地下道
広間を抜けると、またトンネルがしばらく続く。
歩きながらアーサーが、この洞窟の説明をしてくれた。
「ここは大昔の鉱山跡で、マナを溜める事の出来る特殊な鉱石を掘っていたんだ。
皆の武器にはそれが嵌め込まれている。」
前から気になっていた、アーサーの大剣に嵌っている宝石や、アルギネの杖に付いている珠の事らしい。
宝石が嵌っていると、魔法の武器になるって事なのかな?
そこまで説明を聞いた所で、トンネルがの左の壁が途切れて、強い光が差し込んで来た。
どうやらボク達が今進んでいる所は、さっきの巨大な立坑の壁に沿って掘られた、螺旋状に下へ下っている通路の様だ。
所々壁が無い部分があって、広い立坑内が見える仕掛けになっている。
ただ、例によって手すりも何も無いので、落ちたら死ぬのは言うまでも無い。
通路の地面の竪穴側の縁が、少し穴側に傾斜していて、落ちてくださいと言わんばかりの構造なんだよねー・・・
「太陽の石、ペトラ・デル・ソル。」
アルギネが杖で穴の中心方向指し示してそう言った。
そこには高さ5~6メートルはありそうな巨大な光る石・・・というか、岩があり、眩しいくらいに光っていた。強い光の正体はこの光る石だった。
その岩は透明な水晶に似た三方晶系六角柱の形をしていて、内部から強い光を放っていた。
アルギネやアーサーの武器に嵌っている物は精々10センチ位のサイズだけど、これは化物サイズだった。
宝石がマナを溜める事が出来る量は、宝石の純度やサイズに比例するとのこと。
ただし、あまり大きくなるとかえって邪魔になるので、アーサー達の10センチクラスが最大なんだそうだ。
宝石がマナを吸収すると、光を出すんだって。
じゃあ、あの大きいのは一体どのくらいのマナを溜め込んでいるんだろう。
「200年前に発見されたこの石だけは、あまりにもデカ過ぎて、今では坑内の照明代わりさ」
当初、砕いて細分化しようとも考えられていたそうだけど、周囲から丁度良いサイズの石はいくらでも採掘出来たので、あえて砕く必要も無いという事で、照明代わりに放置されたんだそうだ。
鉱脈は垂直に下へ伸びていたので、この巨大な太陽の石を支える様に土台を残しつつ、ドーナツ状に下側に向かってどんどん掘り進めていった結果、立坑の中心に灯台の様に、頂上に光源を乗せた細長いロウソクの様なタワーが一本完成したという事らしい。
太陽の石の光はとても強力で、余裕で立坑の底まで照らしてくれているそうだ。
もう1/3位は降りて来ていると思うんだけど、まだ底は見えない。
立坑の深さは有に数百メートルはありそうだ。
感覚としては、スカイツリーのガラスの床から下を見た時みたいな感じかな。
確かに落ちたらただ事では済みそうに無い気がした。
「あれ?」
「ん?どうした?」
怖いもの見たさで下を覗いたボクは、思わず声を出してしまった。
連られてアーサーも一緒に覗き込む。
「なんか光ったよ。ほらっ」
「いかんっ!!」
下を指差して教えると、またチカッチカッっと何かが光るのが見えた。
すると突然アーサーは慌てた感じで、アルギネとボクを両脇に抱えて物凄い速さで駆け出した。
立坑の螺旋状の通路を物凄い勢いで駆け下りて行く。
そして、最下層の立坑の底へ到達すると、回りを見回した。
「なんだこれはっ!」
見ると、そこらじゅうにおびただしい数の人が倒れていた。
まるで戦争後の戦場の様に。
「どういうことだ?戦争開始はまだのはずなのに・・・それに妙だ、敵の死体が一つも無いぞ。
まさか奇襲か?」
「一体何と戦っていたんだ?敵兵の死体は無いのか?」
ボク達は手分けして周囲を調べた。
ボクも手伝っていたのだが、この場所の景観にも目を奪われてしまっていた。
ひんやりとした空気。
怖いくらいに垂直にどこまでも切り立つ岩の壁。
柱の上に有るはずの太陽の石は、既に点の様にしか見えていないが、LED照明の様にギラギラと強い光を発しているのが見える。
滝の水が霧になっているのか、薄く霧がかかったようになっていて、上を見上げると照明の光の波長のせいなのか、全体が青い天蓋が覆っている様に見える。
ボクは上を見上げながら歩いていて、歩く前方への注意が疎かになっていた。
突如現れた人影に気付く間もなくぶつかってしまった。
見上げると、3メートルはありそうな、鶏ガラのように細い体躯の異形の何かが立っていた。
細長い手足と胴、特に腕は地面に届きそうな位に長く、手足にはそれぞれ肘と膝に相当する関節が2箇所ずつ。
大きな手には、鍵爪を持った指。
後頭部から伸びた、一本の太い鞭の様な触角。
黒っぽい体の表面には、入れ墨の様な赤い線模様が浮かび上がっている。
そして、異様な黒いオーラの様なものが所々から吹き出している。、
「そいつから離れろ!ダイスケ!!」
アーサーはそう叫ぶが早いか、既に抜刀して走り出している。
アルギネもほぼ同時に弾かれたように行動を起こしている。
