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少年たちのクリミナル  作者: 神馬
The fate of criminal
8/58

犯罪者は眠らない2 後編

形勢逆転をしたかのように思えたが、詰めが甘かった。

しかしこの展開は予想できない、と言うより予想から除外するだろう。こんな最悪なシナリオ、無意識にも考えたくないものだ。

 その場に落ちている銃を拾い、コートの男の足元を狙い撃つとパシュっと音が鳴り弾が飛ぶ。それを確認した後に相手の伸びている手を狙ってもう一発撃つ。

 先ほどの男と同じように「痛っ」と言ってジャックナイフを手放す。

 そのまま銃と包丁を向けたまま、銃のマガジンキャッチを押すと、マガジンがその場で地面に落ちる。

 マガジンはその反動を受け、白いBB弾を辺りに散らす。


「ソーコムピストル、昔サバゲーに興味があった時に実物を見たことあったんだ、そうじゃなくても現在日本で持つことが許されてるのは一部散弾銃とライフル、拳銃タイプはポリスリボルバーと空気ピストル、だけだったと思う」


 拳銃もといガスガンをレジの内側に投げ入れて、地面に落ちたジャックナイフを拾い上げ、地面に押し付けている男の首元に当てる。


「一目で、とまではいかないけど、こいつの態度でそれが偽物だってのは感づいたよ」


 男は悔しそうな表情を浮かべたまま、俺を睨みつけている。様子から察するにこのジャックナイフ以外に凶器は隠し持っていないようだ。


「店長!生きてますか!?」

 俺が叫ぶとバックヤードからゴンと大きな音がした。どうやら無事なようだ。

 店の入り口は一か所しかなく、その入り口に行くには俺の前を通るしかない。犯罪者たちは詰んでいる。


「七海、今のうちに警察に連絡」


 俺が言うと七海は店に備え付けてある電話の受話器を取る。


「――ゲーム感覚で挑みすぎじゃないか?もう少し計画的にやったほうがいいぜ?」


 後ろの窓から朝日が差しているのが分かった。夜明けだ。途端に辺りに張り詰めていた空気は緩和し、俺も完全に安心しきっていた。

 と言うより、安心するのは至極当然のことだろう。殺されない、殺せないと分かり切っている状況とはいえ、ずっと、恐らく30分か、1時間くらいくらいだったかもしれないし、それより長い時間だったかもしれない。俺はその間凶器を向けられていたのだ。その緊張感から解放されたのであれば、ここで油断をするのは必然、定理とも言えるであろう。


「事件です!私の店に、って言うか私の働いてる店に犯人が!いや強盗が!」


 七海の電話は警察に繋がったのだろう。3回ほど深呼吸をしている。恐らく電話口で警察に「落ち着いてください」とでも言われたのだろう。

 その様子がとてもテンパリ症の七海らしくて俺は「もう大丈夫だよ七海、落ち着いて」と声をかけた。

 七海はこっちを向いて笑った。恐らく直ぐに警察が駆けつけてくれるのだろう。背中にあたる日差しが温かい。床には俺の影が伸びている。朝日によって影が伸びている。伸び続けている。


 七海の笑顔は、徐々に光を失った。


「遊大!逃げて!!」

 七海の叫び声と同時に俺の後頭部にはこれまで味わったことのないような衝撃が伝わった。いや、二回目だ。


「遊大!!」


 俺の体はそのまま前のほうに飛ばされた。ちょっと洒落にならないほどの血が前に飛んでいき、思わず包丁とナイフを手放してしまう。カランカランと金属が床に当たる音より少し遅れて、床に体が叩きつけられる。


「この野郎!」コートを着た男がそのまま俺の頭を踏みつける。

 鼻の辺りがメキッと音を立てているのがわかる。呼吸ができないくらい苦しいが、なんとか自分の顔を持ち上げて後ろのほうを見ると、赤い視界にバットを手に持った男が立っていた。


「よーしよくやった!概ね計画通り!」


 コートの男がバットを持った男とハイタッチをする。最後まで軽い感じの男だなぁなんてぼんやり思う。頭がフラフラしてぼんやりとしか考えられない。


「――お前もそっち側かよ」


 声に出ていたかはわからない。意識が遠のいていく、ズキズキと響く痛みがとても現実の物とは思えない。


「おい、油断するな、こいつ結構やるぞ」

 ニット帽の男が立ち上がりそんなことを言っている。光栄な話だ、俺は少し体が柔らかいだけで喧嘩なんて中学校の頃からしていないというのに。

 その男は床に落ちていた包丁を拾い上げて大きく振りかぶる。

「よくもやってくれたな、望み通り殺してやるよ」


「遊大!!」


 お腹の辺りに鋭い痛みが走る。

 あぁ、俺は死ぬのか。遮断されていく意識の中で静かに思った。

 また、間違えちゃったな……いつも間違えちゃうな……正義の心で悪に立ち向かうと、決まって損ばかりする。これが世の作られ方なんだろうな……。

 聴覚は完全に遮断されたが視覚はぼんやりと残っている。

 七海は依然として泣き叫んでいる。犯罪者たちは、どんな顔をしているのかわからない。真っ黒に塗りつぶされている。


 その後ろに、三人組が見えた。


 それがその日の最後の記憶。俺はそこで意識を失ってしまった。


 ――犯罪者は眠らない。

拝読いただきありがとうございます。

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