出会い
いやー、意外とサクサク書けないものですね。
「ちょっと待て、おまえ9歳なのか?!」
「しっ!GMに聞かれたら不味いわ」
「日本語版って、パーソナルIDを入力する箇所無かったか?R-15指定のはずなんだが・・・」
「マイナンバーの事かなー?日本ではサービス開始からまだそんなに経ってないんだよね。」
「だからか、対応が追いついていないのかもしれないな」
「とにかく、今後その件に付いては秘密だ」
「う・・・うん、わかった!」
このゲームは、本当はR-15指定らしくて、市民番号のある国では自動的にそこからデータ照会されて対象年齢を満たしているかどうかが判断されるらしいんだ。
でも、日本ではまだマイナンバーは一般的に広まっていなくて、そういうシステムが使えないみたいで、一応パッケージの隅っこの所に【R-15】って印刷されているだけで、実際に遊ぶかどうかは個人の判断に任されている状態みたい。
だから、日本に限ってはそれをもってアカウント削除とかの対象からは除外されているっぽい。
ボクはこの二人に人間の国・・・というか、村に連れて行ってもらうことになった。
神様だけはフィールドで生まれちゃうって、ちょっとバグっぽい仕様な気がするけどどうなんだろう。
何か理由でも有るのかな?きっと1ユーザーには計り知ることが出来ない、運営だけが知っている深い意味があるのかも・・・
「無いわよ?そんなの」
「え?」
「プログラマーがサボっているだけよ。運営がバカなのよ。」
「お・・・おい、煽るなよ。」
何でこの人達はそんなに運営に気を使っているのだろう?
雑談を聞かれたくらいで何か不味いことでもあるのかな?
「ちょっと前までというか、1ヶ月前まではこのあたりは聖都内だったんだよ。」
「本当なら、安全に人間の陣地内で誕生するはずなのだけど、毎回対応が遅れてるのよね。
もしやと思って見回りに来ていて正解だったわ。」
「1ヶ月も対応出来る時間が有るのに毎回だからなー。わざとと取られても仕方がないな。」
なんか、愚痴を言いだしたよ。
ボクはこの時、なんか、人間臭いなーと思った。ゲームもこの二人も。
そんなやり取りをしながら、僕たちは川沿いのフィールドを歩いていった。
村はここからはちょっと距離があるみたいで、ボク達は三人でパーティーを組んだ。
本当に見知らぬ土地を冒険しているみたいでボクはワクワクした。
でも、大人の二人と子供のボクでは足の長さが違って、歩く速度が違うので、時々走って追いかけなければならない。
そんなとこまでリアルにしなくてもいいのに。結構操作が忙しいぞ。
「ボクもアーサーみたいに強くなりたいな。そして、アルギネを守ってあげるよ。」
さっきアルギヌって紹介されたけど、ボクはローマ字読みでいつの間にか気づかずにアルギネって呼んじゃってた。
でも訂正される事も無く、アルギネは特に呼ばれ方は気にしていないみたいだった。
アーサーとのやり取りを聞いていた感じでは、ちょっと怖いお姉さんなのかなと思ったけど、なんだかボクに話す時には優しい感じがした。
「ふふ・・・ありがとう、頼もしいのね。」
ツンケンした態度はアーサーに対してだけで、他の人に対しては本当に優しいのかも。
「ダイスケはナイト志望なのか?」
先頭を歩くアーサーが後ろを振り返って話しかけて来た。
何でナイトと思ったんだろう?何も言ってないのに。
ボクがどんな職業を選んだのか気になるみたい。
あれ?神様でも職業ってあるのかな?
「ボクね、孫悟空みたいに強くなりたいんだ。」
「ソンゴクウ?ああ、西遊記の・・・」
「ドラゴンボールの方じゃないかしら?」
「ああそれ知ってるぞ、オッスオラゴクウってやつだ!ってことは、徒手空拳、格闘家やモンクかー。」
流石に超有名ジャパニメーションだね。外国人でも当然のように知っている様です。
「格闘家は武器を持たないけれど剣士よりも強くなるわ。」
「ちょっとまて、それは語弊があるぞ!!」
アーサーはナイトなので、剣士が弱いと取られる言い回しには黙ってられなかったらしい。
「正確には時間あたりの与ダメ(与えるダメージ)効率が武器を持ったキャラクターよりも高いという事なんだ。」
「それから、相手との相性ね。」
武闘家はプレートメイルの様な防具を着られないので、被ダメ(受けるダメージ)は大きめ、という様な事を説明された。
なんとなくそれはイメージ的に納得した。
それから、アルギネの説明によると、打撃系と斬撃系では戦う相手によって得手不得手があるのだという。
体表面の硬いモンスターは打撃が有効だし、動物系は斬撃の方が有効で、スライムみたいなのは魔法がよく効くらしい。
同じ打撃系でも、武器のウォーハンマーとの違いは、一発のダメージと攻撃回数の違いで、ハンマーは、モーションが大きく攻撃回数は少ないけれど、一発のダメージは大きい。逆に、拳法とかの徒手空拳は、一発のダメージは小さいけれど、攻撃回数が多めという事なんだって。
だけど、某有名ダンジョン系RPGだと忍者は素っ裸が一番強いとかなってたから、ちょっと期待したんだ。
武闘家って、道着だけなのかな?かっこいい防具があればいいんだけど。
素っ裸は嫌だけどね!かっこ悪いし。変◯仮面とかけっこ◯仮面じゃないんだから。
「ダイスケ、ちょっと変な事思いついても決して口に出さないようにね。」
アルギネはテレパシーでも使えるのかな?
