日常 前編
「あれは、何をしているんですの?」
「いつもの『くっころさん劇場』じゃないかな」
「ああ、あれですの」
レナの入れてくれた紅茶を飲む。うん、いつも通り美味しい。
「イザベラの焼いたジャムクッキーおいしー」
「ふふん、でしょう?」
イザベラは腰の高さまであるドリルツインテールを左手で振り払う。赤い髪の色とその仕草が相まって、高飛車なお嬢様に見える。
実際、イザベラは子爵令嬢だった。子爵はイザベラの母である夫人が病死すると、愛人とすぐ再婚。前妻に似たイザベラに暴力をふるうようになる。そして、ついには子爵領から王都に向かう際に崖から突き落とされた。
たまたま、勇者が魔物探しで崖下にいたため、無傷でキャッチされたのである。
ここまでの経緯を聞いた勇者は、そのままイザベラを連れて子爵邸に乗り込み、子爵夫妻が口を開く前に斬殺した。
その場でイザベラに魅了をかけ、現場を見ていた使用人たちが「イザベラ欲しさに両親を殺す外道」と思うように仕向け立ち去った。
「そのツインドリル、セット大変じゃない? 昔からずーっとしてるし」
「そうでもありませんの。お屋敷に来て2日目には旦那様がドリルヘア魔法を教えて下さいまして」
「なにその謎魔法」
「わたくしがイメージしたドリルヘアに、髪が動いて勝手にセットされるのですわ。解除も出来ますわ」
「うへっ」
イザベラが魔法を解除すると、髪がストレートになる。また魔法を使用すると、にょろにょろ蛇のように動きドリルツインテールになる。
「長さも本数も自在ですが、他は何も出来ませんわ」
「ほんとだ。肩の高さで3本になってる。うわぁゆーしゃさまバカじゃないの」
「否定出来ませんわ」
クスクス笑う二人は勇者ハーレムに加入したのが最初と3番目の女性だ。二人とも2年以上勇者と一緒にいるため、日本語やネタの意味を正しく知っている。
「あら、賢者さまが半目で睨んでますわ」
「謎魔法みえちゃったんだね」
「最近、お屋敷に来られたから反応しておられれるのね」
「まー、古参のメンバーは慣れてるし」
ハーレムの古株達は勇者が思いつきで新しい魔法を開発しているのを、ずっと間近でみていたのでいちいち驚かない。
一方、勇者パーティーとはいえ、勇者本人と壁を作っていたため、勇者の本当の能力を知らない。
「貴女も見せてあげたらどうかしら?」
「料理魔法? やだよ、ぜったい付いて回られらるもん」
「……確実ですわね」
「あーとー、ゆーしゃさまの食べるご飯は、あたしの手でちゃんと作りたいっ! 愛情こめてっ!」
「その通りですわ。わたくしのクッキーを褒められた時の、天にも昇る気持ちといったら!」
「あーイザベラ? 魔法発動してる、ドリルぐるぐるしてるー」
「! わたくしとしたことが……」
『最初の3人』と他のメンバーから尊敬と畏怖を集める彼女たちは、助けてくれた勇者のために、家事全般やマッサージ、夜伽の技術向上などなど有りとあらゆる方面で努力を惜しまない。ハーレムの主人である勇者の身も心をほぐし慰める、そのためだけに。
ハーレム来たばかりの者ほど、勇者の謎魔法と『最初の3人』が頭おかしいレベルの技術に驚く。
「あ、動きがあるよっ」
「劇場スタートですの?」
『くっころさん』ことクロエは、王国の東に隣接するエルフの国の元騎士ですわ。
なんでもオークの集団に襲われ、主人であるお嬢様の馬車を逃がし、殿に立つもオークの数に負け、オークの苗床にされたとのこと。
旦那様と近い思考になっているわたくしは、テンプレ属性盛り過ぎでは? と思ったものです。
