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訓練場


 ブリュンヒルデの起こした決闘騒ぎから7日が過ぎた、良く晴れた昼下がり。勇者邸の広い庭園の中にある訓練場では「全力疾走する2人と仁王立ちする1人」と言う見慣れた光景に成りつつある訓練風景がある。


 サキ命名『レナズブートキャンプ』通称『レナキャン』である。


 当然、仁王立ちしているのはレナだ、鬼教官である。走り続ける2人の内1人は『レナキャン』入りして7日目の『聖女』セラフィーナである。

 もう1人は先日、アンナに『ナイナイ』されたブリュンヒルデであった。


 見慣れた訓練風景ではあるが、あちこちおかしな所がある。


 まず服装、全員が汚れてよい動きやすい服ならば何も問題ない。軍服で統一されていれば、軍の新人訓練に見えるだろう。

 レナの頭には黒い軍帽が乗っているのはまあ良い。軍帽のトップの縁や顎紐は輝く金糸で装飾され、クラウンと呼ばれる部分にあるケルベロスのエンブレムも同じもので刺繍されていたされていた。


 おかしいのは首から下。闇を思わせる濃い黒のゴシックロリータと呼ばれるデザインのワンピースを着ている。レースやリボンもふんだんにあしらわれ、長い袖口とスカートの裾は左右非対称にカットされたデザインで非現実感が表現されている。

 余りにも新兵訓練の教官役には似つかわしくない。


 レナの小柄なロリボディにピッタリなゴスロリワンピース、まして今日はいつものポニーテールではなく、日ごろ幼く見えすぎてイヤだと言っているツインテールにしている。

 何処のご令嬢かという可愛さなのに、頭上に鎮座する豪奢で威圧感のある軍帽。


 退廃的なエロティシズムと圧倒的武力をしめす厳つい軍帽……。勇者の倒錯しきった性癖に感動すら覚えてしまうハーレムメンバー。

 勇者のこだわりがスゴすぎて誰もつっこめない。


 それだけでもお腹いっぱいなのに『聖女』セラフィーナは、女学生が着る体操着。上は白の半袖の運動着、とても実用的な物だ。

 ストレッチ素材で作られた運動着はセラフィーナの双球に張り付くように立体縫製された専用装備である。その胸に縫い付けた大きな名札には『せら』と勇者の直筆で書いてある。


 正直、セラフィーナの双子スイカの圧力で『せら』は読みにくい程伸びている。

 ソコにブルマとか勇者ダメじゃないかな? 完全に『AV性女』になっている。

 ジョブチェンジした上にランクアップしてるよ?



「イエスッ!全力であります!マム!」「アイッ! マム! ウジ虫であります!! 雌牛ですらありません!!」とレナの罵倒に叫ぶ様に返事をするセラフィーナ、声色は生気に満ちあふれ表情にはどこか悦びの色が見て取れる。

 自己に確たる芯の無いセラフィーナは、また変な方向に傾いているようだ。まだまだ『レナキャン』は始まったばかり、これからしっかり叩き直されるであろう。



 疲労はしているが元気そうなセラフィーナとは対照的に、ゾンビの方がマシだろうと思えるほど、どんよりとした雰囲気で足を引きずるブリュンヒルデの姿がある。走る事が出来ない程疲弊しているようだ。

