表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年たちのクリミナル  作者: 神馬
The fate of criminal
7/58

犯罪者は眠らない2 中編

七海が殴られた。俺がこいつらを懲らしめようと思うには十分すぎるほどの動機だった。

七海の能力を使い、形勢を逆転する策を練る。

 ニット帽を被った男は遂に痺れを切らして「早く詰めろよ」と叫んで七海を右手で殴る。「おい!」と叫び身を乗り出そうとすると「なんだよ」と言い包丁を押し付けてくる。 

 七海は遂に泣き出して、ひっくひっくと嗚咽しながらレジを開け、先ほどと同じレジ袋にお金を詰め始める。

 ニット帽の男は舌打ちをして、コートの男はにやにやと笑っている。その表情は不思議と見覚えがあった。


 思い返せば小学校の時、初めて同級生に暴力を振るったのは七海が押されてからかわれていた時だったかな?不思議とそんな過去の記憶が蘇ってきた。

 七海がここまで怯えているのも、過去に家に強盗が入ってきたことがあったからなんだろうか、その時に暴力を受けたのは俺だけだったけど、その時も七海は泣いていた。それが知らず知らずのうちにトラウマになっていて、今この瞬間に絶大の恐怖心を感じているのかもしれない。

 七海が殴られた。自分の内向的な性格を反省して社交的になるよう努力をして、友達を作り、授業を真面目に受け、飽きもせず俺の幼馴染をしてくれている七海が、殴られた。


 ――俺はとにかく、俺はとにかくそれが、そしてこいつらが許せなくなった。殺してしまいたいほどに。


 目の前の男はやけに後ろの様子や腕時計を気にしていて注意が散漫としている。黒コートの男は先ほどから真剣みを感じられないほどに携帯電話をいじったりタバコを吸っている。


「なぁ、七海、アレ、出来るか?」


 男たちに聞こえないほどの小さな声で七海に尋ねる。幼少期から親に聞こえないように、教師や友人に聞こえないように会話をすることが多かった為、俺と七海限定で使える話し方がある。

 現に先ほどから七海から「大丈夫?」とか「どうしよう」と言った旨のことを言われていたが俺は「大丈夫」の一点張りで通してた。


「アレ?ってアレのこと?出来ると思うけど、ただ――」


「ただ?」


「一度に2つは盗れないよ。意識的にやると、疲れちゃうし、失敗することもあるし」


 七海はレジに金を詰めながら黙々と喋る。具体的な会話をしているからか、少しばかり安心をしたように涙は止まっていた。


「――じゃあ、包丁を盗ってくれ、それだけでいい」


「分かった、けど包丁なんか盗ってどうするの?」

 七海の小さな小さな声からは、不安な様子が感じられた。


「大丈夫だよ、七海」


 どこか懐かしさを覚える。幼い頃の俺が、まだ俺が僕だった頃の雰囲気で言った。

 レジからお金を取り、袋に詰めていた右腕を身体の後ろ側に回す。


 そしてその腕にはビキビキと赤黒い傷跡が浮かび上がる。


 明らかに雰囲気の変わった七海に犯罪者たちは不穏な雰囲気を感じているようだ。コートの男はナイフを構えなおして、バックヤードを覗き込み、ニット帽の男はじっと七海を見入っている。

 レジの下で七海は右手を俺のほうに回した。


「遊大くん、気を付けてね」

 七海は遠い昔に俺の身を案じてくれた時のように、遊大くんと言って俺にそれを託した。あぁ、任せておけ。


 それまで沈黙をしていた男が右手をさらに俺のほうに突き付けて叫ぶ。

「おい!何コソコソ話してるんだよ!殺されてえのか!早く金を……」と言ったところで目の前の犯罪者は異変に気が付いたようだ。


 男の手には、包丁が握られていなかった。


 刹那、俺は右手で相手の手首を逆手に掴み、レジのほうへ、自分の左側に引き寄せる。

 男は完全に不意を突かれたようで為されるがままに引っ張られ、身体がレジのテーブルに当たり「痛ぁっ?」と情けない声を発する。

 手を掴んだまま右足で相手の顔面の左側を蹴り、足背で顔を引っかけてテーブルに叩きつけそのまま押し付ける。

「おい!」とコートの男は叫ぶが、状況を完全には呑み込めていないようで、まだ動いていないのを右目で軽く確認する。異変を察したのか店の奥で拘束されている客が物音を立てる。

 俺は右足で相手の頭をホールドしたままテーブルに膝を着き、左足で地面を蹴って飛び上がりテーブルを越える。

 そして元々ニット帽の男が立っていた辺りに着地し、右足を男から外し、左手で逆手に持っていた包丁、七海が男から盗んだ包丁で男の手の甲を切りつける。

「痛ぇ!」と言うと同時にピピッと少量の血が飛び、男は手に持っていた銃をその場に落とす。

 たまらず動き出したコートの男に「動くな!」と今まで発したことのない程の声と殺気で静止させ、掴んだままの手首を思い切り引く。

 ニット帽を被った男はその場で体の構造に従いくるりと綺麗に回り、鼻血を出した顔がこちらを向く。

 包丁を男に向けたまま瞬時に握っていた右手を、順手に持ち直し、体制を立て直す間も与えずに自分の左足を相手の左足の脛の辺りに当て、左手で相手の後頭部を思いっきり地面に向かって45度に押し付ける。

 その場でうつ伏せに叩きつけられた男の首を左足の膝でがっちりと固定して、右足で伸びきった相手の手を踏みつける。

 包丁を左手から右手に持ち直しコートの男へ向けてそのまま伸ばすと、男はもうすぐ近くまで来ていた。

 コートの男が持っていたのは小さなジャックナイフで俺が手にしている刺身包丁は刃渡り30㎝はあるものだった。


 俺はその包丁を男の顔の前で寸止めし、今度は声量も殺意も抑えた、七海を安心させるような声で言う。


「動くな」


 一瞬の出来事に息をする間も無かった為、俺はそこでようやく深いため息を吐いた。

拝読いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