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挿話 今日という日


「やっぱり今年もここでしたかー」


 勇者邸の屋根の上に座り込み、星空を眺めていた勇者の背中にレナの柔らかい声が掛かる。


「夏が始まったとはいえ、夜は冷えますよ」


 そう言いながら勇者の隣に座り、手に持った薄手のブランケットを並んだ2人の肩に掛けた。


「夢見が悪かったんですねー、今日はおねーさまが、見つかった日ですもんね」


 そう今日は行方不明であった勇者の姉、紅莉栖が発見された日。恐らく命日といえる日だった。


「ほらほら、涙を拭きますよー?」


 ハンカチを取り出し、悪夢を見て泣いてしまった子どもをあやす母の様に優しく優しく顔を拭っていく。


「今夜は特に星が綺麗ですねー。ゆーしゃさまの世界では、『死んだら星になる』って言う人が多いとかー」


 勇者はずっと黙ったままで、その表情は哀傷の色におおわれていた。


「ほら、世界は違ってもおねーさまは見守っていますよー?そんな顔じゃ悲しまれますよ」


 勇者は自分の顔を両手でぐにぐにと揉むとレナの方に顔を向け、いつもとより弱々しい微笑を浮かべた。


「それでいいですよ。そうそう、ゆーしゃさまが成人したら、一緒にお酒を飲む約束をしてたんでしょー?」


 紅莉栖は酒好きで「お前の20才の誕生日に洒落たバーに行こう!大人の酒の嗜み方を教えてやる!」とちょくちょく言っていた。

 姉弟でその日を楽しみにしていたが、ついぞ叶うことは無かった。


「お酒、用意させときましたー。クリスにも話し「今夜はねぇさんと呼んでいいぞ」と了解をもらいましたよー」


 なんでなんだ、なんで全部先回り出来るんだ。自分の心の固まってしまった所を溶かしてくれるんだろう。


「雲1つない見事な星空ですねー。お庭でガーデンパーティーにしましょ?外ならおねーさまもゆーしゃさまが見えましょう?」


 告げられた言葉に感謝と喜びが溢れ、レナの小さな身体をギュッと抱き締め口づけを交わした。


「ゆーしゃさまの隣の席には、おねーさまの分のグラスも用意しましたー。献杯は全員『スター・フェスティバル』でしましょー。」


 紅莉栖が大好きだったカクテルだ。七夕の日は必ず飲みに行き、勇者もシャーリーテンプルなどのノンアルコールで付き合っていた。


「そのあとは賑やかに。その方がおねーさまも安らかになれるかとー」


 ぐっと胸を掴み勇者はまた泣き出してしまう。そんな勇者の頭をレナはやさしく撫でる。



「今年からは皆で飲む日にしましょ?ゆーしゃさま」





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