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 百合百合しいクロエとライラ、ケーキを食べさせ合いっこし、手をつないだまま紅茶を飲んでいる。

 勇者邸では珍しくはなく、日常の1コマでしかない。


 最初は、クロエとライラが絡み合うよう勇者がお願いし、渋々いたしていたが、「絡むエルフご馳走!ブヒブヒ!」と眺めるだけでは我慢できなくなった勇者がオーク役で参戦したが事のはじまりだ。

 そんなプレイを2度、3度と続けるうちに、クロエとライラは肉体的、精神的に距離感が他の女達より近くなってしまった。

 ぜーんぶ勇者が悪い。あと、オークは喋らない。


 ピンクな空気をかもし出す2人とサキのおしり、その両方に視線を送る勇者。勇者の目玉は反復横跳びをするように、せわしなく動いている。満足気である。

 だが勇者のおたのしみタイムは長く続かなかった。



 バーンッと談話室の扉が勢いよく開かれたのだ。扉を開いた人物に目をやった勇者は、露骨に顔をしかめた。


 燃え盛る炎の様なくせの強い赤髪。その髪をかき分ける様に左右の側頭部から、後ろ向きに天へ向かうように生えた1対の角。

 美人ではあるが気の強さが見て取れるつり目には、龍人族の特徴である金色に輝く瞳と縦に割れた瞳孔。

 尾骨の位置から伸びる長く太い龍の尻尾は、髪と同じ真紅の鱗で覆われている。


 先日勇者が拾ってきたドラグノフ龍皇国の第2皇女その人である。勇者が顔をしかめたのは、龍人族である彼女の種族特性を知っているからである。

 

「そこの虎人族!お前が1番強いなっ!|わらわと決闘だっ!」 


 開口一番、決闘の宣言。

 龍人族は個人の武を尊重し、意見の相違があると物理的な勝負で物事を決めたがる。しかも、ある程度の人数がいる集団に属すると力ずくでヒエラルキーのトップに立ちたがる。

 他種族にはかなり迷惑な存在が龍人族である。


 勇者ハーレムのトップに成るために、強者の気配がする談話室に来たようだ。


「……オレ? そもそも、あんた誰さ? 新入りかい?」


 勇者の隣のソファで喉をゴロゴロ鳴らしながら、勇者に仕込んでもらったマタタビ酒を舐める様に飲んでいたフーカは不思議そうに尋ねる。


 フーカの感情の動き合わせ揺れる、黄色と黒のコントラストが美しい虎の尾。その尾の動きでフーカの着るチャイナドレスがめくれ、よく鍛えられたきれいな脚と下着の結び目が見えた。


「ひ、紐パンだとぉ」と呟く勇者。やっぱり見逃していなかった。

 チラリと見えただけで機嫌は戻ったようだ。今日も勇者の性癖が大渋滞している。

 そのチャイナドレスだって腰の高さまでスリットが入れてある勇者印だろうに。



 フーカは虎人族の中でも飛び抜けて大柄で、クリスタルよりも背が高く190cmを越えている。肉食獣系の獣人は、総じて脳筋傾向があり強いものが偉いと考えているものも多い。


 フーカはその体躯から集落1番の狩人であったが、それを妬んだ男達に狩りの最中、後ろから麻痺毒を塗ったマチェットで切りつけられ放置された。

 勇者が発見するまでフーカは魔物に意識があるまま食われており、尻尾は完全にちぎれ腸がこぼれ出る程の重体であった。


 勇者にお持ち帰りされ、再生してもらったフーカの自慢だった長い尾は勇者の物だと思い、勇者の好きな時に好きなだけブラッシングさせている。

 勇者は尻尾が大好き。フーカの尻尾もサキの尻尾も、皆違って皆良い。

 



「ブリュンヒルデ・ドラグノフ! それがわらわの名前である! さあお前も名乗りを上げ、尋常に立ち合えい!」



 マタタビ酒をちびりと飲み喉を湿らせたフーカは、

「いやだ…………ミ゛キ゛ア゛ア゛ァァーーー」言い切る前に叫び声を上げ、猫のように小さく丸まってしまった。

 さっと動いた勇者がグラスをキャッチし、フーカの頭を抱きに移動した。


「……あうぅオレも……あ、アウト……?」

「いえ、セーフです。「いやだ」と言えてましたので」


 ほっとした様で力が抜けたフーカは勇者にしなだれかかる。すかさず、丸い虎耳をもふもふする勇者。


「突然現れて、何だお前は」

「メイドのアンナです。ずっと居ましたよ」


 アンナは長袖に足首まであるスカートのかっちりとしたメイド服を着込み、頭部にはホワイトブリムとお団子型のシニヨンといかにも仕事が出来るメイドと言った感じがある。

 顔立ちは彫りが浅く王国民のに好まれないだけであり、勇者には「日本人顔で懐かしく感じる」と好評である。



「あんにゃん出てきちった! あーし、しーらない!」

「え? 何処から出てきたの、居なかったよね?」

「あんにゃんは普段メイドのお仕事してるけど、非番の日はご主人様の影の中に居るよ! ストーカーっ!」

「エェ……」


 サキの言葉にどう反応していいか分からなくなったクリスタルが小さくうめいた。


「メイドらしく『お片付け』しますね、勇者様」


 いきなり出てきて『お片付け』すると言われたブリュンヒルデは激昂する。脳筋でも『お片付け』されるのは自分の事だと察したようだ。


「ぐぐぐっ弱そうなメイドのクセになんな『ナイナイ』


 大声で叫ぶセリフは、小さく放たれた言葉は酷く冷たい声色で遮られた。『ナイナイ』とアンナが言った瞬間、彼女の影から大小様々なサイズの歪な手のような影が無数に伸びブリュンヒルデは拘束され、そのままアンナの影に呑み込まれた。




「ストーカー、言った位であーしにまで『ナイナイ』するなしっ」


「えっ?」と思ったクリスタルがサキの足元に目をやると、サキの右足首を影の手がつかんでいた。

 すぐにサキに振りほどかれ、ぐりぐりと踏み潰されて消えた。


「お茶目なメイドのかわいいイタズラですよ?」

「ま、イイケド」


「では」と言い残し、綺麗な所作のカーテシーをした後、勇者の影にトプンッと飛び込んでいった。



「……も、もういない? いない?……いなくなった?」


 勇者に必死になってアンナの所在を確かめるフーカ。勇者に沢山ナデナデされている。


「あはは! フーカも同じ事して『ナイナイ』されたからなー! トラウマってる! うける!」

「…………」


 すでに許容量を越えたクリスタルはぼんやり「あの娘とは仲良くなれそう……」と現実逃避していた。

「はぁ」とため息をしつつ窓の外に視線を送れば、腕立て伏せをするセラフィーナの背の上に岩を担いだレナが立っている。


「……イミワカンナイ」


 今日も勇者邸はにぎやかだ。



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