ゲームの中でボクは神になっていた・・・って、狩られちゃうの!?
ワールド全体にGMからのお知らせが響き渡る。
【GMからのお知らせです
人間界に新しい神の子が誕生しました
両陣営ともルールを守って闘いましょう】
【さあ、神狩りの始まりです】
SF映画の転送みたいなエフェクトの後にボクのアバターはそこに立っていた。
「おー、なんだこれ。」
体は幼児の様で、ボロ布?何かの動物の毛皮かな?に穴を開けて頭と腕を通しただけみたいな服を着ている。オレンジ色の髪を後ろで束ねただけの、まるで原始人みたいな格好だ。頭の少し上には『DAISUKE』という青色の文字で名前が浮いている。よくある形式だね。
キャラメイク画面は無かったし、ただ沢山のボタンを押させられただけだったみたいだけど、ちゃんとキャラが作成されている。ボクの小さい頃の顔になんとなく似ていると思った。
それにしても、初期装備のなんと見窄らしいこと。
「原始人の子供?・・・ま、いっか。」
細かいことは気にしない。どうせお試し版だから。
「最初は何すればいいのかな?普通のRPGだと武器を装備・・・」
左側に表示されている沢山のボタンの中に【 Item 】という文字を見つけ、それにカーソルを合わせてクリックしてみると、開いたパネルには【 None 】の文字しか出て来ない。何も持っていないという意味なのかな。
「何も持ってない・・・」
「あ、武闘家だから素手かあ。」
思わず呟いちゃったけど、アバターの方もそれに合わせて口をパクパクしている。
良く出来てるね。
回りを見回してみる。
それにしても、大した操作もしていないのにこのキャラはよく動く。表情も豊かだ。
実はこのゲームのシステムの特徴なのだが、今流行りのVRではなく、自分の顔に向けたカメラにより、首の向きや表情を捉えていて、多少大げさにデフォルメされてアバターにも反映されているみたい。
最近の一部のスマホにも搭載されている機能で、だから、VRの様なヘッドマウントディスプレイを付けてしまうと表情が読み取れなく成ってしまう。この2つの技術はその特性上、両立が難しいのかもしれない。色々と実験的なシステムのみたいだ。
上半身の動きもトレースしているみたいだけど、カメラの視界外の足の動きまでは反映していないみたい。もしかしたら、もっと離れて全身を映せば反映されるのかも?でもそうするとマウス操作が出来ないんじゃないかなーとボクはなんとなく思った。
キャラクターメイクも、カメラが捉えた特徴から年齢を逆算して勝手に生成するみたいで、つまり、誰でも最初は子供から始まるみたい。きっと、キャラクターが歳を取るシステムなのかも。
首を回すと、左右それぞれ90度位は視界を回せるし、上半身をひねると、体の向きも変わる。結構楽しい。
ボクは回りを見回してみて、一番近い木の所へやってくると、「えいっ!!」っとカメラに向かってパンチのふりをしてみた。すると、アバターも木を拳で殴った。
立木を壊せるかなーと思ってやってみたけど、地形破壊は出来ないのかな?それとも生まれたばかりで力が無いから出来ないのかな?アバターは勝手に痛そうに手をプルプル振っている。AIである程度勝手に動くみたい。結構楽しい。
「とりあえず、町を探そう。」
「まずは町を探して、そこを拠点に情報を仕入れたり、武器や防具や薬草なんかを買って、仲間を探したり町の周囲で雑魚敵のスライムなんかの魔物をやっつけて、経験値やお金を稼ぐんでしょ?知ってる知ってる。」
この時までボクは呑気に考えていた。
この岩の岳を登ったら遠くまで見えるかな?町が見つかるかな?そう思って中腹まで登った時、岩の死角から大きな昆虫型のモンスターが出てきた。
体の大きさは優にダイスケの10倍以上有りそうな怪物だ。
それがいきなり攻撃してきたのだからたまらない。
「わー!怪物!!!」
ボクは慌てて逃げ出した。
カマキリみたいな姿をした怪物は、その尖った前足でダイスケを突き刺そうと追ってくる。
「いきなりヤバイヤバイ!!!」
あっという間に壁際に追い詰められてしまった。
「最初は雑魚じゃないのー?!!!」
もう泣きそう。
そう叫んで怪物の顔を見上げた途端、何故か下側からおなかへ衝撃が走った。
「う?!」
見ると、真っ赤な太い針がおなかに突き刺さっている。
怪物は尻尾の先から針を出して自分の体の下を通し、地面すれすれの位置からダイスケを狙ったのだ。
カマキリの鎌の様な前足は本命ではなく、この尻尾の先の毒針がこの怪物の武器だった。
「カマキリが毒針持っているなんて、反則だよぅ!」
毒で動きを封じてからじっくりと、とどめを刺すつもりの様だ。
ボクはその場に倒れ込んでしまった。麻痺で体を動かす事が出来ず、全身が紫色に変色し始めている。
「毒だ・・・はじめてたった1分で死亡って・・・マジ?」
倒れて身動きが出来ない、もう視界もぼやけてきた・・・
怪物が右の前足を振り上げるのをぼやける視界で見つめ、(あの前足で串刺しにされるのかな・・・)そう思って諦めかけた瞬間。
カキーン!!
