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前編。集った三つの竜魂。

「ここは……ん? あれ? わらわ、なんで人間の言葉を発しておるんじゃ?」

 自分の声に困惑しているのは、一匹の四足歩行の黒い竜。

「それに、ここはいったい。わらわ、たしか……人間から一閃受けたはずで……ん?」

 自分の居場所にも首をかしげている。

 長い首を動かし、周囲を確認し始めた。

 

「なんじゃ、ここは? 白い。まぶしいほどに真っ白じゃ。

わらわ、いったい……どうしてしまったんじゃろうか?」

 声は幼さがあり少女のようだ。

「喉に一閃受けたはず……ん? もしかしてわらわ、

死んだのか?」

 

 四つ足で白い空間をうろうろと歩き回りながら、

 自分について状況整理する黒い竜。

「しかし首は繋がっておるし、痛みもない。

……わらわ、ほんとどうなったんじゃろう?」

 

 

「あなたもそういう口?」

 

 

「なに? 声?」

 空間に響く別の存在の声に、また黒い竜は首を巡らせる。

 ゆっくりしたテンポの羽ばたき音が聞こえ、幼い竜は上を見た。

 

「あなたもサッパリやられちゃったんだね」

 声色からするに、こちらもメスのようである。

 雰囲気は、黒い竜よりは長く生きていそうな印象だ。

 

「赤い竜。も、と言うことはおぬしもなのか?」

「うん。まったく、ひどいよねー、人間って」

 その言葉の後、赤い竜は着地。慎重な様子で黒い竜の足の位置に合わせて、

 そこをめがけて降りた。

 

「なーんにもあぶないことしてないのにさ」

 いじけたような言い方で言って、一息短く息を吐く赤い竜。

「って、あれ? あたし、人間と同じ声になってる?」

「おぬしも、ここに来るまでは人間と同じようには声が出なかったのか?」

「うん」

 

「しかし。おぬしも迷惑をかけておらんのに襲われたのか。

まったく、なんて奴等じゃ」

「で? あなたはどうしてここにいるの?

あたし、なんでここにいるのかわかんないんだけど」

 

 

「おそらくじゃけど。わらわたち、死んで折る」

 

 

「え? ちょっと。それ……ほんとに?」

 そーっと、不安もろ出しで尋ねる赤い竜。

「状況を考えると、そうとしか思えんのじゃ。

だってわらわ。首を横にズバーっとやられとるもん」

 

「……そっか。でも、たしかになー。あなたの言うこと、納得。

で、今度はあなたがここに来た前のこと、

教えてくれる?」

 

「うむ、わかった。とんでもない話じゃよ、まったく」

 頬を膨らませて、右の前足で地面をペチペチ叩きながら、

 黒い子供竜は話し始めた。

 

「わらわな、ただ人間に特技を見せただけなんじゃよ特技を。

それで『どうじゃ? すごいじゃろ?』って言ったんじゃよ。それだけなのに、

それだけなのに、そしたら一閃じゃよ!

ほんと、いったいどうなっとるんじゃ!」

 

 状況をはっきり理解したらしく、その理不尽さに

 両前足を地面に叩きつけ始めた。

 人で言うなら、地団太を踏んでいるような状態である。

 

「ちょちょちょ、おちついておちついて」

 黒い竜と同じく、四足歩行の右前足で、

 黒い竜の前足を二度叩きながら宥める。

「ん、むぅ。すまぬ」

 顔を少し下に向けて、しょんぼりする。

 

 

「で? その特技ってどんなの?」

 宥めるように優しく、黒い竜の前足に自分のそれを重ねて問いかける。

「うむ。わらわ、後ろ足で立てるんじゃよ」

「……ふぇ?」

 予想外だったのか、間の抜けた声を出しながら何度もまばたきしている。

 

「ちょっと離れてくれ。見せてやる」

「え、あ。うん」

 言われた通り、赤い竜はそろりそろりと後ろに下がる。

 やりたくてしょうがないと言う雰囲気を、その表情と声色から察したのだ。

「では、いくぞ。ほれ」

 

 言うと黒い竜は、ガバリと身体を起こして、彼女の言うように

 二足歩行状態になった。

「あ、ああ……」

 赤い竜はコメントが思い浮かばず苦笑いした。

 

「どうじゃどうじゃ? すごすぎて言葉もないか?

