147.学院放送局に一発かましに行ったら逆にかまされたという話
レリアレッドと学院放送局に挨拶に行くことを、強引に約束した翌日。
今日も撮影はないが、劇団氷結薔薇の「氷の二王子」、座長ユリアンと劇団員のルシーダ、そして看板女優として売れてきているシャロに呼ばれていて、会う予定があった。
特に用事があるわけではないが、久しぶりに顔を合わせてお茶をして、門限まで時間があればアンゼルたちの様子を見に行きたかったのだが。
急に予定が割り込んでしまったので、アンゼルの酒場に行くのは見送りである。
学院放送局に挨拶に行って、それから劇団氷結薔薇の面子に会う。今日の予定はこれである。
「ではお嬢様、私は正門前で待っていますので」
「ええ、またあとで」
放課後、荷物を置きにいったん戻ってきた私は、あとでリノキスと合流する約束をして、すぐに部屋を出た。
挨拶を済ませたら、リノキスと一緒に、劇団氷結薔薇と待ち合わせをしている喫茶店へ向かう予定である。
「――行こう」
廊下に出ると、すでにレリアレッドが待っていた。
二年生からは隣の部屋だけに、彼女との付き合いがかなり増えたと思う。
レリアレッドが約束を取り付けたので、今日は学院放送局のメンバー全員が集められているはずだ。
一応、建前の用事は新設された学院放送局への挨拶だが、それが向けられるのは新しく所属した新メンバーに、である。
旧メンバーはすでに全員顔見知りなので、今更挨拶も必要ないだろう。
ちなみにヒルデトーラも参加予定である。
もう行っているのかどうかはわからないが、現地集合となっている。
「放送局、どこにできたの?」
「えっと、確かサトミ速剣術の道場の近くだって言ってたよ」
ほう、サトミ速剣術。
「兄が夢中になっているところね」
あと、よく組手をしてほしいと言ってくるサノウィルも、サトミ速剣術で学んでいたはずだ。
この学院には、ガンドルフが師範代代理をしている天破流と始めとして、いくつかの剣術・武術の道場がある。
どうせどこの道場も、殻をどうにかしながら食べる蟹よりたやすく破れる道場だけに眼中にないが、兄とサノウィルが学んでいる剣術道場だけに馴染みだけはある。
「ニール様かあ……最近会ってないなぁ」
そういえば私も、二年生になってからは兄に会っていないな。
彼の侍女であるリネットから話だけはよく聞いているので、あまり会っていないという気もしないが。
「ねえ、ちょっとだけ覗いていこうか?」
「ヒルデを待たせるつもり?」
放送局はともかく、ヒルデトーラを待たせるのはまずいだろう。仮にも相手は王女だぞ。今更そんなことを意識しろってのも難しいかもしれないが、それでも王女だぞ。
それに私には後の予定もあるんだぞ。
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから! ちらっとだけ!」
…………
まあいい。
なんだか孫に催促されているようでちょっと断りづらい。
どうせだし、私も兄の可愛い顔でも見ておこう。
「じゃあちょっと急ぎましょうか」
新しくできた放送局に近い場所に道場があるなら、ちょっと覗くだけならそんなに時間も掛からないだろう。
覗いてみたが、兄もサノウィルも、まだ来ていないとのことだった。
これはもう仕方ないということで、今度こそ学院放送局へ向かう。レリアレッドの言う通り、すぐ近くだった。
真新しい小さな建物のドアは開いていて、中を覗けば、自称放送局員改め学院放送局の面々がいた。
中央に、十人以上が座れそうなほど大きい円卓を置き、半分以上が埋まっている。ヒルデトーラももう来ているようだ。
「あ、レリアちゃん! ニアちゃん! 入ってくれ!」
覗いていたら中学部の現場監督に見つかった。
まあ、ぐずぐずする理由もない。さっさと挨拶して引き上げよう。
――どうやら私たちを待っていたようで、私たちが座ると、そこかしこに立っていた者たちも椅子に座る。
「ようこそ、アルトワール学院準放送局へ」
ああ、どうやら正式名称に準が付くようだ。準放送局、か。正規の放送局と混合しないようにしたのかな。
監督に歓迎されて、顔見知りのメンバーを見回していく。
と――立っているメンバーが三人並んでいるのが目に付き、なるほどと納得する。
テーブルに着いているのは顔見知りの旧メンバーで、立っている三人が新メンバーということか。
気の強そうな金髪の女と、きらきら……というかギラギラした精力的な笑顔の強い女と、これまた気の強そうなピアスして制服を着崩している男。
「全員中学部生なんですね」
レリアレッドの指摘に、そういえばと思う。
この学院準放送局のメンバーは、中学部生と高学部生で構成されている。
小学部の生徒は入れない方針のようだ。まあ、結構力仕事も多いので、仕方ないのだろう。
「紹介しよう。左から、ジョセコット・コイズ。キキニア・アモン。そしてシャール・ゴールだ」
金髪がジョセコット、強い笑顔がキキニア、男がシャールと。
…………
また灰汁の強そうな新メンバーを入れたものだ。
「はい! はいはいはいはい! はーい!」
まだ最低限の情報しか聞いていないのだが、キキニアが挙手した。発言を求めた。何度も求めた。監督が許可を出す間もなく求めた。……笑顔が強いはずだな、押しも強いじゃないか。
監督が苦笑しながら「どうぞ」と言うと、彼女は私を見ながら言うのだった。
「――私ニアちゃんより速いよ! 早く撮ろうよ!」
…………
…………
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うん。私あいつきっと苦手。