表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/54

2

「ですが、その混沌の世をお鎮めになった方が、ただ一人居たのです」


ざわついた子供達を抑えるように、神父は声量を上げる。


「唯一神モーベロン様の子孫であり、我らが偉大なる初代王・モーゼル様です。

オーキー国はまだ無く、とある小国の王であったモーゼル様が目指されたのは、世の統一でした。

この時代、どんなに世の中が荒廃しようと、人々は手を取り合うということをしませんでした。少しでも良い土地を巡っての民族間、小国同士の争いは絶えず、荒れた土地が更に荒れるという有様…

この世を蝕むものはワザワイノツカイだけではなかったのです。それを何よりも悲しんだモーゼル様は世界を、人々を正しい道に導く為に尽力なさいました。一人一人に祖国の経典・木教の教えを説きながら、粗野で野蛮な人々に文明という光を与えました。モーゼル様の尊い行いにより、人同士、国同士の争いは無くなりました。そればかりか…」


神父は勿体を付けて咳払いをし、話を続ける。


「何とワザワイノツカイが殆ど現れなくなったのです。信じがたい奇跡に人々は湧きました。未だ摂理の解明には至らずとも、ワザワイノツカイが人の世と大きな関わりがあることが分かりました。

人々は平常の世に感謝し、無益な争いはもう決してしないと、モーゼル様に誓いました。こうして大国、オーキー国が生れたのです。モーゼル様が初代王として即位されることに意を唱える者は居りませんでした。戴冠式では誰もが祝福し、統一を成し遂げた功績を称え、この日を国統一の日とし…」


その時、小さい子が泣きながら教会へ入ってきた。来る途中で転んだ様子で、膝を擦り剥いている。


「おやおや、痛いのは直ぐになくなりますからね。ほら、そこへお掛けなさい」


神父はべそをかく子を座らせると、膝を折り、皆の前で祈り始めた。


「偉大なるモーベロン様、我々に癒しの御術をお与え下さい。御使い・モックスプナタリオンをお使わし下さい…」


左手に南十字のペンダントを握り、右手を膝の傷にかざす。

祈りの言葉とともに神父の右手のひらが微かに青く光る。


挿絵(By みてみん)


「わっ」


手を離すと、傷はすっかり無くなっていた。


「神父様すごーい」

「わあ、もう痛くない。ありがとうございます…!」

「どうしてこんなことができるの?」


子供達がワッと湧く。


「これも全てモーベロン様の御術みわざなのですよ」


神父は仰々しく、長い服の裾を少し持ち上げて足首を見せた。左足には、丸い小さなあざが二つ並んでいる。


「これこそがモーベロン様から与えられし、特別な力の証。御使い・モックスプナタリオンの噛み痕です。

出自に恵まれた、特に選ばれし者のみが授かる力、それが魔法の力です。王都の魔法学院で癒しの御技について学び、人々の病や怪我を癒やすのも我々神父の使命なのです」


モーベロン様を唯一神とする木教はオーキー国の公の宗教で、国民は皆、信徒となる。モックスプナタリオンとは、木教の経典に登場する、白い毛並みの神獣である。細身の山猫のような身体に、足は鳥。翼と長い尾羽を持つ。牙に聖なる力を宿し、モーベロン様が選んだ人間に噛み付き、力を授けると記されている。魔法の力、魔力を持つ者は体のどこかに二つ並んだ痣があることから、その痣は『モックスプナタリオンの噛み痕』と、信じられているのである。


「空を飛んだり、水を出したりできるの?」

「いいえ。魔法で出来るのは癒しの御術のみです。争いを嫌うモーベロン様がお与え下さった力ですからね」


大きな街の教会では、扉口にモックスプナタリオンが彫られ、木彫りのモーベロン像を奉っている。スタトット村のような小さな集落にさえ、簡素ではあるが教会を建て、王都の教会から神父が派遣されていた。子供達に学を与え、医術も施す神父を村人達は敬っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