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狐人族 サキ 前編


「レッナレナ、おっはよー」

「おはよー、サキ」


 夜が明け、朝日が登り始める早朝。『最初の3人』1番レナと2番サキが、勇者邸の朝の準備を始める。


「ベラっちはどしたの?」

「ゆーしゃさまが夜伽で頑張りすぎたみたい」

「あー、今日は立てないね。要介護っぽ!」


 朝食の用意をしながら、雑談を重ねる2人。ちなみに『ベラっち』はイザベラの事で、サキは女性陣を自分が付けた愛称で呼ぶことが多い。

 例外もおりクリスタルを『クリクリ』と付けようとしたが嫌がられ、『じゃー、くりちゃん!』と言った途端泣かれたので無難な『クリス』に決まった。

 ちゃんと泣き止むまで謝り倒した。


「大分、メンバー増えて楽にはなったよね」

「レナレナは、あーしら『3人』なるまで大変だったよね!」

「ゆーしゃさまが初めてのときとかやばかったー。こんななりだから、裂けたからね。今なら笑ってこなせるけどさー」

「あのサイズに慣れちゃう女体の神秘!」


 勇者との夜伽、1対1での場合、次の日に仕事に携わる事が出来る者は少ない。最初ゆえにひとりで受け止め続けたレナ。レナが拾われた日から、ひと月半ほど経ってから拾われたサキ。

 何故かクロエも耐えられる。ハーレムに来て半年に満たないのに……1人で夜伽した翌朝に、いつも通り走り込みしてることもある……勇者からの昼の悪戯にも、夜の性的な悪戯にも付き合えるクロエ…………無敵か。


「ご主人さまはいっつも、あーしの毛並みとかー しっぽを褒めてくれるし!大好きっ」

「そうだねー。すっぽり抱っこ出来るあたしが好きとか、ほんと喜ばせ上手だよねー」


 朝食前からご馳走さまである。のろけながらも料理の手際は良く、どんどんサラダやオムレツが出来ていく。


 サキは調理をしながら思い出に浸る。






 サキは、狐人族の生まれであった。王国内の森にある狐人族の小さな村で生まれた。


 狐人族に限らないが、一般的な獣人族は、各獣の特徴である耳としっぽ以外は人族と同じである。顔や体は当然、肌が見える。


 そんな中サキは皆と違う姿で生まれた。頭部と手首より先、さらに膝から下がほぼ狐そのものであった。

 その狐部分の中で動物の狐との違いは、人間寄りの大きい目と、物を掴めるように手の親指が内向きに付いている位だ。

 人間の体に、狐の頭と手足を交換しましたという風にみえる。

 尾も2本生えている。


 村は騒然とした。生かすのか、異形の子として殺すのか。あれこれ議論している中で、村長宅にあった古い記録に『先祖返り』と記されていた。

 先祖、となれば殺す訳にいかなくなった村人達。ほとんどは不干渉な態度にになった。

 段々と育つサキに注がれる『嫌悪感』『恐怖』『侮蔑』などの悪意の視線に、母親が壊れた。


 母親は過保護になった。正確な意味で過保護ではない。「こんな体に産んでごめんね」「怪我したらたいへん」と繰り返し、サキを家から出さないようにした。

 口ぶりは子を心配してる様子だが、サキと目を合わせない。顔をみない。そもそも、「貴女」と呼び、『名前』など付けられていない。

 とどのつまり現実から逃げ、村人の視線からも隠した。


 それで済むわけもない。家には父親がいるのだから。父親は仕事から帰ると「こんなもの産みやがって」「お前が悪い」と、妻を殴った。ただただ父親からの暴力に怯える毎日だった。


