異星人
花音ちゃんは発達障害・アスペルガーで、鬱を患っています。
二十歳の時に診断され、以来、ひっそりおうちで暮らしています。
友人関係には恵まれ、花音ちゃんは彼らとお話すること、会って美味しいものを食べることが大好きです。
しかし、両親、特にお父さんには、そんな花音ちゃんの姿が、怠け者として映ります。
楽しいことは出来るのに、家事仕事を出来ないのは、ただのずるだと思われているからです。
ある日、お父さんがスーパーに行く時、牛乳とうどんを買ってきてほしいと花音ちゃんがお願いすると、お父さんは苛立たしそうな溜息をつきました。
花音ちゃんの胸に杭が打たれるような、そんな溜息でした。
どうしてかなあ?
花音ちゃんの頬を涙の玉がつるつる滑り落ちます。
花音ちゃんが、笑うと、そのぶん、お父さんは腹立たしくなるようで、それが花音ちゃんにはとても辛いのでした。生きているだけでも、精一杯なのが鬱病です。それでは、いけないのでしょうか。朝、早く起きないと、お父さんは忌々しい者を見る目をします。
花音ちゃんには、よく解りません。
自分が「普通」であれば、もっと楽な人生を送れたのだろうかとも思います。
けれど花音ちゃんはアスペルガー。
普通の基準に当てはまりません。
過去の辛い出来事のフラッシュバックにもたびたび悩まされます。
ある朝、花音ちゃんが夜食をしたと知ったお父さんが癇癪を起こし、ガラスの器を床に叩きつけて割りました。
花音ちゃんには、やっぱり解りません。
夜、花音ちゃんが裸足で台所に行くと、足の裏がちくりと痛みました。よく見ると、ガラスの破片が落ちていました。お父さんは、ラグビーを観ていて、歓声を上げてとても楽しそうです。花音ちゃんには、お父さんが異星人のように思えました。
つるつるとまた滑り落ちる涙。
人は、皆、異星人なのでしょうか。