150.突発的企画会議
「「うーん……」」
私、ヒルデトーラ、レリアレッドは、恐らくは似たような顔をしていることだろう。
なんというか……苦々しい表情、とでも言えばいいのか。
――これは放送されないだろうな、却下されても仕方ないな、フォローの言葉が見つからないな、と。
私たちは表情と同じく、ついでに同じことも考えていると思う。
とりあえず、何をするにも現状確認である。
意見するにも手を貸すにも、どうなっているかを把握しないと何も言えない。
というわけで、学院準放送局が撮った映像を観させてもらった。
壁際に魔晶板を浮かべて、これまでに撮った映像を全員でチェックする――長く撮れる魔石は高価なので、基本的に短い撮影用の魔石を使用しているらしい。まあ予算の都合もあるのだろう。
そして、その感想が「うーん……」だった。
「ど、どうだった? 感想を聞かせてくれ」
監督が聞いてくる。
当人も、スタッフたちも、新メンバーも……シャールだけはあまり興味なさそうだが、彼以外ははこちらに注目している。皆意見が欲しいようだ。
「え、えっと……あの、先にね、優しいのがいいのか厳しいのがいいのか、どっちが好みなのか聞いてもいい?」
なんとも言えない私とヒルデトーラに先んじて、レリアレッドが控えめに問う。
「もちろん厳しめに頼む! 僕らはこんなところで立ち止まって――」
「集音に気を遣いなさいよ!!」
厳しめが好みと聞いて、即座にレリアレッドが吠えた。それはもう遠慮なく吠えた。なんとも言えないももやもやした気持ちを吹き飛ばす勢いでちょっとすっとした。
「まず声が聞き取りづらいのよ! 声を張りなさい! 滑舌もがんばりなさいよ! 屋外よ!? 声は空に抜ける!」
ああ、そこから行くのね。
「特にキキニア! あんたがフラフラしてるから音が拾いづらいの! しゃべるなら止まれ! しゃべりながら激しく動かない! 軽くでもいいからカメラマンと打ち合わせもしなさいよ、映像が追えてないでしょ! あとなんで一人で延々運動してるとこ撮ったの!? あれ何なの!? 何を伝えたいの!? あんなの放送して誰が観たいの!?」
キキニアは運動能力が高いから、身体を使う企画に起用したいと言っていたな。その弊害だけが悪目立ちする結果となっているようだ。
「ジョセコットさんの知識がすごいのはよくわかりました。でも、あまり専門的な話題ばかりでは、一般の視聴者には付いてこれませんよ」
ヒルデトーラもダメ出しを始めた。そうだな、私にはジョセコットの一人語りで言っていることは、さっぱりわからなかった。
「誰に向けて話しているのか考えないと。あれでは専門家や熱烈な演劇ファンしか理解できません。視聴者にどれだけいると思います? きっと相当少ないですよ」
キキニアは運動能力が高いということが空回りしていて、ジョセコットはしゃべりはいいが話す内容が偏り過ぎている。
まあ、素人が即戦力とはいかないだろうから、こんなものだと思う。
いや、素人と考えればいい方かもしれない。
少なくともあまり緊張しているようには見えなかったから。
「違うよ! 監督がこうしろって言うから!」
「そうよ。キキニアさんはノリと勢いで動くことも多かったけれど、わたくしは本当に言われた通りにやりましたわ。『君が思う演劇の魅力を語ってくれ』と。だから言われた通りに語ったのに」
メインで映っていた新メンバーにも言い分があるようだ。
まあ、そうだな。勝手に動いていいと言われて撮った、というわけではないよな。監督の指示や采配で動いてあの結果なんだよな。
不意に視線が集められた中、動揺している監督は言った。
「だ、だって! 王都やリストンやシルヴァーとは違うことをしないと! 資金でも経験でもスタッフの腕でも、何もかも負けてるんだから! 同じことをしててはそれこそ放送なんてされないじゃないか!」
うん、なるほど。言いたいことはわかる。
突き詰めると企画で勝負って話だ。
わかるが、それ以前の問題だ。
レリアレッドもヒルデトーラも意見を述べたので、今度は私か。
「私は、とにかくわかりやすく伝えるようにしろ、と教えられたわ。
職業訪問で行った先では、専門的なことをやらされたりするから。それがどういうものなのか、そして視聴者に何を伝えたいのか。それを考えて発言しろって」
私の技術は、ベンデリオから学んだものだ。魔法映像に出始めた最初の頃は、付きっきりでいろんなことを教えてくれた。彼は言わばこの業界での師匠である。
「さっきのキキニアなら、知名度が低い内は一人でやらせない方がいいわ。高い運動能力を見せたいなら、誰かと比べるとわかりやすい。対比を見せれば一目でわかるでしょう?」
これは犬企画にも言えることだが。
単純に比べることで、それこそ六歳だか七歳くらいの新入生の子供でもわかるのだ。
「ジョセコット様は、一人で語るより対談形式がいいんじゃないかしら? それこそ演劇好きや専門家、俳優や女優と語って、その知識をいかに視聴者にわかりやすく伝えるかを考えれば、すぐに通用すると思うわ」
知識は本物みたいだから、それこそ見せ方次第だ。キキニアはともかく、彼女はきっと需要がある。やり方と見せ方が間違っていなければ即戦力だと思う。
……ただ、演劇好き一本ではいずれ飽きられそうだから、次の手を考えた方がいいとは思うが。
まあ、いずれ女優として活躍したいのであれば、次の手なんて必要ないか。
「で?」
「ん?」
レリアレッドに「で?」と言われたが……なんだ? もう私の意見は終わったんだが。
「だから、これらにどうテコ入れして映像を撮るかって話の結論。ニアはどうしたらいいと思う?」
……ふむ。
「そういえば、その話をするために呼ばれたのよね」
ここまでは現状確認と、映像を観た感想を述べたまで。
だとすれば、次はどうするかって話……いや、ようやく本題に入るわけだ。
――「この放送局の売りは?」
――「王都、リストン、シルヴァーにない特徴は?」
――「ここだから撮れる映像って何?」
――「まだ知名度がないのだから、内輪だけでやっていても興味を引かないのでは?」
――「開局記念のお披露目のような映像にするのもいいかも」
――「誰が見てもわかりやすい企画、わかりやすい内容で」
次第に熱が入り、意見が飛び交うようになった企画会議は、遅くまで続くのだった。