4
「黄金の鳥、ネオも知ってるだろ」
ひと月ほど前だったろうか。
オーキー国の北部、フォッシシ州で金色に輝く鳥が目撃された。
小さい頭に長い首、たなびく尾羽。羽音を立てずに優雅に飛ぶ様は、夜空に尾を引きながら流れる星のごとく、それは美しかったという。
黄金の鳥は昨日は西、今日は東と各地を飛び回り、多くの人々がその姿を目にした。
そして、黄金の鳥を捕まえようという者が現れるのに、時間はかからなかった。
「あの姿を見れば、誰だって欲しくなる」
皆、そう言った。
貴族や領主たちは競うように我も我もと黄金の鳥へ懸賞金をかけ、腕利きの猟師や一儲けしようと企む者達の小競り合いが、そこら中で起こっていた。人々は黄金の鳥の噂に熱中した。熱は人の口から口へと飛び火し、やれこの店の投網だけが鳥を掠めただの、やれこの店の名物料理を食べれば鳥に出会えるだの、眉唾な品物を売る店が流行る始末。これが件の黄金の鳥騒動である。
ネオも勿論知っていた。
「ダヒル、鳥を捕まえるつもりなのか?」
そういえば、ダヒルは生き物を捕まえるのが達者だった。村にいた頃は、よく捕まえた獲物を見せてくれたものだ。
「俺が狙ってんのはもっと大きいヤマよ。黄金の鳥が出てくるといえば『パライアの火』だろ」
「…まさか黄金都市を探そうとしてるのか」
『パライアの火』とは、不思議な力を持つパライアという女性が国を亡ぼすお話である。
その昔、黄金が大好きな強欲で暴力的な王が、海の向こうの国に居る黄金の鳥を持って帰ってくるように王子に命じる。王子は不思議な力を持つ侍女・パライアのお陰で黄金の鳥を手に入れるが、パライアはその力で火を操り、王を殺してしまう。恐れた王子は、パライアを死罪にする。処刑の間際、パライアは呪いの言葉を吐き、山から飛んできた火の塊に灼かれ、黄金をため込んだ国は跡形もなくなってしまった…というお話である。
教会で子どもの頃に必ず聞く為、忘れてなければ知っている。
「あれは史実じゃない。危険な力を戒めるお伽話だ」
「それがそうとは言い切れないんだな、これが。俺、四年前からテッキンコンで働いててよ。王都へ行く軍資金を稼ぎにね」
テッキンコンは、故郷のスタトット村から王都までに点在する工業都市の一つで、スタトット村から馬車で八日ほど、王都からは二、三日の場所にある大都市である。
スタトット村では基本自給自足。親や若者は工業都市や商業都市に出稼ぎに行き、収入を得ている。ネオの両親も村寄りの都市、ガムシャーラという商業都市の組合で働き、村へは三月に一度帰ってくる生活をしていた。
「硝子用の石材を採る場所からさ、建物の跡みたいなのが出てきたのよ。結構深い、地面の中からね」
「建物の跡…」
「そうそう。その建物の石が混ざるから、採石は今、ちょっと離れたところでやってんだ。採石場の近くにはさ、黒い大きな山があって、それが火を噴いたとみた。そこへきて、黄金の鳥だろ。
俺は思った。この建物跡が黄金都市だと。そんで、ついに来たと思ったね。俺が幻の黄金都市を大発見した男として、歴史に名を残す時が」
ダヒルの説は憶測のみで、何の裏付けもなく、荒唐無稽だった。普通ならばこんな情報で「よし、宝探しに行こう」とはならないだろうが、ダヒルは地に足が付いていないというか、ロマン的なものを原動力にしている節があった。十八にもなって。
演説を終え、ダヒルは満足そうに頷いている。そしてずいと右手を出した。
「だからよ、ネオ。餞別をくれ」