狐人族 サキ 後編
「ぅぅん」
朝日の眩しさに目覚めるサキ。体を起こそうとするが、起き上がれなかった。
なんで?と思い、まぶたをあけると黒髪の少年に抱き締められていた。
「昨日の……夢じゃなかったんだ」
昨日と同じように抱かれ、人肌の温かさに嬉しくなる。胸の奥がポカポカする、初めて感じる感覚だ。
なんだか気持ちの良い感覚について考えていると、寝室のドアがノックされた。
「入るよー……おっ、起きてたんだね。」
女児といった風貌の子が寝室に入って。彼の妹かな?ん?すごく甘い良い香りに、お腹が勝手に返事をする。ぐーっ。
恥ずかしくて、顔が熱い。
「あはっ、健康な証拠ー。さっさと起きなさい、ゆーしゃさまっ!」
バンバンバンバンっと彼を叩いて起こす、茶髪の妹?似てないよなぁ。おはよレナと、寝ぼけたままキスする彼。ん?ん?兄妹でキスするかな?分からないや。
「あたしはレナ。いろいろ聞きたいことはあるだろけどあとでね?まずはご飯にしよう」
「う、うん……」
「えっと、サキの利き手はどっちかな?」
「あ……右手。な、無い」
「そかそかー、じゃコーンスープっ、はい、あーーーんして」
利き手が昨日切り落とされたのを思い出し、あわあわするわたしにレナさんは、スプーンでスープを掬って差し出してくる。
おずおずとしながら、口を開けスプーンを受け入れる。美味しい。
レナさんはスープを全部食べさせてくれた。彼も何回かアーンしてくれた。うれしはずかしい。
スープの温かさよりも、レナさんが自分の食事はせずにわたしの介護に掛かりっきりなことに、申し訳ないと思いつつ胸が温かくなる。
食べ終わってから左手は無事だったことを思い出す。2人に食べさせてもらうのが嬉しくて忘れてた。
これ迄の食事はただお腹に詰め込む作業だったし、無言で味を感じないくらい冷たいものだったからなぁ……。
お腹が満ちると、視野が拡がり一気に気分は絶望へ……
「ご、ごめんなさい。ベッドに血と泥……あ、あっ、ぐちゃぐちゃにして……」
錯乱するわたしを2人は止めて、
「へーきへーき、洗えばいいんだよー。ゆーしゃさまも汚れたままだから、みんなでお風呂にしちゃおー」
あっという間に裸にされ、広いお風呂の洗い場で羞恥で固まるわたしを、2人掛かりでピカピカに磨かれた。
執拗に2本の尻尾を洗う彼。本当に好きなんだなぁ
お風呂から出ると「夜まで我慢できなかったか」とレナさんがつぶやく。なんのこと?
何も知らない、親にまともな教育を受けなかったわたしは、レナさんと彼に性的な教育と実践を受けた。実践して溶けた。
愛のある触れ合いは、手を繋ぐだけでも気持ちの良い。性交はもっとだ、際限がない。
それから3週間、2人と一緒に寝食をともにした。レナさんはトイレやお風呂の介助を楽しそうにやってくれる。
きっと愛情に満ちた家庭での母親とはこんな感じなのだろう。
一般常識や読み書き計算など、たくさんの知識も教わった。
彼の過去や、勇者召喚、レナさんの過去なども聞き、3人で情報を共有さたりもした。2人の過去や思いに驚きながら、泣いた。
そのうち彼は自分自信の記憶を、魔法で映像化する魔法を開発した。
彼の世界チキュー、母国ニホン。3人でたくさん見た。彼もありとあらゆるものをみせてくれた。
その中で、彼がコーコーという学校の風景に釘付けになった。ひとりの女の子だ。
周りのみんなと同じはずの服を着崩す彼女。ブラウスはボタンを2つもはずし谷間を強調し、スカートも大分短い膝上10㎝以上。
彼いわく、『ギャル』らしい。
村で生活していた頃は、会話する相手もおらずうつ向いていた、わたしと真逆だ。
軽い言動や言葉使い、でもただただ明るくにぎやか。わたしには全部無いもの。
あの娘が楽しく笑えば、近くのみんなが笑う。キラキラ輝いてみえた。
あんな風になりたい。
『ギャル』なる彼女を真似し、一人称を『わたし』から『あーし』に。語尾や友人へのあり方と愛称の付け方を学習した。
自然になるよう頑張った。
3週間目の今日、あーしは自分自身の足で立てるようなった。治療が完了した。
「あ、あーし、たっ、立てる、立ってる!」
「良かったね、サキ。これから少しずつリハビリしようね」
「うんっ2人ともっありがとうっ!!」
ご主人さまは、映像魔法で自分の記憶を見た時にあーしの手足の再生を思い付いたそうだ。あいぴー?さいぼー?とかなんとかを魔力で……とかなんとか。
現存の治癒魔法では四肢欠損は治すことができない。切断してすぐでも魔力が足りないからだ。勇者の強大な魔力でも全く足りない。
まして、すでに切断面に治癒魔法を掛けて傷が塞がった状態では、くっつく訳がない。
勇者は地球の再生医療をヒントに、毎日少しずつ体の内側から万能細胞を魔力で増やして欠損した部位を作り出す『再生魔法』を編み出した。
そうして約3週間、サキの様子や段々と再生されていく手足を観察しながら治療を続けた結果である。
「あーしもこれでお手伝いができるっ」
「元の状態に慣れるまで、無理はしちゃだめだよー?」
「うん。でもお料理は教えてね、ママ……っ!」
うっかり本音が漏れて、真っ赤になってブルブル震えるサキ。レナの慈愛溢れる介護、ただただ与えるだけの愛情に母性を感じていた。
心の中では随分前から「ありがとうママ」を繰り返していたのが、ついに漏れた。
「ふふっ。おいで、サキ」
幼児をあやす柔らかい慈母のような声。さぁ抱き締めてあげるとばかりに広げられた両手。
「身長差があるから、しゃがむなりしなさい。頭を撫でてあげられないからね?」
サキは嬉し涙を流しながら、膝を床につきレナに飛び付いた。
「うーっ、ママッママッ!」
「よしよし、貰えなかった15年分は、ママとゆーしゃさまが何倍も愛してあげますからね?」
「うっうっうーっ、うーっ!!」
背中側から勇者に抱かれ、サキは言葉が出なくなり唸りながらたくさん泣いた。
3人が『魅了』で繋がる歪んだ関係ながら、本当の家族になった瞬間だった。
「サキッ!たまご焦がしてるっ」
バシッとお尻をレナレナに叩かれた。
「火を使ってるときに、ぼーとするなっ」
「ごめん。レナレナ」
本当に愛してるから、失敗を叱ってくれる。レナレナがママでほんと嬉しい。今でも甘えたくなったとき、一緒のベッドで添い寝してくれるし。
ご主人さまは、たまによく分からない。たった今焦がしてしまった玉子焼を皿ごと持って行っちゃった。???
「焦げてるの、つまみ食い?食いしん坊のおとーとみたいだしっ」
「違う違う、あれは「今では料理上手な娘が昔はよく焦がしてたっけなぁ」って感慨にふける父親の顔してる」
「…………流石ママ」
そんなのママなレナレナにしか分かんないし。あーしが子ども目線ってことかな?
あーしは今日も幸せ。それでいいし。でも、思い出しちゃったから今日は甘えよう。就寝前に誘おう「一緒に寝て?ママぁ」