「あのな、これは本当に有った話なんだが・・・・・・昔々、自分のキャラの仕様について変な事を思い付いて、うっかり口に出して言っちゃった奴が居たんだ・・・」
「そしたら・・・」
アーサーとアルギネは急に歩みを止め、怪談でも話す時みたいに、小声で声色を変えて話しだした。
「そしたら?」
ボクはグビッと生唾を飲み込んで二人に聞き返した。
「実装されたのよ・・・・・・」
アルギネは目を閉じて、沈痛な面持ちでボクから視線を逸した。
「へ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少しの間の後、アーサーが話を続けた。
「実装されたんだよ。そのヘンテコな恥ずかしい仕様が。そいつのキャラだけに。」
「多分、有利な仕様は実装されない。」
「変なとか、面白いとか、みっともないとか、かっこ悪いとか、恥ずかしいとか、そういうものしか実装されない。」
運営の、多分グラフィック担当の人の琴線に触れる何かがあると、実験的にというか、ほとんど気まぐれに実装されてしまう事が稀に良くあるらしい。
本当にヤバイらしいので、詳しく話す事も出来ないらしいけど。
どんな罰ゲームだよー!◯態仮面とか言わないでほんとーに良かったと、ボクは胸を撫で下ろした。
それにしても、結構この二人はおしゃべりで教えたがりなのかも。
でも、今のボクにとってはとても有り難いです。
「まあ、それは才能と・・・修行次第だけど。手から破壊光線出したり空飛んだりは出来ないわよ?」
「それはわかってるよー。」
アルギネは結構冗談も言うのかな?怖そうなのに。とは思ってても言わない。
「職業スキルはもうセットしたの?」
「最初に決めたよー、キャラメイクの時にー。」
「ああ、あれはー・・・職業じゃなくて、血筋というか・・・まあ、先天的才能の選択みたいなものかな。才能のある職業を選ぶと、パラメーターの伸びが良いのよ。」
「まだならセットしておきなさい。職業(Job)スキルはメニューの・・・」
と、アルギヌが説明してくれているのを待たずに左側のメニューの中に『Job』という項目を見つけたボクは、プルダウンメニューの中に沢山並んでいる職業に片っ端からチェックを入れていった。
(パン屋ってあるけど、強いのかな?・・・これもチェックしておこう)
そして、一番下の確定ボタンを押してから
「あっ、あったよ!」
アルギヌに言うと、まだ説明の途中だったみたいで
「スキルがあるレベルに達すると、その職業を名乗れるようになるわ。例えば、その前を歩いている男は、剣士の血筋に生まれ、剣術のスキルを鍛えて騎士の職業をしている。」
つまり、目的のスキルに集中的にポイントを回した方が強くなれるという事らしい。
それを補うようにアーサーが
「一本の道を極める事が大事なんだ。欲張って色々沢山付けると失敗するぞ。やり直しが効かないからな。」
(ん?・・・やり直せないって?・・・)
「あ・・・」
「どうしたの?」
「う・・・ううん、なんでもない。」(ヤバ、やっちゃったかな・・・)
「ダイスケ。文字翻訳の方がバカで苦労しただろ?言語翻訳の方はわりとスムーズなんだけど、文字の方は日本語独特の表音文字と表意文字の組み合わせが文法の違いとあいまって、結構無茶苦茶らしいんだよな。」
「うん、全然ダメだったよ。でもどうせ、本のオマケに付いていた30日間お試し版だから、つまんなかったらすぐ止めちゃうつもりだったもん。」
「ふ~ん、そうかー・・・、お試し版ね・・・」
「試用版!!」
「トライアル?!」
「マジか!?!」
アーサーは驚いたふうで、振り返ってそう叫んだ。
ボクとアルギネはその声にびっくりして立ち止まったけど、アルギネは割と平然として、クスクスと笑いながら
「お試し版のビギナーゴッド?人間界は前途多難ね。」