うんうんそうじゃろうそうじゃろう!」

 上機嫌でまくしたてる黒い竜。

 赤い側の内心は、しかし黒い側の思いとは違っていた。

 

「子供みたいだし、しょうがないのかなぁ。そんなこといきなりやって、

しかも人間の言葉が話せないのに声なんて出しちゃったら、

人間は戦闘態勢になったって思うよ。

……こんな嬉しそうなの見たら、『あなたが悪い』とは言えないなぁ」

 

「で、これをやったらズバー、じゃよ。なんなんじゃよ、まったく」

 四足歩行に戻った黒い竜。また理不尽を思い出した様子で、不満を声に乗せた。

「ま、まあ。きっとびっくりしちゃったんだよ。

いきなり立ち上がって、グワーって吼えたわけだからさ」

 気遣いつつ、事実を伝える赤い竜。

 

 黒い方は「まったくのう」と、納得できていない様子である。

「で、おぬしはなにゆえここに来たんじゃ?」

 「それがね」と溜息交じりに答え、赤い竜は、自分の状況を話し始める。

 

 

「あたし、卵産む時期で、場所が悪かったから引越ししたの。

ちょうどよく広くて安全そうなとこがあったから、降りたのね。

でも、それがまずかったんだ」

「なんでじゃ?」

 

「そこ、人間のいっぱい集まる場所で、しかもおっきな巣があったんだ。

たしか、城下町、とか言ったっけ。で、なんか妙に騒がしいなぁと思って、

周りを見回したら、人間たちがわーってどっか行ってね。

それで、ここじゃ駄目だなと思って移動しようと思ったら、

人間が一匹、あたしのとこに来たの。しかも殺気みなぎらせて」

 

「それで……?」

「事情を説明したかったけどほら、あたしも人間の声出ないから動きで説明しようとしたの。

でも人間にそんなことわかるわけないから、人間は牙みたいのザッて抜いて、

それを光らせたと思ったらここにいたの」

 

「つまり、わらわみたいにズバッとやられた、と言うわけじゃな」

「たぶんね」

 そうして、赤い竜は一つ、深い溜息をついた。

 

 

「悲しいよね」

 

 

 突然した第三者の声に、

「誰っ?!」

「も、ももももう一匹おったのかっ!?」

 赤と黒、二匹の竜は驚き緊張で身を硬くする。

 

 赤と黒二匹の後ろにいたため、もう一人の存在に

 気が付いていなかったのだ。赤い竜は、

 黒い竜にしか意識を向けていなかったため、その後ろに視線を向けることを

 考えさえしなかったので、気付かなかったのである。

 

「ごっごめんなさいっ!

 自分が原因で二匹が張りつめたのに気付いて、

 思わずと言う調子で謝る第三者。

 

「って、ぼくも人間さんと同じ声になってる?」

 自分の声に不思議そうに驚く声の主。一人称はぼくだが、

 声色は少女の色をしている。そして、緊張したような雰囲気だ。

 

 二匹は、声の雰囲気でこの三人目……いや、

 三匹目に対しての警戒を解いた。

 この一人称がぼくの声の主。彼女もまた、竜である。こちらは青い。

 

 

「ここにおると言うことは、おぬしもやられたと言うことになるわけじゃが。

悲しい、と言うことは。なにか、自分の思うところなく

殺されてしまった、ということかのう?」

 

「うん、そうなんだ。ぼく、自分でやっちゃったことの責任を取ろうとしただけだったのに」

「どういうこと?」

 赤い竜の問いに頷くと、青い竜は己の最後を語り始めた。

 

 

「ぼく、海に住んでるんだけど、普段は顔を出さずにいるんだ。

でも、その時は久しぶりに顔を出して泳いでたの。

そうしてたら、人間さんがぼくを見つけたみたいで、

すごい怖い顔で睨んで来て、それが怖くてあわあわしちゃったの」

 

「それで?」

 赤い竜は、この海に住んでいたと言う青い竜が、

 人見知りする性格なんだと理解して、

 柔らかな調子で続きを促す。

 

「その動きのせいで波が立っちゃって、それで船が横に倒れちゃったんだ。

人間さんたち、海の中にザブーンしちゃったの。

ぼく、慌てて人間さんたち助けようとしたら、

また波が立っちゃって、人間さんたち流されちゃったの」

 

「なんと。それは、人間もおぬしも不運じゃったな」

「うん。それで、どうしようどうしようってなってたら、

海の中なのにまるで陸で立ってるみたいな人間さんがいて、

その人間さんがつるぎを構えてたんだ」

 

 赤い竜は、もしかしたらこの娘は

 自分より人間について知ってるかもしれない、と感じた。

 自分が牙みたいな物と考えている物を、つるぎと言う名前で呼んだからだ。

 

「で、つるぎが振り下ろされたなぁと思ったら、ぼく ここにいたんだ」

「つまり、その一撃でやられてしまった、と」

「二人の話を考えると、そうなんだと思う」

 話を聞いた赤と黒、そして話した青い竜は、全員同時に溜息を吐いた。

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