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剣聖クリスタル=フォートナス 後編

 ここは……眠りから覚め、頭がはっきりしないまま上半身を起こす。部屋の様子を見て、勇者の屋敷の客間だと思い出す。

 

 コンコンッとノックがされ、応じると勇者がトレーを持って入ってくる。


 勇者の顔を見ると聞きたいことが沢山浮かび、頭の中を渦巻く。何から聞いたものかと腕組みしながら考えていると、食べたら全部話すよとトレーを渡される。


 早く話したい私は大急ぎで、トレーの朝食を食べ終わらせる。ちょっと行儀が悪かったな……。


 ニコニコ笑顔で朝食を食べるのを見ていた勇者がトレーをベッドサイドのテーブルに置く。

 ベッドの近くに椅子を持ってきた勇者が座ると真剣な顔付きになり、じゃあ、と語り始める。



 勇者の両親は幼い頃に事故で亡くなっていて、年の離れた姉に育てられた!?

 その姉が私そっくりだとっ!? しかも名前がクリスって、ええぇ……。


 もでるとかいう仕事をしていて、格好いい系美人ですっごい自慢のねぇさんだったんだよ! と、宝物を得意気に披露する子供の様なキラキラした顔してる。


 自分の容姿を褒められた錯覚に陥り、鏡を見ずとも頬が染まるのが分かる。恥ずかしい。


 数拍、間があき、勇者の雰囲気が変わる。明らかに部屋の温度がさがった。勇者の魔力が冷たい。



『ねぇさんは殺されたんだ』



 その重く低い声にぶるりと身震いする。


「……ゆうしゃ……」


 私の声に反応して慌てて魔力の放出を止める。声を元の調子に戻し、続きを話始める勇者。


 重い……重い話だ。


 勇者の姉は仕事帰りに、暴漢達に拐われた。1週間が経ち、その間勇者も必死に探したが見付からず途方に暮れる。


 次に彼女に会えた時には姉は死体だった。

 河原に裸の状態で捨てられていたらしい。酷く乱暴され、顔にもどす黒いあざも……


 しばらく朝も晩もなく涙を流し続け、何日も過ぎ、涙が枯れてからは犯人達への復讐心だけで、鬱々とした日々を過ごしていたと。


 話が進むと合点がいくことが出てきた。

 魔王討伐から数日の間、顔色が悪く苦し気な表情をしていたな。

 あれは、姉と重ねて見ていた私の顔に傷跡残ったと自分を責めていたのか。

 

 そんな彼の心の問題に私は触れなかったな。

 油断して魅了されてはいけないと、聖女、賢者の三人で協力して行動していた。

 鑑定の儀式で勇者の魅了スキルが見つかってから、なるべく距離を置き会話も最低限だった。


 自分のしていた事に心が痛む。知らないとはいえ、無自覚に勇者を傷付け続けていたとは……。私、ひどすぎる……。


 勇者の声が明るいものになる。


 異世界に召喚され、復讐が出来ないと絶望しつつ、王城の謁見の間に案内されたと。

 そこに姉とそっくりな私を見つけて涙が溢れるのを我慢したと。

 別人なのは分かっていても、ねぇさんが生き返ったようで歓喜したとも。


 魅了スキルのことが分かり、魅了スキル持ちが嫌悪されているのを知り絶望したと言う。

 姉似の私のため、魔王倒し、ひっそりと遠くから私の幸せを見守る決意をしたって……。


 手が震える。こ、心がズキズキするょぉ……。

 あの時、不躾なやつだなと思い、気が付けば私に視線があるので、魅了する隙を探していると警戒していたのだ。

 

 ヒドイ、勇者の心をナイフで刺し続けてた……罪悪感がのし掛かってくる。



 決意したがやはり心が摩耗してつらかった。 どこへ行っても警戒され、女は勇者をみれば視界から慌てて消える。

 男は男で、妻や恋人、娘を捕られまいと敵意に近い視線を受け続けた。


 そんな中で実戦経験を積み実力をレベルアップさせるために冒険者ギルドの討伐クエストを受け、ただただゴブリンを殺し回ったらしい。女を拐うと聞いていたので。


 ゴブリンの巣の調査クエストの際に、レナさんを救出したと。普通の冒険者ならば、彼女は殺処分されていたはず、本人もそう頼むのが一般的らしい。

 そんな被害女性が行き場がないのが、王国の現状ではある。例え救われても周囲の視線に堪えられず、自害してしまうしな……。


 しかし、勇者は違った!