「え?」
急に叫ばれたボクは、意味が分からず振り返るのが精一杯だったが、アルギネの防御魔法は既にボクを包み込んでいた。
と、同時にボクの全身を強い衝撃が襲った。
アルギネの魔法の方が間一髪早かったが、衝撃力のあまりの大きさに魔法はガラスが砕けるように粉砕され、相殺きれなかった力でボクの体も対岸の壁へふっ飛ばされて行く。
アルギネは体の下に魔法円を展開し、それに乗って飛行する様にボクの体が飛ばされた方向へと瞬時に飛び、壁に激突する前に再び防御魔法でボクの体を包んでくれた。
しかし、それでも衝撃を殺しきれずに、魔法は砕け、ボクの体は岩壁に激突してしまう。
ライフゲージが物凄い勢いで減るのが見えた。
が、即座にヒールの魔法がかかり、ボクは一命をとりとめた。
今の瞬間的な出来事の間にアルギネは3つ、いや4つの魔法を連続で詠唱した事になる。
その技量の凄まじさが垣間見えた、と言っても過言ではないだろう。
アーサーは盾を前に構え、大剣を腰だめに構えて突進攻撃に瞬時に移っていた。
大きな両手持ちの大剣を片手で支える膂力は大したものだ。
そのまま集団陣形をも切り崩す突進力だったのだが、体格差があまりにもありすぎた。
剣が届く範囲の外から、その長い腕を伸ばしてアーサーの頭を掴むと、アーサーの突進力を利用して振り回し、後ろの中心柱に叩きつけた。
「そうか、あのガキか・・・」
その怪物の名前はヘクター。
ネームプレートの色は赤。
怪物側所属の人間に間違い無い。
ヘクターはニヤリと、顔の側面まで避けた赤い口を開け、尖ったキザギザの刃を見せると、ボクに向かって走り出した。
「ま・・・まて!」
アーサーよろめきながらもその後を追う。
「下がりなさい!」
既にボクの傍まで来ていたアルギネは、ボクを庇う様に前に立ち塞がったかと思うと、大きなドラゴンに変身した。
【Argine as Rode draak】
頭上のネームプレートの表示が変化した。
その体高はおよそ5メートル。
ピンク色の龍の幼生体の様に見える。
ちょっと可愛いかもと、空気も読めずにボクはちょっと思ってしまった。
背中には、その巨体ではとても飛べそうにない程の小さな翼が付いていた。
(後で聞いた話によると、昔は真っ赤な炎龍だったとのこと)
でも、その口から吐き出されたのは、旅の途中で襲ってきた魔物達を一瞬で消し炭に変えた火力を誇る炎のブレスだ。
ヘクターをその火炎に包み、再び柱の根本まで押し戻し叩きつけた。
しかし、ダメージは与えられては居ない様だ。
【Hektor as God of Cockatrice】
ヘクターも変身した。正面からはニワトリの雄鶏の様に見えるのだけど、下半身は恐竜みたいだ。
コカトリス、コッカトライスとかいいう、雄鶏と蛇のハーフみたいな怪物らしい。
ニワトリ部分が金色に輝き、下半身は青っぽい色をしている。
なんか確か毒とか持ってるんだったかなー。
毒にはトラウマが有るんだけどー。
Godの文字が見えてる様な気がするんだけど、マジですか?
コカトリスも灰色のブレスを吐き出して対抗してきた。
アルギネドラゴンとヘクターコカトリス両者のブレスは、空中で衝突して押し合いになったが、コカトリスのブレスの方が威力が勝っている様で、徐々に火炎のブレスト押し込んで行く。
ブレス勝負はコカトリスの勝ちの様だ。
徐々に目の前に迫って来る火炎を見て、負けを悟ったアルギネは変身を解く。
「アーサー!ダイスケを!」
両腕を広げてボクを守ろうとするアルギネ。
ブレスがアルギネまで到達しようとした刹那、アーサーがボクを抱えてブレスの直線上から逃れることに成功したが、アルギネはブレスをまともに受けてしまう。
「アルギヌ!」
アーサーが叫んだ。
アルギネの身体は足元から石化し始めていた。
その石化が心臓まで到達しようというその時、有るギネは左手をアーサーの方向へ差し出した。
左手の上には青い光の玉が出現し、アルギネは完全に石像となってしまった。
光の珠は青から赤へ、そして黄色と色を変えながら空中を飛び、アーサーの大剣に嵌っている宝石に吸い込まれていった。
宝石は目映い光を発し、アーサーはボクを地面に下ろすと、両手で剣の柄を握る。
剣を構えると、剣の先が宝石を中心に変形した。
説明が難いんだけど、二つ巴の図形の巴を丸い部分で重ねたような形っていうのかな、分かり難いかな。
あ、腕が2本の星雲みたいな形っていうのかな、まあそのような形に分かれたんだ。
アーサーはそれを持ってコカトリスに突進し、右の腿に剣を突き刺すと剣が途中で折れて、宝石の付いた剣先部分を腿に残したまま、飛び退ってボクを再び抱えるとその場を走って離脱した。
コカトリスはその剣先を抜こうと必死に暴れていたみたいだった。
ボクには見えていなかったのだけど、広間を去る瞬間、後ろの方で爆発の轟音が聞こえた。