あちこちの国でゴブリンやオークを狩る旦那様。苗床になった女性は意外に多く、ハーレムにもそれなりの人数がおりますわ。魔物の被害はなかなか減りませんわね。
あちこちで討伐に精を出す旦那様。オークの集落を潰した際に、苗床にされていたクロエに言われたそうです。
「救出され生き恥を晒すくらいならっ! くっ! いっそ今ここで、コロセっ!」
と叫んだそうです。
その話を聞いたわたくしは「旦那様の性癖にっジャストミーーートッ!」と、叫んでしまいした。令嬢教育を受けたものがする事ではありませんでしたわ。反省。
「クロエに荷物を運ばせていますわね?」
「わざわざ池の側の小屋にねー」
「いつもなら旦那様は自分で運びますよね?」
「今回の『劇場』の小道具なんじゃない」
「あ、あー。なるほどですわ」
よたよたと重ねられた木箱を運ぶクロエ。その様子をただ横で見てるだけの勇者。クロエの持つ木箱はぐらぐら、ぐらぐら。
池のすぐ側で、一辺が1メートルの四角い木箱を三段に重ねたクロエが小屋へ向かう。突風が吹く、軽い木箱はぐらぐら。
とととっと池のそばに行くクロエ。またも、風が吹く。風にあおられ池の縁で落ちないよう、こらえる。
なぜかクロエに近づく勇者。
それに気付くクロエ。
「ちょっちょっちょっ! 触るなよ? 触るなよ? 触るなよ?」
素早く突き飛ばす勇者。
どっぼーー――――ん!
池からあがるクロエ。
第一声は……
「殺す気かぁーーー!」
ごふぁ! と紅茶を吹き出すレナとイザベラ。
「「忘れてた! 『くっころさん劇場』中は飲食禁止だった!」」
まだまだ続く劇場。
びしょ濡れになったクロエに着替えを渡す勇者。着替えを受け取るクロエ。手のひら大の葉っぱが3枚……
「隠れるかぁぁぁ!」
笑いすぎで呼吸困難気味のレナとイザベラ。
次の着替えを渡す勇者。ビキニアーマー。誰の目で見ても防御力的にありえない。
受け取るクロエ。
「これしかなかっただとっ」
愕然とした表情で、ビキニアーマーに着替える。真っ赤な顔で大声を出すクロエ。
「こ、こんな辱しめを受けるとはっっ! くっ、いっそ殺せっ!」
満足げに何度も頷く勇者。
内股をもじもじとさせるクロエ。
ビクンビクン悶えるレナとイザベラ。
木箱を片付けに行こうとする勇者の服の裾をクロエがつまんで動きを止める。
「き、貴様、ここまで辱しめておいて立ち去るだとっ。せ、責任をとれぇ……」
甘い声でそう言われた勇者は、すごいエロい顔をした。期待した表情のクロエをお姫様抱っこし、屋敷にすっ飛んでった。
「なるほど、クロエは旦那様が気に入るわけですね」
「おー、イザベラきづいたー?」
「ええ、クロエの才能に戦慄しておりますわ」
「だよね?ゆーしゃさまの性癖にピンポイントで、何も教えられてないのにキレ芸、ノリツッコミ、押すなよ×3が無意識で出来ちゃうんだよ」
「お、恐ろしい子っ……」
ぶるっと身震いするイザベラ。しかたもない、異世界のお笑いを教えられてもないのに、ベテラン芸人並みに流れに淀みがないのだ。
「クロエのすごいのは、誰が見てるか分からないのに、迷いなくビキニアーマーに着替えちゃうとこ。」
「あ! 塀が高いとはいっても、外ですわ!」
「あたふたすると、周りが見えなくなるんだろーね」
「よく騎士になれましたわね」
「ほんとにねー」
会話が途切れたところで、テーブルをイザベラと拭いていると、剣聖さまがこちらに歩いてくるのが見えた。
お茶を入れ直そう。
「いらっしゃい、剣聖さま」




