聖女 セラフィーナ
勇者邸の広い庭園にある四阿。庭園を眺めながら、飲食出来るよう、大きめのテーブルとベンチがある。
その四阿にはお茶を楽しむ2人姿がある。
「……レナさんっ。お願いだ、この間の小さくて色々な色したやつをくれないだろうかっ?」
「そんな真剣に頼みこまなくてもいーんですよ?家族なんですしー」
「そうは言ってもめいわ」
人差し指で唇を押さえられ、言葉を止められるクリスタル。
「『マカロン』だよー。名前覚えてね?」
「あ、ありがとう! これこれ! 本当に小さくて可愛くて、カラフルで……しかも甘味だなんて」
「喜ぶクリスのが、かわいい気がするけどね」
レナの『料理魔法』で生成された、色とりどりのマカロンをひとつずつ指で摘まんではニコニコ、違う色を摘まんではキラキラするような笑顔で眺めている。
クリスタルは男性並の身長がコンプレックスであり、その反動で小さくて可愛い物が大好きだ。甘い菓子も大好きである。
勇者邸に来るまでは『剣聖なのだから』と外聞を気にし、可愛い物と甘味の両方をずっと我慢していた。
「旦那様のお嫁さんになって良かった! チキューのスイーツすごい! すごすぎる!」
「これくらいなら、いつでもー」
そんなクリスタルを可愛い生き物だなーと思いながら甘やかすレナであった。
しばらく雑談をしながらお菓子とお茶を楽しむ2人。ふと目をやると、庭の池のそばに人影がある。
エルフの特徴である、先の尖った耳と長く伸ばされた金髪の女と、黒髪の男である。
クロエと勇者だ。
「ま、前にみた『くっころさん劇場』!?」
「ちゃんと覚えてたね、よしよし」
「ぁぅ」
席を立ちクリスタルの頭をなでなで。子供のようにあやされ赤面してしまう。やはり剣聖可愛い。
「はじまるよー」
「今度は、私も少しは分かるはず……」
すでに2週間が経ち、勇者や古参のハーレムメンバーに色々と教えてもらっていた。覚えきれ無いこともまだまだあるが、大分ハーレムに慣れてきていた。
前回と同じ木箱が置いてある。池のそばの小屋に運ぶよう指示をする勇者。
「え? 何されるか気付くのでは?」
「クロエはひと味ちがうよー」
よくわからない返答に疑問を抱くも、見逃してはいけないっと2人の動きを凝視する。
すると何も言わず木箱を重ね、持ち上げよたよた運び始めるクロエ……なぜ?と思い、よーく見てみると
「あ! 箱が増えてる!」
「せーかい。クロエは前回と1つでも違うことかあると疑問を感じないの」
「え? え?」
「数でも形でも、色が違っても。すごい才能でしょ」
「才能じゃなくて阿呆なだけでは……」
4つ重なった木箱を前回同様、突風が……。
揺れる木箱。バランスを崩すクロエ
「あっあっ崩れ、崩れるっ」
さっとクロエに近づく勇者。
それに気付くクロエ。
「ちょっちょっちょっ! 触るなよ? 触るなよ? 触るなよー?」
素早く突き飛ばす勇者。
どっぼーー――――ん!
池からあがるクロエ。
第一声は……
「殺す気かぁーーー!」
アハハウフフと笑う2人。
「ま、まったく同じ、再現のようだな」
「次はどうなるかなー」
池に落ちたクロエに手を差し出す勇者。手を掴み池から上がるため、池のふちに足を掛けた力を込めながらクロエは礼を言う。
「手を貸してくれて、ありがぁぁぁぁぁぁ」
どっぼーーーーーーん!
言い終わらない内に手を離す勇者。再度、池に落ちるクロエ。ゲラゲラ笑う2人。
「だーかーらー! 殺す気かぁーーー!」
池から上がったクロエは叫び、勇者は満面の笑み。腹筋崩壊し、ひーひーしか言えない2人。
「ひーっひーっ。お、同じようなネタぁやるのがぁ『天丼』ってお笑い技なんだって……ぶふ」
「ひーひーっ。ニホンすごい、イミワカンナイ! あひぃ」
なかなか呼吸が整えられない2人。畳み掛けるように、勇者が動く。懐から何かを取り出………………せない。
「神たる勇者様の所業ではありませんねぇ」
第3者の介入があった。聖女と名高いセラフィーナだ。
平均より少しだけ高い背、豊かで腰より長く伸ばされた金髪。サファイアのような碧の瞳。そして、豪奢な金糸の刺繍の入った僧服を押し上げる爆乳。スイカ2個入れてるようだ。
「風邪を召される前にぃ、着替えをなされてはぁ?」
「そうだな! ありがとう、聖女殿っ」
着替えに館へと走り去るクロエ。貝殻を紐で繋いだ水着らしき物を、ひどく残念そうな顔で、手落とす勇者。台無しである。
「こんなぁ、下らない遊びはぁよろしくありませんよぉ勇者様ぁ。貴方様は尊き神なのです。あのような戯れはぁ、いけませぇん」
ひどく濁ったどろどろした感情が籠る目をした聖女。明らかに不機嫌な顔になった勇者。でも、何も言わない。
「え? え? 何で割り込んで来たの聖女は?」
「……………………」
「ひっ!」
困惑するクリスタルは、目の前のレナの圧が変わるのに恐怖する。魔王戦以上の圧だったからだ。
「聖女さまは、いらないかなぁ」
ドンッ!
