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焚き火

 秋も終わり勇者達の住む王都は日に日に気温が下がり、冬の訪れが実感できる季節になった。そんな冬の良く晴れた日の午後、勇者邸では勇者を筆頭に総出で焚き火をしていた。


 すでにめらめらと燃えていた炎はすでに無く、焚き火に使用された薪や木材が真っ赤になった『熾火(おきび)』の状態である。落ち葉や庭園の樹木の剪定枝、廃材などを燃やして処分していたのである。


「運んできたぞ、勇者」

 熾火(おきび)の前にしゃがみこんでいる勇者にクロエが声をかけた。ひと抱えもある大きな木箱をどすんっと地面に下ろした。


「この箱の中身を火にくべれば良いのだろう?手伝うぞ!」

箱からどんどんと銀紙に包まれた物を、焚き火で出来た灰の中に埋めるクロエ。なんだか上機嫌に見える。


 そんなクロエの様子に勇者もニコニコしながら同じ作業をし始めた。

「なあ、勇者よ。楽しみだな! 焼き芋!」


 なんのことはない、勇者邸では毎年恒例の焼き芋パーティーである。そもそもゴミを燃やして処分するのが目的ではなく、焼き芋をしたいのでゴミを集めて来たのだ。結局、それだけでは燃料が足らず、わざわざ薪を追加している位である。


 勇者自身も焼き芋が大好きであるが、勇者邸の女性陣も全員漏れなく大好きだ。異世界でもお芋様々なのである。


 クロエは鼻歌混じりにせっせと箱から芋を取り出し、熾火(おきび)の中に埋めている。全ての芋を入れ終え、箱の中に入れ忘れが無いか確認している一瞬の隙に勇者の手が動いた。


「ん? 旦那様が火に何か入れた?」

「……?」


 テーブルや椅子を運ぶ作業をしていたクリスタルが近くにいたサキに尋ねる。サキはこれから起こる事がわかっていますとばかりにニヤニヤした顔付きで答えた。


「うん、いれたねー。クリスとエルは今回が初のイモパだからわかんないかっ」


 エルにいたっては勇者の手がぶれた様にしか見えておらず、さっぱり訳が分からない様子。


「まぁ、みてればわかるって」


 椅子を並べながらクリスタルとエレオノーラは、勇者とクロエの観察をする事にした。しかし、5分経ち10分経っても状況が変わる様子が無い。

 火バサミで炭の位置を調整するクロエと、その尻を撫で回す勇者がいるだけだ。


 作業も無くなりクリスタル達が勇者の観察に飽きれ始めた頃、状況は動いた。熾火(おきび)の中からバチバチバチッという破裂音と共に何かが飛び出してきた。


 栗だ。焼けて弾けた栗が四方八方にばらまかれた。焼き栗の散弾が勇者とクロエを襲う。


「出た出たっ。弾けた栗に驚いたクロエが、後ろにひっくり返って落とし穴に落ちるってワケ。去年は大成功っ」


 サキがクリスタル達に今回のイタズラの内容を教えた。


「……なんというか、なぁ」

「…………子供」


 勇者のイタズラのくだらなさに呆れてしまうクリスタルとエレオノーラであった。だが、せっかくだし最後まで見るかと2人は目を向けた。


 難なく焼き栗を左手だけでキャッチする勇者は、クロエのリアクションを見ようと顔を向ける。が、クロエがいない。

 驚愕のする勇者に空中から声をかけられた。


「見たか、勇者ぁ!私とて日々成長しているのだ!」


 クロエは5m近い高さまで跳躍し、焼き栗散弾を回避したのであった。ただし、後方へと。

 飛び上がれば後は落下する。重力がある以上、自明の理である。


「フハハハハハ……『ドッボーンッ!!』カボガボガファ……」


 後方に跳んだのが運のつき。クロエ、安定の池ポチャである。ただ、あまりに勢い良く落ちたため溺れている。「あのバカなにやってんの!」と大声を出しながらライラが救助に走って行った。


 まさか回避すると思っていなかった勇者は、クロエの池ポチャから数秒遅れて「ゴフッ!」と吹き出し大爆笑。しかし、爆笑し過ぎて足をもつれさせ、自分で掘った落とし穴に前のめりで落ちていった。勇者、自業自得。


「ブヒャヒャヒャッ、よ、避けて、池ポチャって!アハハハハッ、自分の掘った穴に落ち、イーヒッヒッヒッヒーッもうダメェ!」


 両方をじっくり見てしまったサキは、服が汚れるのも構わず地面を転げ回りながら大爆笑。いよいよ笑いすぎて呼吸音が怪しくなってきている。


 庭のあちこちでサキと同じ様に笑っている者。現在進行形で溺れるクロエ。血相を変えて救助活動をするライラ。落とし穴から聞こえる勇者の笑い声。


「カオス過ぎないかな?」

「……ヒドイ」


 クロエの池ポチャに驚いているうちに、笑うタイミングを逃してしまったクリスタルとエレオノーラは余りの惨状にドン引いてしまった。


「焦げないうちにお芋を回収しておくか」

「…………ソウダネ」


 周りの惨状に無視を決め込み、焼き芋を優先させたクリスタルに対しひきつった声で返事を返すエレオノーラ。なんだかんだ勇者邸にクリスも馴染んできているじゃないかと考える一方、いずれ自分もあの和に馴染むのかとも思い、背中に冷たい汗が流れるエレオノーラであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今回は日常回ですね。
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