ナツとナミ
深夜、王都中が寝静まる時間。
勇者邸の夜間警らをする姉妹。メイド服を身に纏い、魔石を利用した魔道具のランタン片手に庭園の見回りをしている。
「ナツ姉」
「ん? なぁに、ナミちゃん」
「きたよ」
「ん。わかってるよ」
いつもならば勇者邸の夜はイザベラの結界魔法によって厳重に守られている。今夜に限り、少し苦労すれば破れる強度の結界魔法が張られている。
ぱきり、と侵入者を拒む結界が破壊された音がした。音と同時にナミちゃんと呼ばれた女の喉に、深々と大振りのダガーが突き刺さり、ぼたぼたと体液が地面に落ちる。ダガーにスリットが入っているためか、喉に突き刺さったまま大量の出血がある。数分と待たずナミは死に至るであろう。
「ぁ。あ゛ははは! ばぁかぁ!」
ナミは喉にダガーが刺さったまま、声を発する。
ナミを確実に殺したと思った暗殺者は、慌てて離れようと身構えるものの、ずるりと人型を止めたナミだったもの……紫色の液体に飲み込まれた。
「!!!?」
じゅわじゅわと紫色の液体の中で泡を立てながら暗殺者は身体を溶かされ、10秒も数えないうちに肉や骨の欠片もなく消滅することになった。
紫色の液体は立ち上がり人型になる。右側に紫髪をひとまとめにした美女、ナミ。
ギュリネア魔導王国を中心に巣食った地下組織『アーカーシャ』の実験体『073』番。魔物と人間の合成による強化兵計画『魔獣兵』の試験体であった。
ありとあらゆる種類の毒を持つ紫色のスライム『ヴェノムスライム』の核を融合させ、液状の身体とヒトの知能を持った何処にでも侵入出来る暗殺者というコンセプトを元に作られたのがナミである。
「ん。暗殺者さん? 私、刃物とか通りませんよ?」
「……!」
ナミが『ナツ姉』と呼んだ女性。左サイドに緑色の髪を束ねた美女。顔つきはナミとそっくりであり、実際に血の繋がった姉妹である。
ナミの方とは別の暗殺者が遠距離から、ナツに対して多数のナイフを投げ付け、眉間、喉、心臓、鳩尾など致命傷に至る所に命中はしている。ナツは避けたり防ぐ素振りも無いが、硬質な音と共にナイフは全て弾かれた。
最後のひと差しとばかりに暗殺者の残りの全魔力を込めた投げナイフも、ナツの眼球に命中したが傷ひとつ無く弾いた。
「ん?逃げられる前に確保。『左手射出』」
ボッっと空気を穿つ音とともにナツの左手首は高速で飛び、暗殺者の腹に突き刺さる。暗殺者は吐血しつつも、腹に刺さった左手首からナツの腕に繋がる鋼線をナイフで切り逃走しようともがく。
「ん。無理よ? ミスリルとアダマンタイトの合金繊維よ。国宝級の魔剣とかじゃないと切れないわよ?」
ナツ。ナミと同じく『アーカーシャ』の実験体『072』番。先にナミが実験に成功したため、組織がナミの『アーカーシャ』関係者の暗殺及び脱走を危惧したため、魔獣兵計画から『魔道機械兵』計画へ変更された。
ナツはナミへの人質として『魔道機械兵』の最初の手術で、子宮を爆裂の魔道具と置換された。
その後もナツは筋肉や骨格、臓器を魔道具や魔道金属に置き換えられた。現在、脳や脊髄以外はほぼほぼ魔道具であり、元の肉体は1割にも満たない。
「ふぅー。……完全に麻痺したよ、ナツ姉」
「ん。ありがと。ナミちゃん」
ナツが捕らえた暗殺者に麻痺毒の吐息を掛けるナミ。リーダー格の暗殺者を確保した二人。
「ん。私の代わりに、見せしめに、爆死した母さん……魔獸になってしまった父さんっ!」
「実験に失敗して、溶けてしまったエミリオ……可愛い可愛い弟だったのにっ!」
「「家族の仇を打つまではっ!!」」
全てを忘れて幸せに生きる道もある勇者邸。人生の全てを狂わせられたがゆえに、復讐に囚われたままの娘もいる。
「ん。いまのままでいい。」
「今は、実験番号から取った名前でいい。」
「ん。いつか、いつか。『アーカーシャ』を滅ぼしてから、勇者さまに名前を付けてもらお?」
「そう、今はまだ! 復讐の炎はまだ……」
「ん。まだまだこれから!」




