151.今後の方向性を定める学院準放送局の企画
あの企画会議から三日が経ったこの日。
「正直全然興味なかったんだけどよ。この前の企画会議とか面白かったぜ」
放課後となり、レリアレッドと学院の放送局に向かう途中、シャールに遭遇した。向かう先が同じなのでこういうこともあるだろう。
「最初は興味なさそうだったけど」
レリアレッドがすかさず言う。私もシャールにはそんな印象が残っている。
「魔法映像だの番組だの、どういうもんなのかまだよくわかってねぇんだよ。基本的にワグナスがああしろこうしろ言うだけだったしよ」
ワグナスは、現場監督にして今は学院準放送局局長の中等部生の名前である。確か今年から三年生だったはず。
「でも、ああやって少しずつ作っていくこともあるんだろ? 自分の声が反映されるとわかれば、そりゃ興味も湧くぜ」
そういうものか。……いや、わかるな。私にも好みの趣旨や方面や企画もあるから。自覚なく好きな方に番組を寄せていったりもしているかもしれない。
「学院の放送局として、どういう方向を目指すのか。ここでしか撮れない映像とは何か。誰に向けて撮るのか。
そういうことを考えながら職人の映像を観ていると、もっと面白ぇよな」
ほう。
「向いてるんじゃない?」
面白いし楽しめるなら、性格的に合っているのかもしれない。素行は悪そうに見えるが根は割と真面目なのかもしれない。
「かもな」
これが天才企画家シャール誕生の瞬間だった――みたいなことになれば嬉しいのだが。
でもなんか、彼は魔法映像や放送局がどうこうじゃなくて、ウィングなんとかっていうもののために所属したんだっけ?
まあその辺はシャール自身と放送局の問題なので、口出しするつもりはないが。
――さて。
「想像以上にがんばったようね」
「そうね。まあ、がんばりどころでがんばらないようじゃ先が見えないけどね」
レリアレッドは厳しいな。
まあ、同感だが。
何事も勝負所を見逃しているようでは、話にならないというものだ。
――放送局の前に、生徒たちが集まっている。
男女も関係なく、小学部も中学部も高学部も関係なく、たった一つの共通点を持った生徒たちだ。
「おいおい、もう集まってんのかよ。先に行く」
と、シャールが放送局に駆けていく。うん、すっかり日は長くなったが、参加人数が増えれば増えるほど撮影には時間が掛かってしまう。せっかく天気もいいので、陽が暮れる前に急いで撮影した方がいい。
「ニアは参加するの?」
「私が参加したら圧勝するわ。最初から結果がわかっている勝負なんてしらけるでしょ」
「おぉ~すごい自信。さすが負けなしの駆けっこ女王」
駆けっこ女王。……うん、まあいい。
私に気づいた生徒たちが、期待だの挑戦的だの挑発的だのって感じの熱い視線を向けてきているが。
でも、参加するつもりはない。
――今日の主役はキキニアで、準放送局のお披露目を兼ねた映像を撮るのだ。私が参加してどうする。
慌ただしく走り回る放送局局員と軽く挨拶を交わしながら建物に入ると、
「二人とも待ってたよ!」
すぐに現場監督ことワグナスに歓迎された。
「随分集めたわね」
ざっと二十人はいたし、見覚えのある顔もいた。
サノウィルに、彼のライバルであるガゼル・ブロックに、今年高学部に上がったリリミもいた。
「ニアちゃんが言った通り、君やレリアちゃんが見に来るって話したら応じてくれたんだよ」
ほう、そうか。なら来た甲斐があったかな。――ちなみにヒルデトーラは、今日は来れないと残念そうに言っていた。
「手伝うわ。何かやることある?」
「頼むよ。準備はしてたんだけど、やることが多くて」
だろうな。
もうすぐ夏休みなので、準備期間に三日しか取れなかった。夏休みに入ってからでは帰省する生徒も多いので、撮影するなら今である。今を逃せば夏休み後になってしまう。
「レリア、行こう」
「えー? 見るだけのつもりで来たのになぁ」
ぼやく気持ちはわかる。私もそのつもりで来たから。
でも準備に手間取り、日中に撮影できなければ、来た意味もなくなってしまう。
ぐずるレリアレッドを急かしつつ、私たちも走り回る放送局員の中に混じるのだった。
「では、大まかに説明します! まずは――」
監督は声を張り上げ、一から順に番号を書いたネームプレートを付けた生徒たち改め参加者たちの視線を誘導する。
まずは、細い道である。
「この平均台を渡ってください! 落ちたら失格です! 次に――」
階段一段分くらいを掘り、水を張って泥の水たまりを指す。
「ここをドーンと飛び越えてください! 落ちたら泥だらけになる上に失格です! そして今度は――」
縦に杭を埋め込んだ飛び石ルートである。上下の高低差があり、次の次に踏む足場を考えて動く必要がある。
「ここをうまいこと跳ねて行ってください! 怪我防止のために高さはありませんが、地面に身体の一部が着いたら失格です! 更にここへ行き――」
適当な大きさの木箱が等間隔で並んでいる。
「これらを飛び越えながら走り、あそこにあるゴールを目指してください!」
――要するに、いわゆる障害物走である。
学院準放送局の強みは何か。
ここで撮れる映像とはどんなものか。
それらを突き詰めると、やはり学生が多いということが一番の特徴であり、強みである。
去年も普及活動の一つとして、学院で武闘大会を開いたりして、生徒の親や親戚という新たな魔晶板購入層を開拓したのは記憶に新しい。
あの時の映像は非常に受けがよかった。大成功である。
つまり、生徒は使えるのだ。
ここにはたくさんの子供たちがいて、彼らの姿には生徒の親・親戚という方面の需要がある。
それに、あの時生まれた発想である「視聴者参加型」というものを駆使し、自分も出る側に立つかもしれないという可能性を見せることで、生徒たちにも魔法映像へ興味を持たせる方向に導くのだ。
今は子供でもいい。
いずれ大きくなるから。
大人になってからでいい。きっと魔法映像を生活に取り入れようと思う者も出てくるはずだ。
この企画には、運動能力が高い生徒が呼び集められた。
きっとこの三日は、スタッフたちが学内を走り回って一人ずつ交渉していったに違いない。
コース作りと、参加者への直接の交渉。
準備に掛けたのは三日だとすれば、これでも充分整えた方である。
そして、何より――
「がんばります!」
これは、キキニアの運動能力を遺憾なく発揮し、見せつけるための企画である。