勇者以外は誰も見えなかった。
神速で移動したレナ。目の前に現れた小柄な女に気付き、セラフィーナは警鐘を最大にならす本能に従い、魔王側近達の攻撃を何度も防いだ多層結界を発動した。
ドンッ!
再度鳴る轟音。レナの震脚だ。
そこから繰り出される拳。
バリバリバリバリバリバリバッリーン!
レナの小さな拳は全ての多層結界を飴細工の如く破り、セラフィーナの鳩尾に突き刺さる。
バンッ!とセラフィーナの背中側の服が破れ飛ぶ。浸透勁である。
「がふっっ」
内臓に損傷を受けたらしく、どす黒い血を吐くセラフィーナ。吹き飛ばされ、血を吐くセラフィーナの頭を鷲掴み、明らかに人間の頭蓋骨が発してはいけない音がする。
「聖女さまは、勘違いしすぎですねぇ?」
ギシギシミリミリ音が響く。レナの右手はセラフィーナがどんな抵抗をしようが一切緩まない。
「いくらゆーしゃさまが甘いとはいえ、ゆーしゃさまを不愉快にするものはね、不要なのですよ?」
「あ、あ、でもでも勇者様は神様でっ!」と、狂信者のようなことをもらしたとたん……。
ミシッィ!めぎめぎめぎめぎめぎめぎ……。
「ゆーしゃさまが聖女も辛かったし、そのうち収まるよ、などと言っていたので見逃していました、不快ですが」
何をしようが無駄な事を、やっと悟ったセラフィーナはただただ謝罪を重ねる。
ギリギリミシミシしなが「ごめんなさいごめんなさい」が3桁をゆうに越えた頃、解放される。
「レ、レナしゃん……」
「ごめんね、あてられちゃったかー」
顔面蒼白で強く震えるクリスタル。
「わ、私より、つ、強いよねっ?」
弱い自分が人質に……など思いつくくらいには聡明であった。そんな悪意を形にされる可能性に当然気付いていたレナ。だからこそ、限界を超え、鍛えた。もし、自分が勇者を疎む何者かに殺されれば、完全に壊れてしまう勇者。それだけは許容出来ないから。
「なんで! ゆーしゃさまの『正妻』が! 体が! 小さいだけで! 弱いと決めつける!」
もうやめようよぉと言うゆーしゃさまを上手く誘導し、自己を鍛えに鍛え上げた。
『正妻』の矜持である。
「勇者が留守を護るはあたし!」
そんな想いから、ひたすら鍛練を重ねた。極東の武神にしか出来ないと言われる『浸透勁』すらマスターする『正妻』レナ。
改めますもうしませんごめんなさいを、3桁近く繰り返すセラフィーナに、レナは言い渡す。
『2週間の夜伽禁止。館内ではきちんと服を着用すること。他のハーレムメンバーから2週間以内に苦情が出た場合、即時処分します。』
と、レナの判決が下った。
「ゆーしゃさまが好きに生きるためのゆーしゃさまのハーレム」
「ゆーしゃさまのハーレムの秩序を理解出来ないもの、ゆーしゃさまのしたい事を理解できない、理解すらせずに、自身の信仰?依存?そんなものを押し付けるだと?」
「2週間の間に1つでも他のメンバーから苦情があれば、『頭の弾けた乳のでかい女が運河に浮かぶだろう』!」
顔面蒼白でもうしません、ごめんなさいを繰り返すセラフィーナ。全てを言い渡したあと「頭を冷せ」と池に聖女を投げ捨て、先程までの事が無かったかのように紅茶を飲み始めるレナ。
「だ、旦那様ぁ。どうするのお!」
たははっ、じゃない! ちゃんと! なんとかしてよー!




