前半 緑柱石(エメラルドの和名)
私には彼氏がいます。
真面目すぎるくらい真面目で、
天然な優しい彼です。
私と彼は部活が同じ先輩と後輩でした。
告白は1年前の
あの日。
彼が飴をくれた
あの日。
1年前。
私が13歳の時。
私の描いた絵が入賞したというからみに行ったら
入賞なんて
端っこにチョコチョコと載るだけ
「メインは、こっち…だもんねー」
デカデカと載るのは
金賞やら銀賞やら
うんたらかんたら賞やら
そんな上の絵だけ
当たり前だけど。
「さっさと帰ろ…」
出口の方に向けた足が
金賞の前で止まる。
「…」
顔をおそるおそる上げる
「…。」
絶句
色彩とか明暗とか
小難しいコトは分からないけど
全体的に明るい色を使っていて
綺麗だ。
心の奥が温かくなる。
『あ…』
涙が頬を伝う。
こういうの、なんて言うんだっけ?
感涙だっけ?
「悔しいの?」
そう言ってハンカチを渡してくれた。
悔しくなんかない。
コレは明らかに私より上の絵だ。
「違います。
綺麗なんです。この絵が」
「あー…そりゃ どうも」
あまりにも彼が照れるので
もしや と思ってしまった
「コレ描いたの山崎先輩!!?」
「知っとけ馬鹿」
心が弾む
すごい!!山崎先輩すごい!
私はテンションが上がりきり
ついに
「山崎先輩!すごいです!!
私と付き合って下さい!」
言ってしまった…
気付いた時には手遅れ
フラれる!!
頭の中は真っ白
「へ、、あ うん…」
…さらに真っ白。
フラれなかった
嬉しさで さらに涙が出る
「ちょっ泣くなよ…
ほらっコレやる」
ポケットの中から、
緑の透明な飴を出して私の口に入れた。
それは、甘いマスカットの味。
一瞬しか見えなかったけど覚えてる。
あの飴は、
まるでエメラルドのように輝いていた。
「どひゃあ」
私は思いきり地面に顔面を打ちつける
「ぉわっ大丈夫か!?
ぇえっとハイ飴!!」
そして、彼はあの日から
ことあるごとにアノ飴をくれる。
『さすがに飽きたよ…』
でも、彼が真面目に飴をくれるから、
こばむのも申し訳なくて
飽きたコトは言ってない。
「山崎先輩カッコいい〜」
毎日のように聞こえる女子の黄色い声に
イラリとくる。
山崎先輩こと 山崎 征太郎[セイタロウ]。
高身長の真面目馬鹿プラス天然。
女子のギャップ萌えをひく
『カッコいいけど…彼女は私だからね?』
山崎先輩をみつめ
その隣りをチラリと見る
出た、大浦 智代美[オオウラ チヨミ]!!!
「でもさぁ、私達なんか眼中にないよね」
「山崎先輩から見たらガキよガキ
恋愛対象には入らないわ」
『ってオイオイ。
ここに彼女いるんですけどー
君等と同じ2年生なんだけどー』
付き合って1年
未だに誰も私と山崎先輩の関係に気付かない。
私達には
『彼氏いないのー?』とかいった話しが
まわってこない
「あっ!でも智代美ならいけるかも」
出た!大浦 智代美!!!
どんなに大人っぽくって美人でも
私と同級生なのに
外見だけで評価されている
『まぁ、山崎先輩と大浦さんならお似合いだけどさ…』
って
「何言っとんじゃー私わー」
「急になんだ」
的確なツッコミが入る
「いえ、独り言です隊長('◇')ゞ」
「意味不」
不安
心が崩れそう
「今週 夫が浮気しまーす」
「独り言デカいよー
未婚14歳女子ぃ」
へーへーどうせ私は14歳のガキですよ
私はおもむろに窓の外を見た。
そこには、大浦さんと山崎先輩
「はぁ…」
何もない ただただ淡い青い空。
雲1つない
私には、その透明な青空が泣いていた気がした
「「あっ雨だ」」
誰かが言った後に気付き
「通り雨…か」
と呟いた
ふっと風が私の髪を撫でた気がした。
だけど、どこの窓も開いてなかった。
「ーおーいー」
「…山崎先輩…」
「何泣いてんの?」
「ぁ…」
頬が冷たい。涙だ…
どうして泣いてるの?
ポンッと手にエメラルドのような飴がおかれた。
パクッと口に放りこむ
甘い…甘い…あぁ この飴…冷たい
その飴と同じように
彼の心が冷たかったらどうしよう
私達は日々成長してる。
そして、思い出を消して生きてる。
これは人間の力で本能だから どうにも出来ないけど
その本能は、時に誰かの想いをも消す
もしかしたら、
この恋の存在すら忘れてしまうのかもね
「丸大 明」 空白。
「ハイ」 空席。
「村山 二和」 遅刻?
「ハイ」 違う
「山崎 征太郎」 欠席
「休みだな」 なんで?
どうして2人で休みなの?
大浦さん 山崎先輩
どうして?
2人は一緒にいないよね?
ピンポーン
「ハイ」
「あの…山外です…」
手が震えてる…
「…どうぞ。鍵開いてますから」
暗い声
私
歓迎されてない…?
「よっ!山外!」
「あっうん。大丈夫?」
「平気だけどさ…うつるとヤバいから帰って」
「ぇ…」
彼の言葉が冷たかった。
あ…涙…
「だぁーもう泣くなよなーほら飴」
そう言って口に放りこまれたアノ飴。
面倒くさそう…
「こんな飴…もういらないよ」
「え?」
「毎回毎回同じ飴でもうウンザリ!!」
「…ゴメン」
私は すぐ逃げ帰った。
プルルルルルルルルルルルルルルルルル
「あー待ってぇー今 帰って来たんだってばぁっっ」
ガチャ
「ハイ。山外です」
「あ。山崎です」
「…あ」さっきのお母さん
「あのね。今すぐ来てくれない?」
「へ?」
「実は私。母じゃなくて姉なのよ」
「ー…」
「征太郎ね。持病で私と母の区別もついてないの」
「そうなんですか…?」
「そうなの。
でも、あなたのコトは分かった。」
ザーザー 雨の音
「お姉ちゃん!征太郎が…ツーツーツー」
そこで電話は途切れる。
何それ
人の見分けがつけない程の病気?
なにそれ
バンッ
ザー―――――――――
雨の中
傘もささず走る
ムカツク
山崎先輩の馬鹿
「待っててよね!!」
雨に…
かき消された