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ティサキルエダの部屋で


 コンコンッコンコンッ


 独特のリズムでノックされた、うちの部屋のドア。返事するより前にドアが開かれる。


「ちさちさっ、入るよー。シャルるんも居るから、おやつにしよっ?」 

「…………入るね……ティセ……」

「もう入ってるよな? ノック意味あるのかな?」


 こいつはいつもそうだな。ノックと同時にドア開けて、勝手に入ってくるしな。うちも言ってるほど気にしてないのを知ってるから、直す気も無いだろうしな。


「言うねー。ご主人さま謹製カスタードマシマシシュークリームっ、ちさちさはいらないっぽ」

「それダメそれダメ!うちが1番好きなの知ってるじゃんなっ!?」

「えー?でも……「新作!新作ランジェリー作るからっ、主が飛び付くスケスケのエッロいのっ!」でわ、ちさちさにシュークリームを進呈っ!!」

「……ホイップ多め……作って欲しい……」


 いつものやり取り。ふざけあって、からかいあって、楽しい日常。勇者の屋敷でしかあり得ない光景。『魅了』スキル無しでは紡げない絆。




 「シャルるん」と呼ばれた娘は、他の娘には「シャル」と呼ばれる正しい名前は「シャルロット・ヘイゼルランド」、勇者召喚を行ったヘイゼル王国の第3王女である。


 姉2人と比べると地味に見え、華やかさは無いが知的美人という様な容姿であった。

 腰のあたりで切り揃えられた艶やかで真っ直ぐな金髪と深い知性を感じさせる濃い碧の瞳。 実際、本好きで内向的で舞踏会などは好まなかった。


 婚約者もいなかったシャルロットは、召喚される勇者に嫁ぐ事が決まった。勇者召喚が成され、『魅了』スキル持ちが分かってからは、王国上層部で沢山の議論が持たれた。

 最終的には当初の通り召喚した勇者に魔王討伐後に報奨として与える事に決まり、外遊中のシャルロットが王都に戻る際に事はおきた。


 王家と勇者が婚姻により王家に強力なスキルを持つ子が生まれ、王家の力が増す可能性を面白く思わぬ貴族達により護衛騎士が反国王派に入れ替えられていた。


 王都にまだ遠い地点で、それは起きた。護衛騎士10人による、凌辱劇。専属侍女は散々、輪姦されたあと胸に剣を突き立てられた。


 眼を見開いたまま死んだ侍女を見せつけられながら凌辱されるシャルロット。叫び声が五月蝿いと喉を潰された。まだ続く凌辱、いずれ侍女と同じ末路になること理解し全てを諦める。深い深い絶望に落ちる。


 諦めきってから黒髪の勇者は現れた。騎士は四肢を擂り潰され、飼い主の情報を話すまで楽に死ねなかった。



 シャルロットを『魅了』し勇者邸に転移、シャルロットの身を清め王の私室に転移した。

 先の出来事を国王に説明する勇者、憤怒のあまりに握り締めた拳から血を流す国王。


 勇者は自分能力と拐ってきた娘と噂されている3人の妻について話し、会って話をしてみないかと提案した。

 自分の目で確めたく思った国王とシャルロットを転移魔法で自宅に連れ帰った。


 レナ、サキ、イザベラ達本人から語られる『魅了』される前の境遇と『魅了』された後の生活。

 毎日楽しく自由に暮らしていると言う。勇者が無体な事をする訳でも無く、夜伽だって自分たちから喜んでしているのだとも。


 驚きに呆然としている国王とシャルロットに勇者は、第3王女は死んだことにし勇者邸で静かに暮らしてはどうかと提案した。

 勇者の本質を理解した国王は『勇者が何をしても王家は黙認する』と告げた。

 放っておけば女を玩具にするようなクズどもを始末してまわり、自死するか発狂するしかない傷付いた女達は勇者の元で安穏と暮らせる事に確信したからだ。


 勇者に貴族が何人殺されても、王家は何も言わない。商人が何人殺されても、王家は何も言わない。女を何人連れ帰っても、王家は何も言わない。

 死んだのはクズ貴族だから。死んだのはゲス商人だからだ。連れて行かれた女は皆、被害者だからだ。


 「娘を幸せにしてくれ」と頭を下げる国王に「任せて下さい、お義父さん」と、応える勇者だった。



 

