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少年たちのクリミナル  作者: 神馬
The fate of criminal
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犯罪者は眠らない1 中編

いつも通り、深夜勤務に勤しむ。引継ぎ業務がいつもより多く、退屈と眠気にあくびを出すだけの楽な仕事とはいかないようだ。

 それから15分程歩いて、バイト先であるレンタルビデオ屋に着いた。

 途中七海が「夜食を買い忘れた」と言ってコンビニに寄ったが、出勤時間の5分前には間に合い、カバンからエプロンを取り出して装着する。


 入店音と共に入り口を通ると、右手にあるレジの奥側で後輩がパソコンと睨めっこしていて、左の商品コーナーには数人の客と別の後輩が、DVDと睨めっこをしていた。

 レジの右側、入り口の反対側にあるバックヤードでタイムカードを切る、お疲れ様です、シイナユウタさん。と機械に見送られた後、お疲れ様です。と後輩のバイトが声をかけてきたから、軽く挨拶を返し、業務の引継ぎを簡単に受け取る。

「後はやっとくから、帰っていいよ」と俺が言うと、じゃあ後は頼みますと言って中番はバックヤードへ消えていった。

「引継ぎ、どんな感じだった?」後輩と入れ違えて七海が俺の元へ来る。

「納品レジ点電球交換、新作入れ替えポップの作成、その他いつもの締め作業って感じかな?」

 仕事がたくさんあることを少し大げさなくらいに伝えると、七海は苦いものを食べたような顔をする。

「ま、でも私と遊大なら余裕でしょ?今日はお客さん、あんまり来ないだろうし」

 ましてや深夜だしねと七海は続けて言った。

「お客さん、来ないって?」

 何を根拠にそんなことを言っているのかを七海に尋ねると、果たしてお前は何を言っているんだと言いたげな顔で見られる。

「だって今日、13日だよ?」

「そうだな、あと二日で給料日だ」

「そうじゃなくて、明日は何日?」

「あぁ、なるほど」

 実際自分には縁のないイベントすぎてすっかり忘れていた。明日はバレンタインデーだ。

「今頃、世の女の子たちはチョコレート作りにいそしんでいるんだろうね」

「それって本当かよ、俺女の子にチョコレートなんて一個も貰ったことないぞ」


 ――何気ない俺の一言で七海のオーラが豹変したのを感じた。


「それは私は女の子じゃないって言いたいわけ?」

 目に見えて怒っている態度、耳で聞いて怒っている態度、間違いなく七海の地雷を踏み抜いてしまった業務開始時間。

 このままでは長い長い残りの9時間が人生最悪の9時間になることは過去の経験則から容易に予測できる。そしてそれは、とてもとても面倒くさい悪夢であることも容易に予測できる。

 いや定理。世の理である。

「いや、そんなことは言ってないよ、ほら、七海のチョコは家族チョコみたいなところがあるから」

「家族チョコ?」

「そう、俺だって毎回母さんには貰ったことあるよ、なんだったら毎年貰ってるし」

「私も小学校のころから毎年あげてるけど」

「うん、その節はありがとう。毎年美味しく頂いてるよ、けど家族チョコってノーカンみたいなところが男にはあるからさ、いやあくまで普遍的な、客観的な意見だけれど」

「ノーカン?じゃあ私のもノーカンってこと?」

「まぁ、バレンタインでチョコ貰ったって言う権利は異性の知り合いに貰った場合に生じるって知恵袋に書いてあったから、今回はこういう言い回しをしてしまったってことだな」

「じゃあノーカンなら今年は私のチョコいらないってことだね?」

「欲しいです。本当に申し訳ございませんでした!」 

 可能であれば自分の非を認めたくないが故に吐いた適当な言い訳は、バレンタインデーにチョコレートを貰うという、いつもならば何ら興味の湧くことのない、人生を楽しく過ごしている人専用のイベントのために、いとも簡単に七海によって打ち砕かれた。 


 幼馴染の情けない姿を見て満足をした様子の七海は腕を組んでよしよしと首を縦に振る。「じゃあ、今日のバイトが終わったら時間空けといてよ、なんだったら朝ごはん食べに行ってもいいし!」

 遠い先の9時間後のことを七海は楽しそうに語る。俺はバイトが終わったらとっとと家に帰って飯も食わないで寝てしまいたいのに。

「そのまま街に遊びに行くのもいいね、給料日前だから服屋の下見に行きたいし」

「それは給料が出た後のほうがいいんじゃないか?良いのあったらすぐ買えるし」

「いやいや、予め下見してから臨まないといくら必要だとかどこの服屋の何が欲しいだとか、全く予定が立てられないでしょ?」

「何軒回るつもりだよ、それにどうせそれだけ回っても一着も買わないのがお前ら女子だろ?」

「それは見方が偏りすぎだよ、偏見を持ちすぎると足の爪が地面に刺さって動けなくなるらしいよ」

「そんな間抜けで恐ろしい伝説があってたまるか!そんな話どこで聞いたんだよ!」

「遊大のママ」

「それは本当にすまなかった」

 下らない話をしてはたまに笑って、このままこんな時間が続けば、あっという間に夜が明けてしまうだろう。

 ビデオ屋の窓から差す朝日、徐々に増える客足と道路を走る車、少し遠くの学校に向かう小学生。そして疲れ果てた表情で怒る店長……このままでは今日の業務は終了しない。

 

「――さすがにそろそろ仕事するか」


 俺が七海に提案すると「そうだね」と我に返ったように、そして少し照れたような表情で言って「じゃあ私レジ点するから、遊大はとりあえず電球交換お願い」

 アダルトコーナーほうを七海は指さし、俺が振り返り見てみると、チカチカと蛍光灯が点滅しているのがここからでもハッキリと分かった。

 頑なにそっちの方を見ない七海に「了解」と返事をして、バックヤードから脚立と予備の蛍光灯を取りに行く。

 アダルトコーナーに向かう途中で七海のほうを振り返り「そう言えば今日、レジ点差異出てたって、原因不明。その件も頼むわ」と言うと「え、なんで出てるの!面倒くさいなぁ~遊大代わりにやってよ~」と嘆いた。

 じゃあ代わりにお前が電球交換するか?と聞こうと思ったところで止めておいた。


「今日は眠れそうにないな」

 俺は誰に聞かせるわけでもなく、一人呟いて目前の仕事へ向かった。

拝読いただきありがとうございます。

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