 姉と同じように拐われ理不尽な被害にあったレナさん。殺してくれと言う前に彼女の意思を無視して、初めて魅了スキルを使い、自分の屋敷に連れて帰ったと言う。


 共に暮らす内、レナさんと勇者、お互いの心の傷を舐め合うように共依存の様な関係になった。自ずと身も心もひとつになり、守るべき者が出来て、やっと勇者は前を向けたと言う。


それからは、レナさんの救出の際に魅了スキルを使ったように、理不尽にあった女性に対して、スキルを使って死なせないことを決め、自重をやめたと……。


 い、胃も痛くなってきた。うぅぅ……勇者を追い詰めていた人の中でも、私、断然ナンバーワン……だよね……あの頃の私、剣の腹でぶん殴ってやりたいっ。


 しばし、へこむ私。あぁそうだ。聞きたいこともあるんだった。


 レナさんって、え? え? 昨日玄関で会った!? こどもだよ!? 茶髪のそばかすかわいいこどもだったよ? 勇者に連れて来られたときには成人していた? え? え? は? 来月18才になる?

 

 勇者がクエストの際に、行き先の村から魅了で拐って来たはずの子は、勇者の正妻さん? ええぇ、ゴブリンの苗床だったんだよね? 見た目幼女だよ!? ど、ど童貞あげた!? 勇者変態なの? わ、わ、わけわかんない。ふつうじゃない。ゆ、勇者、性癖も勇者なのっ!?


 レナさんの方も、レナさんより美人やスタイルの良い女、貴族の娘を魅了して連れて来ても、「あはは、また拾ってきたんですか?」と慈母のような表情で受け入れるって……。

 せ、正妻の器と貫禄、す、スゴイ。二人ともぶっ飛んでる。

 

 他人から見れば、子供にしか見えないレナさんの首には魅了の紋様……どうみても、地方の村から無理矢理、子供をアレな目的で拐ってきたクズ勇者。


 え? わざわざそう言う噂をながした?

レナさんの出自や過去に目がいかないよう、『魅了を好き勝手使うクズ勇者』の噂を流した?

 「あの子は可哀想に、無理矢理……云々」になるように仕向けた!? 独り歩きするうわさは、とても都合が良かった。って……

 

 そこからはもうぼんやり聞いていただけだった。あたま、おいつかない……。


 勇者ハーレムは、色々な被害者女性しかいなかった。噂と違い、全員が夜伽のメンバーではないらしい。

 魅了スキルは微調整ができ、自害防止、真実をハーレム外で話すことを禁止している。

 勇者への好感度は大して上げてないとも。ただ、慌てて掛けて好感度が上がりすぎた子はいる。

 ただ、大体の者は、嫌な記憶が薄れ、救ってもらった経験と勇者の優しさで好きになっていくみたいだ。

 確かに私も勇者かわいいな、程度だ。


 物理的に傷つき捨てられた子、いろんな政略の思惑に振り回され蹴落とされた者、追放された者、時には、国外からも連れてきたことも。


 クズの噂を定着させ、好き勝手ふるまう、最悪の魅了スキル勇者を演じ続ける。


 ハーレムにいる女達が静かに幸せを甘受してくれればいい、と言う勇者。


 もはや聖人!勇者じゃなくて聖人だよっ!などと頭の中で褒めちぎっていると


「動くな」


 ビタリと固まる私の体。指先ひとつ動かせない。え?え?今までの話はウソ!?も、もしかして乱暴される?涙で視界がぼやける。


 チュッ、チュッ、チュッ



 ? なにされた? え? キス? どこに? 手、頭、目…………あ!


 硬いと言われた掌。


 頭ではなく、冷たいと言われた髪。


 傷物と言われた、潰れた左目の傷痕。


 された場所が分かると、顔が熱く……ぐ、心臓がうるさい!


「僕が旦那様になるよ、僕のこども産んで? 一緒にしあわせになろう、クリスタル」


 今度は唇に優しいキス。

 ああ、落ちた。恋に落ちるは本当だったんた。私、チョロい。


「うんっ! うんっ! かわいいあかちゃんうむっ! ゆう、じゃない、だんなさまとしあわせ、なるぅ」


 涙をぼろぼろこぼす私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。もうすでに幸せ。



 しばらくして泣き止んだ私に、お昼食べいこっと部屋を出るため、だ、だ旦那様が扉を開けると……。


「あらぁ、剣聖もきたんですねぇ」


 知った声だ……え? 聖女。なんでネグリジェ1枚? すっけ透けで乳首まるみえだよ?


 ギギギと旦那様を見ると目をそらす。ガンギマリしちゃってじゃない! ガンギマリが何か分からないが、聖女が壊れたのは分かる!


「なにしたらあんなんなるの! 『聖女』が『性女』になってるじゃない!」


「あらぁ上手いこと言いますわぁ」じゃない!



 ここはビックリが多すぎる……私、神経もつかな……でも、幸せにはなれるか。ふふっ。



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