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メイドのアンナ

 王都で一番品物がそろう市場に、食材を買い求めにきた私。あちらこちらから哀れみや同情の視線を感じる。


「あれ、勇者様のところのメイドだろ……」

「あぁ、可哀想に……。魔王を倒してくれたのはありがてぇが…」

「いったい何人餌食にしたら気がすむんだ……」


 ヒソヒソと勇者様の陰口をしながら、私の首に視線をむけている……仕方もない、私の首をぐるっと一周、飼い犬の首輪の様にピンク色の茨の紋様が肌に刻み込まれているからだ。


 この紋様は勇者様の【魅了】スキルによるものだから。魅了されると、使用者を好きでたまらなくなり、他の異性に興味がなくなる。

 例え、最愛の相手がいても魅了されれば、道端の石ころのように興味がなくなる。


 帰ったら勇者様にリンゴを剥いて差し上げようと、鼻歌まじりに品定めしていると……


「帰ってきてから剣聖様に聖女様まで……」

「賢者様もだ、他にも何人も増えてる!」

「勇者で魔王討伐の英雄……誰も逆らえないからってやりすぎだろう……」


「あそこのメイドはそろそろ捨てられちゃううんじゃないか?」

「確かに、綺麗どこばっかりだしなぁ。グハハ」


 ギリッと私の奥歯が鳴る。危うく手にしていたリンゴを握り潰すところだった。


 勇者様がそんなことするわけないだろう!このリンゴをニヤニヤした顔に投げつけ、大声で勇者様にかけられた誤解を解いてまわりたい!


 深呼吸をし、気を静める。どうしようもないのだ、勇者様のスキルで本当の事を話すのを禁止されている。『いーよいーよ魅了もちだからきらわれてるしねー』なんて言って強がっておられる。かわいい。


 本来ならば陰口を叩かれるべきは私、いや私達なのだ。私達は勇者様に守られている。


 私は勇者様のメイドになる前はとある男爵家のメイドとして働いていた。奥様が旅行に行った隙に、無理矢理手込めにされたのだ。


 戻った奥様にばれそうになると、私をクビにし着の身着のままで追い出された。


 お金のない私は将来結婚を誓った幼なじみの元に向かった。仕方なく事情を話すと話も終わらぬ内に殴られ、「媚びを売って股を開いた売女めっ!」と罵られ家を追い出された。


 この世界の貞操観念はきびしい。ほとんどの女は初めての相手と添い遂げる。幼なじみに見捨てられ、処女ですらない私は一生独り者だ。


 お金も無くメイド服一着……娼婦になることも考えたが顔も体型も普通の私には無理だ。絶望のどん底に落ちた私は、フラフラと王都内を流れる運河にたどり着いた。


 橋の欄干の上に立つ。下に流れる水の色はとてもとても暗い。足を踏み出そうとすると肩を掴まれた。


「ヒッ!」と息を呑む


 私の横に黒髪黒目の男の子がいた。半年位前に、異世界ニホンとか言う所から召喚された勇者様だ。髪と瞳が黒い人はこの世界にはいない。


「み、魅了のゆ、ゆうしゃさま…」


 そそそ。っと軽い感じで返事をされた。初めて実物の勇者様を見る。視線の高さが同じ程度か、私より低い。あとで知ったことだが、ニホンの人たちはこの世界よりも平均身長が低いらしい。


 私は170㎝、成人女性のほぼ平均だ。男性は180㎝を越え、騎士や冒険者になるものは190㎝以上も珍しくない。


 勇者様のはニコニコしながら、捨てちゃうのー? と問いかけられる。


「死なせて下さい」


 と、答えると怒ったような悲しいような顔をされた。

『じゃっ、もらっちゃうよー?』と言うや否や勇者様の目がピンクに光る。魅了スキルだ! さっきまで絶望でしかなかった、男爵様にされたことや、幼なじみの仕打ちが嘘のように霞む。


 同時に、頼りない子供顔だなぁなどと失礼にも思っていた顔が、可愛い!心臓がバクバク鳴っているのが分かる。好き好き好き大好き!


 捨てちゃうのならなにしてもいいよねー、と言われた途端血の気が引いた。可愛い顔して拷問趣味のような性癖があるのかもしれないと気付いたからだ。


 私の様な普通の容姿の女を魅了する意味はない。美人や好みの体型の女を自由にできるのだ。


 王族や高位貴族、大商人でもなければ魅了無効のアクセサリーは高額すぎて買えない。終わった、やはり死ぬ運命。せめて……。


「い、痛いのは……」


 へーきへーき、さっかえろ! と言われ、魅了には逆らえず勇者様について歩く。


 あああぁどうなっちゃうんだろう……などと考えていると豪邸に着いた。公爵様のお屋敷より大きくないかな? なんでも魅了持ちが王城にいるのは都合が悪く、王様が一番大きいお屋敷をくれたらしい。


 玄関には三人の女性が勇者様の帰りを待っていた。


「「「お帰りなさいませ、勇者様」」」


 挨拶をし、三人が頭をあげると


「また拾ってきたんですか?」

「仕方ないですね、勇者様は本当に慈悲深いですから」

「夜が楽になるぞー!」


 え? え? え? と、訳のわからぬまま勇者様の世界の料理を食べさせられ、凄い広いお風呂で全身ピカピカに。(オムライスとプリンは今でも至高だ!)



 そのあとは勇者様の部屋に案内されあれよあれよと言う間もなく、優しく優しく扱われ、気がつけば朝……昨日の三人も裸で寝てる……


 剣も攻撃魔法も流石勇者様! と言うのは噂に聞いていた。まさか可愛い体格で夜も勇者様! だとは……。もう男爵の一物など思い出せない……。


 それから何日も過ぎ、勇者様の屋敷での生活も慣れた。本当に幸せである。ご飯は美味しい、勇者様はとてもとても優しい。夜はちょっと優しくない……もっとハーレムメンバーを増やしてほしい……身がもたないょ……。



 こんな感じで、勇者様のハーレムは訳ありしかいないのだが、一般には知られていない。ハーレムメンバーは「クズ勇者が」と聞こえるたびやり場のない怒りを煮えたぎらせているのが現状だ。勇者様が良いと言えば、陰口を叩くものたちはハーレムメンバーにぼこぼこにされるだろう。


 買い物が終わり最愛の勇者様のお屋敷に帰る。魔王がいなくとも理不尽な目に合う女はこれからも出るだろう。この度に勇者様は、ひろっちゃった!言いながら行き場の無い女性を救いあげるのだろう……。

 もうお屋敷には30人以上いる。やっとローテーションが組めるようになり、ゆっくり寝れる。


「ただいま帰りました、勇者様!」


 と、玄関を開けるといつものニコニコした勇者様。おかえりアンナ、いー加減名前で読んでほしいんだけどー、と頬を染めながら言う勇者様。超カワイイ! もう一度言う超カワイイ!


 勇者様の評判は最悪ですがハーレムメンバーである私は幸せです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 もう一度読み直しています。 日本人じゃなければ読めない物語、 楽しませていただきます。 ありがとうございました。
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