 ブリュンヒルデの姿は目も当てられないほど酷い。


 龍人族が大事にする角が、右側は根元から、左側は40cm近くあったものが中程で折れている。

 目にはまったく活力が無く、誰が見ても「人生に絶望したので自殺します」という顔をしている。


 さらに着せられている物がおかしい。白くて美しい太ももと二の腕が太陽の元に晒されている。

 濃紺色の生地は伸縮性に優れ、水に濡れても体の動きを阻害しない物である。いわゆる水着だ。スクール水着である。


 178cmの高身長にスクール水着だけでも酷い絵面なのに更に拍車をかける物が、レナと良い勝負と言える控え目な胸にはでかでかと『ぶり』と書かれている。

 しかも異様に達筆で、『ぶり』の文字を見ると丸々と肥って脂が良く乗った『鰤』が目に浮かぶ程である。



 そんな『レナキャン』の様子を勇者は四阿からティサキルエダとおやつを食べながら眺めている。


「おぉ今日のシューの中身はディプロマットだな! 何個でもいけるな!」と勇者に渡された山盛りシュークリームの大皿を抱えて喜ぶティサキルエダ。

 今日の衣装製作のご褒美の様だ。


 嬉々としてシュークリームを頬張るティサキルエダを尻目にかけると、勇者はバルンッバルンッと揺れるセラフィーナの乳を凝視し始めた。

 目玉がこぼれ落ちそうである。今日も勇者は全力だ。




「…………服装にはつっこまないぞ」

 どこか遠い目をしながらクリスタルは呟く。


「しかし、『ナイナイ』された後、彼女に何が何があったんだ? 立派だった角が折れているし……」

「ん? アンナが折檻したっぽ!」


 クリスタルとサキも四阿とは離れたベンチで、フルーツジュース片手に見物していた。勇者邸には人手の割に仕事が少ないので、暇な時間が多いのである。


「もっと詳しく、簡潔にまとめすぎ」

「しっかたないなー! 『ナイナイ』されたまま、影の中で5日間、心が折れてもボコられては説教を繰り返してたって!」

「え、ええー……」


 まさかの内容にドン引きするクリスタル。繰り返される折檻の中で、角が折られたのは容易に想像がつく。


「あんにゃんのことだから、絶対最初に角折ったね! まずプライドをへし折りにいくスタイル!」

「え? アンナって結構やばい?」


 ドン引きし過ぎて語彙力がやばくなるクリスタル。


「超ヤバいよっ! すぐキレて、手加減下手くそなのにやり過ぎる!」

「え?え?」

「ご主人さまが禁止して無かったら、王都は血の海っぽい!」

「…………」


 思考の許容量を越えたため、黙り込んでしまうクリスタル。


「んでー、昨日、角折る程やっちったあんにゃんに、レナレナが物理的教育的指導した、みたいな?」

「ピッ!」


『レナが物理的』の言葉に反応して変な鳴き声が出てしまったようだ。染み付いた恐怖の影響は大きいようだ。


「で、あんにゃんはボコられたから今日は寝たきり! ブリトニーはキャンプインと新人教育でゾンビー!うける!」 

「ブリト……? あ!名札の『ぶり』は……」


 名札の筆跡の違いや、『ぶり』に感じるわずかな悪意に違和感を感じていたクリスタルは真犯人に気付いたようだ。

 そもそも勇者は悪意のあるイタズラはしない。エロいイタズラしかしないのだ。まあクロエは除外されるが。


「あーしでしたー! ご主人さまは『ひるで』って書いたのを用意してたけど張り替えた!」

「愉快犯はここにいた!」


 変わったあだ名を付ける事を愛情表現のひとつとするサキであるが、通常の愛称『ヒルデ』をいじらずに名前の頭の方から『ぶり』を取ってきた。

 しかも『ぶり』は謎の存在進化をとげ、『ブリトニー』に確定したようだ。『ブリュンヒルデ』と『ブリトニー』、もはやあだ名ではなく別の人物ではないか。


「そーそー、キャンプインで思い出した。 近いうちにクリスとエルも参加だって! やったね!」

「…………え?」

「4人まとめて『レナキャン』するの、初めてだから張り切ってるみたいよ?」


 まったく予想外の角度からとんでもない未来を突き付けられて、完全に固まってしまうクリスタルであった。


「ついでだからクリスからエルに伝えておいてよ!」

「…………キャンプイン?」

「違うって! 明日からご飯に毒盛るって! エルのだけ! お残ししたらお仕置きだべー!」

「え?え? なんで毒?」


 サキが毒を盛る目的の部分をとばして話してしまうため、クリスタルは混乱する一方である。


「先に毒の耐性付けるってさ! しんどいからガンバって!」

「えぇ……」

「レナレナは皆の生存力を高める事に手を抜かないよ。誰が欠けてもご主人さまが悲しむからね!」

「…………納得した」


 レナの行動基準は全て「勇者がどう感じるか」であり、負の感情を抱きそうなら全力で原因を排除する方向に動く。喜ぶ事はなんでもするし、今日の服装はレナ自身喜んで着ている、村娘のままだったら一生着ることなどあり得ないほど上質な服であるから。


「クリス達のキャンプは『3桁の騎士に囲まれても、1日生き残る』って感じの訓練だよ! 正直ぬるいっぽい!」

「結構厳しいとおもうが……」

「セラ達のはお仕置きも兼ねてるから、『4桁の騎士』コース!」

「……1対軍って……」


 お仕置きで訓練が何倍も大変なものになってしまう事を聞き、絶対にレナの逆鱗に触れないように心に誓うクリスタルであった。


「あんにゃんとシャルるん、ちさちさみたいな古株は『四桁の騎士からハーレムメンバー全員を1日生存させる』コースやったからね!」

「そうか、レナさんは旦那様が助けに来るまで生き残る事を想定しているのか」

「せーかい! 花丸あげちゃう!」


 勇者ハーレムに入った順番が1桁台の者は、それぞれが単独で屋敷で防衛戦が出来る実力者である。

 名前の上がった順に、7番4番5番である。番号が若い方が実力は上である。


「で! あーしとレナレナは『数万の軍勢から全員を最低3日生存させる』くらいに鍛えたっ! どっちか居れば安全安心、一家に1台的な?」

「……ここは修羅の国かな?」


 とんでもない実力差があること聞かされ少し放心してしまうクリスタル。直ぐに気を取り直し、修行で硬くなった自身の手のひらを見つめ決心したように頷く。


「もう1度がんばってみるか」


 クリスタルの呟きを拾ったサキはニヤリとして明るい声をあげた。


「オッケー! クリスは『マストダイコース』希望って言ってくる!」

「ちょ、まっ!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



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