呪いの人形に助けられました。わたくし絶対に幸せになります。
ガシャンンンーーーー。
ああ…妹のアシュリーナが、わたくしの人形を床に叩きつけて、ついに壊してしまいましたわ。せっかくの綺麗な金髪ロールの、青い瞳の人形の顔が割れてしまって、目が取れて転がり落ちてしまいました。
「こんな人形っ、こんな人形っ。ああああああっーーーー。顔が、顔が痛い。」
アシュリーナが顔をおさえて、痛がっております。
ああ、わたくしの事を紹介しそびれました。
わたくし、このカッソディア伯爵家の令嬢、オイディーヌと申します。
アシュリーナはわたくしの異母妹ですわ。
わたくしは言ってやりました。
「ミルデート様が、わたくしの為に作って下さった人形、いくら何でも貴方にあげるはずはないでしょう。ミルデート様はわたくしの大事な婚約者なのです。それを…」
「わ、わかりましたぁ。だから、だから…医者を…顔が痛い。」
「あら…何故?何故、顔が痛いのです?わたくしの大事な、ミルデート様が下さったお人形の方がもっと痛いでしょうに…」
大事なお人形を拾い上げて、割れた頬をそっと撫でる。
右目が取れてどこへ転がってしまったのかしら…
ああ…床に転がっていたわね。
なんて綺麗な碧い瞳…
ちゃんと修理してもとに戻してあげないと…
わたくしはアシュリーナに向かって、微笑みました。
「大丈夫よ。この子が治ったら、貴方の痛みも取れるわ。それまでは我慢して頂戴ね…うふふふふふふふふふ…」
愛しい愛しいミルデート様は、金髪碧眼の美しいハルディアノス公爵令息でございます。
わたくしは見初められて、婚約者になったのですわ。
それを妹のアシュリーナが、羨ましがって…
あの子はわたくしより胸があって美しくて、言い寄る男性も多くて、わたくしをいつも馬鹿にしておりましたから…
わたくしがミルデート様から貰った美しいエメラルド色の首飾りも、赤いルビーがちりばめられた腕輪も、ふわりとした美しいドレスの数々もあの子に全て盗られてしまったわ。
両親はさすがにあの子を諫めてくれたけれども…
あの子は我儘で自分勝手で、思う通りに行かないと不機嫌になりましたものですから、
両親も諦めておりましたの。
だから、わたくしはミルデート様に頼んだのです。
お人形を下さいと…
そう、魂が入った呪われた人形を…
魔導士が作った人形ですから、害した人間には、それと同等の罰が下るように出来ているのですわ。
だから妹は今、頬や瞳に、死ぬほどの痛みが走っているでしょう。
後日、ミルデート様のお屋敷のテラスでお茶を致しましたわ。
ミルデート様は上品に紅茶を口にしてから、
「あの人形、役に立ったのだな。君の妹は本当に酷い。少しは懲りるといいんだが。」
「きっと懲りないと思いますわ。いまだに首飾りと腕輪は戻ってきませんし。ドレスだって、
盗られてしまって…」
「これでは君にプレゼントをあげる事が出来ない。」
「プレゼントなんていりません。わたくしは貴方と結婚出来るだけで、貴方とこうしてともにいられるだけでどんなに幸せか…」
「オイディーヌ。私とて、そなたと共にいられることがどれだけ幸せか…愛しているよ。
オイディーヌ。」
ああ…まさか…この幸せに又、邪魔が入ろうとは思いもしませんでしたわ。
妹が寝込んで大人しくなったと思ったら、姉が離縁されて帰って参りました。
母が同じ姉なのですが、とんでもなく性格が悪くて。
姉、リナーデはソファにどっしりと座りながら、
「散財したら追い出されちゃったわ。まったく、けちけちした伯爵家はこれだから嫌ね。
ちょっとオイディーヌ。貴方の婚約者、私に譲りなさいよ。公爵家は金持ちでしょ。
私にぴったりじゃないの。」
姉は太った身体を揺らして、丸々した指でクッキーを摘まみながら、わたくしに婚約者を譲れと迫ります。
妹も妹ですが、何て酷い姉なのでしょう。
さすがのカッソディア伯爵である父も、姉をたしなめます。
「ハルディアノス公爵令息ミルデート様が、オイディーヌが良いと婚約を申し込んできたのだ。それをお前に変えるなど、公爵家の怒りを買ったらどうするつもりだ。」
母も、この母は、わたくしと姉とは血が繋がっていない後妻ですが、とても良い方ですのよ。
その母が姉をたしなめます。
「婚約者はそう簡単に変えられるものではないの。ですから、我儘を言うのではありません。」
「だっでーーー。私、贅沢がしたいんですもの。いいわ。これから公爵家に押しかけて、私と結婚したいって頼んでみるわ。」
わたくしは必死に止めました。
「やめて下さい。お姉様。我が伯爵家の恥になるような事はしないでください。」
「うるさいわね。」
「お願いですっ。ミルデート様にアシュリーナが散々迷惑をかけてきたのです。
お姉様まで迷惑をかけたら。」
「そうだわ。せっかく公爵家に行くのですもの。おしゃれしないとね。
ドレス貰っていくわよ。」
お姉様はわたくしの部屋へ押し入りました。
ただ、めぼしいドレスはアシュリーナが持っていってしまっていたから、
碌なドレスが残っていなくて。
ふと、姉は壊れた人形…それに目を止めました。
「何?あの目の取れた酷い人形は…何であんな人形が置いてあるのぉ?」
「あれはミルデート様から頂いた大事な人形なんです。」
「そうなの?ま、いくらミルデート様から頂いた人形だって、あんなに壊れていてはね。」
「妹が…アシュリーナが叩き壊してしまって。」
「そうなのぉ?」
姉は人形に顔を近づけると、じぃいいっと近くで見て。
「見ていて気持ちがいいものではないわねぇ。」
「ともかく、これ以上、ミルデート様に迷惑は。」
「うるさいわね。」
「お姉様っーー。」
わたくしは姉をドンと押しました。
殺意が籠っていた?さぁ…ともかく必死だったのですわ。
メキっ…
姉はあの巨体でバランスを崩し、人形の方へ倒れ込みました。
グシャ・・・・
人形が粉々になったのでしょう。多分ですが。
壊れた上で姉が白目を剥いて、倒れていました。
ただ…その後、人形は粉砕したのですが、姉は命は助かりました。
寝たきりになりましたけれども…
妹は顔の痛みが治らなくて、屋敷から出る事が無くなりましたわ。
姉も寝たきりで、ウンウン唸っております。
今日もミルデート様とお茶をしながら、わたくしは相談しました。
「妹はともかく、あの姉が寝たきりでは、両親が可哀想ですわ。」
「そうだな。だが人形は粉砕されてしまったのだろう?」
「ええ…」
「それじゃどうしようもない。我が公爵家から出来るだけ、援助をしよう。それでいいかね?」
「有難うございます。」
人形が壊れてしまったのでは仕方がありません。
自業自得と言えば自業自得なのかもしれませんね。
わたくしは来月、ミルデート様と結婚致します。
わたくしを助けてくれたミルデート様、そしてお人形にはとても感謝をしております。
わたくしは絶対に幸せになりますわ。