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誰かに何処からか抱き上げられた気配がした。
そんな始まりはどうだろう・・・・・・?
それはサブリミナル・メッセージで展開される神の存在と愛の貴重な場面だ。
あるいは、壊れやすい硝子細工を抱くような雛の記憶―――。
女性の出産に適した時期が二十五歳から、二十九歳だという話がある。
それがどうであれだが、そういう考え方もあるということだ。
ある時期になると、適当な時期がやって来る。
たとえば現在の行為もそんな風に本来考えるべきなんだ。
地上的なものから天上的なものへと変化する、儀式。
たとえば胎内にいる子供は外の世界に憧憬や夢想を覚えているが、目覚めた瞬間に泣きながらこの世界を拒絶する。だってその生き物はありえないほどに脆弱だからである。無条件に呼び起こされる、裏切りや復讐の潜む不安定なやりとり。腕に抱くという行為には、その家族になる、そのしきたりに従うという意味合いがあると考えて差し支えないだろう。
―――夜の顰め面に微笑みかけろ・・・・・・。
自我の蔓、感情という枝を介しながら、樹の内部で循環されている水のような時間の感覚は後退っていく。
>夢心地は印象派のやわらかくて淡い絵みたいだ。
>音楽なら、ショパンのエオリアン・ハープあたりだろうか。
僕は赤ん坊のように両腕で抱き上げられ、最接近―――そして顔が近づき、何かを呟いた。でも僕の視界は細かい砂ぼこりが層になってこびりついているように明瞭としない。終結部―――白い光が充溢する・・・。
消えるに任せながら、何故か心に残る。ただ、何処で何をしていようが、どんなことを思ったり考えたりしていようが、それが今現在であることに変わりはない。そしてそれはすぐに古びて、また別の感慨のなかの波のうねりを誘発する。
(もしかしたらその呟きは、僕の本質を見抜いてるのかも知れない)
(あるいは、寝顔や、夢を見ている間の幸せを―――)
―――僕等は気付かない内に永遠の揺りかごの存在を見つけてしまう。
僕はそれを咄嗟的に女性だと思う。でもその二の腕は見かけ以上にしっかりしていた。僕の肉体は奇妙な形に空中に固定されている。螺旋状の先頭に浮かぶ僕に、それから、歩くような震動が伝わってきた。そう僕は確かに、何処かへと運ばれたのだ。声は出なかった。おそらくその二の腕の女性も、僕がきわめて脆弱な生き物であることを細部まで理解しているのだろう。たとえば古文書に記されているみたいに、それはたった一つの冴えたやり方なのだろう。
接触。解読―――ブラックアウト。
ともあれ、それが僕の最初の記憶のようなものである。