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妖精族 アゲハ


 私は、アゲハ。妖精族のアゲハ。


 勇者様、もとい、ゆーくんにそう名付けられた。


 私たち妖精族は、エルフの国の中でも近づく事すら「禁忌」とされる妖精族達が住む森。その森のさらに奥にある「妖精の泉」で誕生する。

 中天に輝く陽光を泉が蓄え、そのエネルギーが飽和したときに妖精が生まれる。太陽の光に含まれる魔力と泉が持つ魔力から妖精族は生まれるらしい。

 正直、私にもよく分からんし。興味もない。


 妖精族は、人族の10分の1のサイズで平均身長15~18cmであり、通常背中に生える羽根は蝶の羽根をしている。

 まぁ妖精族はほとんど同じ顔付き、金髪、透明で魔力の光を煌めかせる蝶の様な羽根。これが、種族としての主流であり、少しでも違うものは、排除される傾向がある。

 少しだけ髪の色がくすんでいるだけで、仲間外れにされるくらい閉鎖的な種族なのである。



 そんな妖精族の中で、私は完全に異端だった。

 月の無い新月に生まれ、黒髪黒目、羽根は真っ黒という、妖精の里では、完全に異質な存在であった。

 当然の様に毎日いじめられ、殴られ嫌がらせしかされなかった。





 私には、前世の記憶があった。だからこそ、いじめに耐えた。耐えてしまった。バカなやつらの相手などしなければ良いと無抵抗で無視を決め込んでいた。

 どうせ、泣けば面白がり、抵抗すれば暴力がエスカレートするに決まっている。助けを求めようにも異分子は私だけ、長く生きている族長達も見て見ぬふり……いや、面白い見世物を眺めている様なにやついた顔をしている。


 早く魔法を覚え森の外へ行かねば。危険が沢山あろうがこの群れの中にずっといるよりはマシだ。もうしばらくの辛抱だが、魔力の制御法から自己流であり訓練は遅々として進まない。

 ツライ。


 進まない訓練に焦る毎日、なのに毎日いじめにくる4人組のバカども。アザや擦り傷が治る前に増え、痛みで訓練に集中出来ない日も多くてイヤになる……

 地面に這いつくばって、痛みで動けないまま朝を迎えた事も少なくない。





 バカな奴らは私の想像よりずっとバカだった。


 何も抵抗しないと理解したバカたちは、何をしても問題ないと勘違いし、バカたちは私の身体をよってたかって押さえつけ、私の黒い蝶の羽根を引きちぎることにしたのだ。

 片羽根で飛べるかどうか? このままじゃまずいっ。



「やめっ、あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーー!!」



 くっ、くそう。前世と一緒じゃないか! クズなストーカーにいいように玩具にされてしまった前世と!!


 何でだ、なんで私は、繰り返す!!なんで繰り返される!!


 もう。もうダメだ。ゆーくん。お姉ちゃんはタエラレナイ……


 もう、飛べない。何処へもイケナイ……


 また、シヌノカナ……




 全てを諦め、全てがどうでもよくなり目を閉じようとした時。

 目の前に、見覚えのある体格、黒髪黒目、小柄なゆーくんの姿があった。例え1度死んだ身だとしても、見間違えるわけがない!

 私の弟、ゆーくんだ!!



 ゆーくんは、4バカの羽根を全員、全部むしった。前世で見たこともない無表情のゆーくん、蚊を叩く時よりも無だ。私が前世で殺された後に完全に拗れたようだ。

 ごめんね、お姉ちゃんのせいで心が歪んじゃったんだね。


 4バカ以外の眺めて居ただけの奴らも羽根をむしられた。

 族長に至っては、それはそれは丁寧に。痛みがより長く続くよう、ゆっくりゆっくり、4枚の羽根を1枚ずつ引きちぎられた。ザマアミロ。

 被害者の私からすれば、皆死んでもいいくらいだ。


 その後、ゆーくんに魅了を掛けられて立派なお屋敷に連れてこられた。羽根の再生治療を受けながら、ゆーくんのお屋敷にいる女性達に「新人教育」として色々教えて貰い、みんなの身の上も知った。


 聞けば聞くほど驚きの連続で、開いた口がふさがらなかった。ゆーくんが勇者様なことから、魔王討伐や増える一方のハーレム。

 めちゃくちゃ強いのはわかるが、ゆーくんはすっかりエロい子になってしまっていた。


 ただ、ハーレムではあるがこのお屋敷は何らかの被害女性のセーフハウスとして機能している。

 お屋敷の外では生きていけないひとばかりだ。すでに死んだ事にされている人も。王女様と皇女様とか……なんでロイヤルなレディがフツーにいるかなぁ。


 サキさんがゆーくんのツボなのも分かる。ゆーくんの部屋の本棚にあった『国語辞典』のケースの中のエッチな漫画のキャラそっくり。そういや『オークにくっ殺されるエルフ』ってタイトルも一緒に入ってたなぁ。あのエルフさん?まさかね……


 いっちばん驚いたのは『剣聖』様だ!

 前世の私と双子かっ!って位、顔も体格もそっくりだ。名前も「クリスタル」で愛称が「クリス」って、そこまでかっ!


 ゆーくんはクリスさんを救えたことで、胸に抱えた激しい復讐心は薄れた様子だった。よかった。


 あれこれ考えた私は「紅莉栖の転生者」であることを名乗り出ない事にした。


 少し話をしただけで、ゆーくんがみんなを大切にしてるのは分かるし、みんなもゆーくんを大事に思っているのが分かる。

 『前世が姉』と言うだけで、今の環境に土足で入り込むような意地汚い女にはなりたくない。


 なので、ゆーくんに名前をつけて貰うことにした。妖精族の中では「黒いの」や「黒すけ」と呼ばれていたと伝えると、妖精の森を焼き討ちしに行こうとしたので、さすがに止めた。

 止めたら何でかメイドさんがガッカリしていた。なんでや??


 ゆーくんはすぐに私に「アゲハ」と名付けた。うん、予想はついてた。ゆーくんが変わってなくて安心した。蝶の中で「クロアゲハ」が1番好きだったもんね。



 今の私は「アゲハ」

 ゆーくんの好きなクロアゲハ。


 ゆーくんにの頭の上に乗って居るのは、体の小さい私だけの大特典!皆がうらやましがる、お揃いの黒髪黒目!


 ごめんね、ゆーくん。黙ってる私を許してね。

 日本では法や倫理上、無理だったゆーくんへの思い。転生し、他人になった今なら異性として好きって言えるんだもん。





 ただなぁ、レナさんには私の正体ばれてるみたい。

「紅莉栖、んんっアゲハは何を飲みますー?」や、やめてニブチンのゆーくんじゃなかっらバレるからっ!

 クリスはあっちで紅茶飲んでるけど。って不思議そうにしてるゆーくん、セーフセーフセーフ!筋金入りのニブチンで助かった。

 レナさんニヤニヤしないでぇー!



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