 勇者邸で幸せに浸りながら過ぎる月日、シャルロットは潰された喉も再生魔法で完治している。しかし、喉を潰された際の痛みと侍女の死がトラウマになり声が出せなくなっていた。

 5年10年と時間を掛けて見守るしかないなぁと皆が思い始めた頃、ヤツは現れた。



 クロエだ。


 クロエは連れて来られて直ぐに勇者邸のみなに馴染んだ。1週間が過ぎ、事件は起きた。


『くっころさん劇場』である。


 庭で何か準備をしている勇者を不思議に思い、館の中にいた娘達も全員庭へでた。シャルロットは四阿でレナ、サキとおやつタイムを楽しんでいた。


 皆の注目の中、木箱を運ぶように言われるクロエ。素直に3段積みにし運び始める。


 よたよたと重ねた木箱を運ぶクロエ。その様子をただ横で見てるだけの勇者。クロエの持つ木箱はぐらぐら、ぐらぐら。


 池のすぐ側で、一辺が1メートルの四角い木箱を三段に重ねたクロエが小屋へ向かう。突風が吹く、軽い木箱はぐらぐら。


 とととっと池のそばに行くクロエ。またも、風が吹く。風に煽られ池の淵で落ちないよう、こらえる。


 なぜかクロエに近づく勇者。

 それに気付くクロエ。


「ちょっちょっちょっ!触るなよ?触るなよ?触るなよ?」


 素早く突き飛ばす勇者。



 どっぼーー――――ん!!


 

 みんな気付いた『勇チューブ』で見た!『押すなよ×3』だ!と。


 全員が笑う。シャルロットも声こそ出ないが顔を真っ赤にしてブルブルしている。


 『くっころさん劇場』は進みクロエは、勇者の着替え物ボケにツッコミを入れ、最後には『喧嘩してちゅー』で終わった。


 皆大爆笑、生で見るお笑いはひと味違ったようだ。そんな笑い声の中、誰も知らない笑い声が聞こえた。


「アハハハハ、クロエちゃんおかし、え?」


 ピタリと笑いが止まり全員の視線がシャルロットに向けられる。


「……い、今の…………わたくしの、……」


 ガバッと隣にいたサキに抱き締められ、さらにレナにも反対側から優しく抱かれた。


「シャルるん、よがっだぁ、よがっだぁ」とぎゅうぎゅうされた後は、代わる代わるに涙を流したまま揉みくちゃにされたシャルロット。


「クロエ大金星!愛してる!」


 勇者はクロエを思いきり抱き褒めちぎったが、愛してるの時点でエルフ耳まで真っ赤にし気絶していた。


 こうして『みんな大好きクロエちゃん』になり、勇者がクロエを猫可愛がりするのは当然となった。

 若干『くっころさん劇場』を神聖視する者もいるくらいである。


 この日の夜は大宴会になった。

 主賓席にはシャルロットとクロエが座る。大きく長いテーブルには勇者とレナ、サキ、イザベラが全力で作った料理が数も種類も大量にならんだ。

 乾杯すれば飲めや歌えやの大騒ぎ。みんなに酒を注がれながら称賛されるクロエ。実は訳が分かっておらず「何故主賓席なのだ?」などと困惑している。


 勇者が転移で連れてきた国王夫妻とシャルロットは3人で抱き合っている。国王も大粒の涙を流している。


 この日からシャルロットは言葉少なではあるが話せるようになり、クロエはしばらくの間1人だけご飯のおかずやデザートが1品多かった。




 3人が雑談しながらシュークリームを食べ終えた頃、テーブルの真ん中に魔方陣が浮かぶ。

 魔方陣がふわんと光り消えると、シュークリーム3個乗ったお皿が現れた。


「お、ホイップマシマシがあらわれたっ」

「……旦那さま……ありがとう……嬉しい」

「時間経ってから違うのが出てきたって事は、大量に作ってるのかな?」

「なんか、クロエ用にわさび入りでっ、ロシアンシュークリームー!てノリノリで作ってたっぽ」

「わさびってな……頑張れクロエとしかな」

「……ハバネロ……って言ったら……凄いニヤニヤした……」

「何してるんだな?クロエの事が好きじゃなの?嫌いなの?」

「……大好き……でも面白い……」

「あーしも酸っぱいのは?って言ってた『梅干しぃぃ』てどす黒い笑顔になったぽ!」

「おーまーえーもーかー」




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