5
絶望に染まるダヒルとは対照的に、ネオの顔は閃きに光る。散らばった記憶の点と点が繋がって答えが浮かび上がった。
「分かった… 『罪深い者のみが黄金郷へ辿り着く』 やっぱり『知りすぎた男』の謎かけだよ」
「『知りすぎた男』って… オーキー国の話で、関係ないって今日話したじゃん」
「帯がリブア族のものなのに、謎がモックス語で書かれてることを不思議に思うべきなんだよ。
きっとこの謎を解く者はオーキー国の人間だと予測していたんだ。だとしたら、オーキー国の人間が解ける謎じゃないとダメだ。それにはオーキー国の誰もが知っている話をヒントにするのが一番だ。
モックス語を使えるってことは、この帯の謎を残した人物は、『知りすぎた男』の話を知ってたんだよ。
話の中に出てくる王様の謎かけ『この世で最も尊く清く、また愚かで罪深い者は誰か』… 答えは『この世の命全て』。つまり、誰だっていいんだよ。僕でもダヒルでも。重要なのは次だ。『禊ぎ購え 我を具して』」
「罪を償えってことじゃないのか」
「『パライアの火』を思い出して。罪人のパライアは火炙りににされる。リブア族の最大級の禊ぎが火刑だとしたら、この帯を身に着けて禊げば…」
「ってことは、火炙りにされて死ななきゃいけねえの?」
「いや、それは比喩だよ。この帯を火で炙ればいいんだ」
ダヒルは焚火の上に帯を翳してみた。火の熱が伝わるくらいに。すると、薄かった文字がすうっと消え、代わりに黒い点と曲線のような模様が浮かび上がった。最後に模様の下に文字が現れる。
「うおっ…ほんとに出てきたぜ。なになに…『始まりは欠けた星の真下 神は三度曲がり全ての星を巡り、鳥が扉を示す』… これもモックス語だな」
「この仕掛けを作った人物は、未来で小さな文化が消える事を予測していたんだ。その上で、残そうとした。自分達の文化の欠片を。だから、謎をモックス語で記して、オーキー国の教訓話をヒントに組み込んだんだ。いつかの時代で、誰かが謎を解けるように」
「いや、謎解いたらまた謎が出てきたんですけど。言葉と点が何を意味しているかさっぱりなんですけど」
ダヒルはまじまじと古びた帯を見、そして首をひねる。
ネオは現れた模様に触れてみた。初めに書かれていた文字よりも、熱を感じる。
「どうだ? もしかしてコレ、神様の名前?」
「…いや、暖かさは強くなったけど、やっぱりぼやけてるよ」
二人は改めて模様を見た。一番大きく描かれた八つの点。上から二つ、三つ、三つと三列に等間隔で置かれている。ちょうど四角形のような形だが、左上の直角にあたる場所は点が無い。その四角八点を中心に、上には黒く太い山なりの曲線が、下には細い線で三つの山なり曲線が浮き出ている。
「この点を星と例えてるってことか? そしたら八つの点を通るようになぞればいいんじゃね?」
地面に帯と同じようにネオは点を書いた。点を全て結ぶように枝で絵取ってみる。しかし…
「…駄目だ。できないよ」
全く上手くできない。書いては消し書いては消し、何度もやり直している。
「三度曲がる、だろ? でも四回曲がらないとできないよ。角が四つあるんだから」
眉を下げ、枝を放り投げたネオ。
「点を結ぶんじゃないんじゃないの」
「まあ、待て。俺こういうの得意かもしれん」
ダヒルはネオが投げた枝を拾い、ガリガリと書いていく。
「『始まりは欠けた星の真下』だからな、二段目の左から書いていくだろ。そんで… こう… こうだな」
「あっ…」
二段目の左端の点から下へ降ろした線は、三段目の左端の点を通り、そのまま突き抜ける。右斜め上に曲がり、三段目の中の点と二段目の右端の点を通り、またそのまま突き抜ける。一段目と同じ高さまで来ると左に曲がり、一列目の点二つを繋いで突き抜ける。そして右斜め下へ曲がり、残り二点を繋ぐ。
「ネオは真面目だからな。はみ出しちゃダメだって思っちまうんだろ。ここでやっと真面目に教会学校へ通ってた実力が発揮できたぜ」
教会学校は基礎を繰り返す場だ。用意された以外の問答を嫌う。むしろ真面目に通わなかった成果だろう、という言葉を飲み込み、ネオは頷く。
「何だか矢印みたい」
「そんでもって次が『鳥が扉を示す』だろ。ってことは… やっぱ黄金の鳥が出てこなきゃいけないんですかね」
「誰かが黄金都市を見付けようと謎を解くタイミングは黄金の鳥が居ない時かもしれない。ということは、この手掛かりだけでも本当なら辿り着けるはずだ」