 そんな日々が続き、暴力に耐えられなくなった母親はサキを連れて村の外で暮らしはじめた。掘っ建て小屋をつくり、生活は楽では無いが、気は楽になった。




 そんな生活は長く続かなかった。サキが15歳になった頃、終わりが来た。

 サキが木の実取りから帰ると、小屋には身体中から血を流す母親と目を血走らせながら鉈を持つ父親がいた。


 すぐにサキは逃げ出したが、奇声をあげる父親は鉈を振り回しながら追ってくる。

 逃げ切れなどしない、狂人が肉体の限界を越えて走ってくるのだ。


 鉈を避け損ない、ふくらはぎに深い傷が走る。地面に叩きつけられるが、痛みを脳が認識する前に、再度、鉈が。


 「がああああぁぁぁーーーっ」


 激痛が走る。右膝から下が離れた場所に落ちてる。痛みに支配される頭でもわかった。


 『狐の部分を順番に切り落とす』


 激痛、止まらない涙、死にたくない。這いずり逃げるが、進まない……


 「ぁ」


 気付いてしまった。わたしは誰でも無く、誰にも必要とされず。誰にも目を向けてもらえない。誰にも触れあれず。誰にも疎ましがられる。誰にも哀れみをうける。

 


 誰にも?誰にも!誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも!


 『誰にも愛されない……』







「グガァァァぁーーー!!」


 男の右足首を食いちぎってやった。替わりに右手を切り落とされた。もうどうでもいい、もうどうでもいい……もぅ動けない。



 痛みも、もうない。次の鉈を待つ………………





 …………こない、どうした?


  力を振り絞り、目を開く。黒髪の少年が立っていた……。


 頑張って目を動かす。父親だったものは肉塊になっていた。



「死神さま?」


 頭のてっぺんからつま先まで黒い格好の人がいた。瞳まで黒い。

 死神じゃないと首を横に振ってる。


 

「醜い私は死者の国にも行けないのね……」


 私の言葉にじっーと顔を見つめながら首をかしげる死神さま。


 頭が真っ白になった。頭の中でブチンッと音がした。脳が焼けるような怒りに支配された。


「醜いだろっ! 顔っ! 手っ! 足っ! なんでだよっ!? なんでわたしだけ醜い狐なんだよ! あんただってそう思ってんだろっっ! 触ったら伝染るってなっ!」


 私に向かって出てきた右手に噛みつく。ぶづりっとした感触と鉄錆味の生暖かい液体が口内に流れてくる。


 私がかぶり付く右手を気にする様子も無いまま、残った左手で私の頬に触れてくる。優しく優しく撫でられた。撫でられ、ぁえ?


 何が起きているのか分からない。固まるわたしをよそに、段々撫でる範囲が拡がっていく。

 やっぱりマズルが良いよねと、口や鼻の周りをなでなで。おっきい三角耳も良いと、耳をぐにぐに揉まれる。


 ぽかんっと口を開いた瞬間、彼はわたしを地面から抱き起こし、右手が左の尾を、左手が右の尾を撫でたり握ったりされた。

 痛くはされてないが遠慮は無くなってる。


 涙が溢れた。


「こ、ここんな、ことっ、されたことっ、ないっ。撫でっ、抱っこなんっ、てっ、あ、あっ、あったかいよぉぉ……」


 今度は、頭を優しく撫でられた。


「どっ、どうしてっ、な、名前っ、もないっ、なっなんにもっ、だっだ、誰にもっ、いらないっ、ばっ化けものっ、なのにっ」


 さっきより強く抱き締められた。


「だっ、ダメっ、や、優しく、されたらっ、たえられないっ、手、あ足、なっ、なくなっちゃったからっ、なんにっもっ、無いっ、返せっないっ」


 ちょっと痛いくらい抱き締められた。


「いっいいのっ?わ、わたしっ、もうっがまんっ、できないっ、痛いっことっ、してもっ、いいっ、ひっ酷いっことしてっも、いいからぁ、いいっ、一緒、いっしょっ、に、いてぇぇぇぇっ!」


 腕が緩められ、彼がわたしを見つめる。






「今日から君の名前は『サキ』。そして僕のお嫁さん」


 狐の口に彼が唇を押し付けた……な、なにされ……ぁ、キ、キスされた!?

 お、お嫁さん!? キス!? 夢じゃない!


 ぶわっと涙が溢れ、ぼろぼろこぼれる。


「わ゛わたしっ、わたしっ、サキッ! なるっ、なるよっ、あなたのっ、お、お嫁さんっ!」


 わんわん泣く私を、ずっと彼は抱き締めた。泣き疲れ眠りにつくまで、ずっと抱いていた。




 この日、初めて見つめられ、初めて触れ合い、初めて抱き締められた。初めてのキスも。


 こうして、必要とされ無いわたしはお嫁さんになり、誰でもないわたしは『サキ』になった。


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