんた自身だな」
と男が言い、アルンは泣きわめきながら店から出てったので、俺はそれを追いかけた。
「今度ばかりはどうしようかしらね。」
「賭けは賭けだしな。....あれ、そういやターナは?」
「ターナならこの店に入る前に別の店に入ってったよ」
そんなことを話していると、
「さて、今からお前らは俺のもんだ。俺の命令に従ってもらうぜ、俺の名前はギルガだ。」
と男が言った。
「もう無理!賭けなんてやらなければ良かったのよ!うわぁーーん!」
街から少し出たところで泣きわめくアルンを見ていた。
課金して爆死した奴みたいだな
しばらく泣かせた後、疲れたのか横になり、眠ってしまった。
こいつと2人きりになるとは思わなかったな。
日が落ちる頃になると、アルンは目を覚ました。
「あれ?私、何してたんだっけ。そうだ、賭けに負けてそれで飛び出して....輪、今までずっといたの?」
そう聞かれ、首を頷かせると、アルンは恥ずかしそうな顔をし、お礼を言った。
「これからどうしようか....またあそこに行っても多分負けるよね。地道に稼いでみんなを買うしか....」
「そのくらいしかないよな。ちなみにアルンは何か売れそうなものとかない?俺は剣ぐらいしか....」
「ないわね。売れそうなものは家に置いてきちゃったし」
会話がそこで途切れ、しばらく無音の時間が続いた。
やばい、どうしよう。何か話した方がいいのか。でも何も話したくないって相手が思ってたらどうしよう。
そんなことを思っていると突然、
「ねぇ、街の中を歩いてみようか。」
と言われ、他にすることも無いのでアルンについて行った。
街では、さすが賭けの街と言われるだけあってどこもかしこも賭け事が行われていた。
ある店のカウンターに座り、店主が注文を聞きに来たので、
ここって水は無料ですか?
と聞くと、店主はキョトンとした顔ではいと言い、水を2杯持ってきた。
しばらく水を何杯か飲み続けていると、後ろからアルンが話しかけられた。
「おいそこの女!いい体してんじゃねーか...どうだ?俺と一晩...」
「遠慮しておくわ。あなたとは初対面だし。そういうのは今は無理」
とすっぱり断ると、男は怒った顔をしアルンに殴り掛かる。
それをアルンは余裕でかわし、手に魔力を込め光線を放ち、それを受けた男は後ろに転んだ。
「安心して、別に怪我するような魔法じゃないから」
転んだ状態から立ち直した男は、仲間を呼び、アルンと俺の後ろを囲んだ。
「この街ってこういうのも多いのかな?」
「やっちまえ!!」
そう男が叫んだ途端周りの男たちが飛びかかってきたので俺は頭を抱え、うずくまっていると、ぎゃーという音がし、腕を頭から離し、後ろを見ると、襲ってきた男達に1本ずつ矢のかすり傷があった。
横を見ると、アルンの周りの空中に何本もの魔法の弓矢が現れていた。
「かすっただけよ。また絡んできたら、次は刺すから」
かっこよ、一文無しだけどかっこよ。
椅子に座ると周りの弓矢がなくなり、アルンは水を一口飲んだ。
すると、突然アルンが後ろを振り向き魔法のバリアを作った。
そこに魔法が激突し、煙が発生する。
「な、なんだ...」
まさか、またあのディエゴって奴か?
そう思っていると、煙が徐々に消えていき、周りの様子が分かる。
俺たちの目の前に人二人分位の穴が空いており、他の客は逃げたのか周りには誰もいなかった。
「この中に、私たちを狙ったやつが居そうね。輪、あなたはここから離れてルーナ達を呼んできて」
そう言い、アルンは穴の中に入っていった。
「えっ」
俺はルーナ達を呼びに店の外へ出ようとした瞬間、後ろから誰かに背中を押され、振り向く間もなく穴の中に落ちていった。