歩み寄り
サキとエレオノーラが、庭の端っこで焼き芋をしている。昨日の焼き芋のやり直しを2人だけでしているようだ。
勇者邸のその他の全員は庭でお茶をしたり掃除や鍛練をしながら、ちらりちらりと2人の様子を遠巻きに窺っている。ただ、2人の会話はイザベラの結界魔法によって音が一切外に漏れないようになっている。
2人がどんな話をしている聞こえないからこそ、皆気が気ではなくハラハラしながら見守っている。
勇者に至っては「失敗したら……また泣かせたら……」とぶつぶつ呟きながら同じ場所をぐるぐる歩き回り、『幼稚園生の娘の発表会を見に来たは良いが、心配し過ぎ右往左往するお父さん』状態になっている。
「はいはい、心配性のおとーさんは座ってお茶にしましょー」
レナがそうクスクス笑いながら、勇者の後ろ襟を掴みズルズルと物理的に勇者をテーブル席まで引きずり椅子に座らせた。
「こういう時、おとーさんはどーんと構えとけばばいいんです」
そう言われた勇者は頬をピシャッと叩き、表情を引き締めた。そして、椅子の背もたれに寄りかかったというより、ふんぞり返ると同時にレナのお尻をナデナデ。
「はぁ。流れるようにエロい事してきますねぇ」
尻を撫でる勇者の手の甲をつねりながら呆れ声を漏らす。ただ、「ギリギリギリギリッ」と普通につねった位では到底出ない音がしている。
たっぷり10秒つねられた勇者、赤くなった手の甲に息をフーフーと吹き掛けている。
「ぷふっ。レナさんは回避出来るのに、触らせてからつねるのだな?」
テーブル席にはクリスタルが先客として座っていたのだが、『露骨に心配する父、それを窘める母、そこから夫婦漫才かぁ』とすっかり空気になって眺めていたが笑いが漏れてしまった。
「いつ、どこで触られてもいーんです。ただ、放っておくと際限なく触るので、お茶を淹れるじゃまなんですよー」
「すごい音がしてたけど?」
「あー、一般人なら肉がちぎれるくらいかなぁ」
「……力加減がいつも斜め上なんだよな」
そう言いつつも内心ではあまり驚かなくなっている自分に気づくクリスタルであった。
ささっとストレージから茶器一式を取り出し、淀みなく流れるように3人分の紅茶を淹れたレナ。
「今日のお茶請けはお芋のグラッセですー。良質なお芋があるので、あまり小細工なしですね」
クリスタルは、自分の前に置かれた小皿からグラッセを1切れフォークで刺してぱくり。
「んんー。バターの風味と芋の甘味が堪らないな」
「よろこんでくれて、なによりですねー」
ひょい、ぱくり。ひょい、ぱくり。カツン。
「あ、もうない……」
あまりの美味しさに自分の分をすぐに食べ終えてしまったクリスタルは寂しげな表情を浮かべる。
「クリス、ゆーしゃさまが……」
小皿から目を離し「旦那様がなんだ?」と勇者の方を見ればそこにはグラッセをフォークに刺し自分に差し出しているではないか。
誰に言われずともわかる『あーん』してくれているのだろう。く、恥ずかしい! 顔が真っ赤になっているに違いない。耳まで熱いし!
「あ、あーん……」
うっわ、声が上ずっちゃった。ふあぁ。
もーだめ、急いでグラッセを口に入れたら、顔を隠さないと! もう見られているからおそいけど! わぁぁぁ!
「『剣聖』の中身は、ホント乙女ですねー。いまどき『あーん』位で真っ赤になるとかー」
自覚はある。ほっといて!
「見てないと思ってましたー? サキが『あーん』をねだる時のクリスの羨ましそうにする表情」
ぐあああ、この間の夕食の時か! いとも簡単に甘えられるサキさんを羨ましく思っていたとこかっ!
「その後、同じ貴族の出のイザベラも自分から『あーん』を要求しているのを見てへこんでたでしょ? なんで私は素直になれない、と」
もうやめてー!恥ずか死ぬ!
「高位貴族にしては男女のアレコレが非常に乙女なのはゆーしゃさま的にはツボみたいですよ?」
ぐっはぁ、もう無理。熱い顔を両手で隠して、丸まってぶるぶるしちゃう!
「んー。サキとエルの方は無事に落ち着いたようですね」
2人は焼けあがったお芋を半分ずつ持っていた。右手に『グラン・マギウス』印の芋、左手に件の紫芋を持ち、両方の味を確かめては笑顔を浮かべている。
勇者邸全体の緊張感は無くなり、思い思いに部屋へ戻ったり談話室に移動した。
「あーしがその師匠のローブの修繕とか、ちさちさに頼んであげんね!」
「……あ、ありがと」
「あーしは、エルより親の愛情しらなくってさ!実のオヤジに殺されかけて……」
2人だけが自分の過去を語り合い、ただただ時間が過ぎ去った。