金属音が響き、目の前に黒っぽいプレートメイルを着た大柄な男が立っているのが見えた。
左手に持った盾で怪物の爪を弾いたのだ。
と同時に解毒とヒールの魔法がボクを包む。
一瞬で毒はすっかり消え、ライフも満タンに回復していた。
見回すと、少し離れた木の傍に白いフードを被った女の人立っていた。
(あの人が魔法で助けてくれたのか)
右手に持っている変わった形の杖の石突を地面に打ち付けると、足元に青い魔法陣が出現して回転を始める。
すると、ボクと鎧の男の前に緑色の魔法シールドが展開した。
男は三本角のヘルメットをかぶり、肩からも角の生えた厳つそうな黒い鎧を着ていて、大きな両手剣を背負っているのに何故か盾も持っている。(手が3本必要じゃんって、ちょっと思った)
男は左手に持っていた盾を背中に回すと、背中に背負っていた身の丈もありそうな大剣を引き抜き、肩に担いだ。
後から聞いた話によると、普段は盾は背中に回して両手持ちの大剣を振り回しているんだけど、大人数のパーティーの時に攻撃は他の人に任せて、自分が誰かを守る時には逆に盾を両手持ちして防御形態になるんだって。盾は『城壁の盾』という物で、本当かどうか、お城の城壁並の防御力があるって言ってた。
男が大剣を肩に担いで、カマキリの方へ歩いていくと、その時驚いたのは、それを見た怪物が喋った事なんだ。
喋るんだ?!って思った。しかも狼狽えている。良く出来てるなー・・・。
「ちょ・・・、ちょっとまて・・・、おだやかに話し合おうぜ?」
後ずさりしつつ、そう言いながらも前足の爪で攻撃を繰り出している。姑息な奴。
しかし、その攻撃は男のプレートメイルを傷つけることが出来ず、弾かれてカーン!キーン!と、甲高い金属音を立てるだけ。
男の持つ変わった形をした大きな両手剣(剣の先の所に宝石みたいな物が嵌っているんだ)を振りかぶると、そのブレード部分が光り輝き、それを見た怪物は悲鳴にも似た声を上げた。
「バケットマン!!ちくしょー!なんでおまえがここにいんだよ!ついてねー!!」
怪物は防御するように前足をクロスして頭を守る姿勢をするが、青白い光跡を引いた大剣のブレードは、何の抵抗も無く前足で防御した怪物の脳天を穿ち、そのままの勢いで地面を直撃した。
火薬でも仕込んでいたのかと思う様な爆発が起こり、砂煙が舞い上がる。
少し離れた所に居たボクにも衝撃波が襲い、ボクは吹き飛ばされて仰向けにひっくり返ってしまった。
(これでボクにもシールドの魔法をかけてくれたのかー・・・)
カマキリの怪物は、男の剣のたった一撃でライフがゼロとなり、仰向けにひっくり返って脚を折り曲げ、ピクピクと震えている。
よく、ゴキブリとかに殺虫剤をかけると、ひっくり返って痙攣するあれ。
ちょっと気持ちが悪い。なんで虫って、死ぬ時にあの姿勢を取るんだろう?
必ずひっくり返るよね。
衝撃波はボクの所へも来たけど、ボクへのダメージは全く無かった。
でも、衝撃は受けた。吹き飛ばされた。ノーダメージだったけど。
あれ?攻撃以外での二次的な被害というか、衝撃波とかでの物理ダメージあるのかな?
例えば、爆発に巻き込まれるとか、破片が飛んできて当たるとか・・・・・・
さらに言えば、別のパーティーが戦っているのを見物してて流れ弾で怪我したり、味方の振り回す剣に当たったり、魔法攻撃に巻き込まれたりして怪我したりする事も有り得るのかも?
一狩り行こうぜ!のゲームは、味方の攻撃はダメージは無かったような気がするけど、当たったリアクションだったり怯んだりみたいなモーションはあるので、パーティーメンバーに迷惑がられたりしてたっけ。あのゲームでは、野生の動物に突き飛ばされたり、飛んでいる蜂に刺されてわずかにダメージ負ったり麻痺したりしてたよね。似たような仕様なのかも?
ダメージがあるのか無いのかわからないけど・・・・・・気を付けないと。
男は大剣を背中に背負い直すと、ボクの方へ向き直って話しかけてきた。
「おいおい、自殺志願者かい?」
「その歳で世を儚むのは、ちと早すぎやしないか?」
と冗談交じりに聞いてきた。
ボクは素直に助けてもらった事に、そして他の人間に会えたことが嬉しくて、飛び上がって喜んだ。
「わーい!ありがとー!!」
ボクのアバターが満面の笑顔で喜んでいる。なんか可愛い。自分の顔に似せて作られたキャラっぽいけど。別にナルシストではないよ。単に子供のキャラが喜んでいるのが可愛いなと思っただけだから。
紺色の服に白いフードをかぶった女の人・・・さっき解毒魔法や回復魔法を掛けてくれた人ね。多分、前掛けの所に十字架の刺繍が有るから、僧侶?クレリックとかいうのかな?手には竜の爪が珠を掴んだみたいな形の長い杖を持っている。
その女の人が近寄ってきてボクの事を見ながら男に向かって喋った。
「これが例の神の子供?人間同士なら見分けがつくのかしら?ずいぶんと可愛らしいこと。」
ちょっと肩を竦めて見せた。
あれれー?ちょっと舐められている感じなのかなー?
この女の人、ちょっと怖い感じなのかなー・・・・・・
それを受けて男の方が
「覚醒年齢までは人間と見分けが付かないからなあ・・・」
屈んでボクの顔を間近でまじまじと観察してから
「全然わからん。」
それを聞いて女の人は呆れたように肩を落とした。
男は顎に手をやり
「まあ・・・、本人に聞くのが手っ取り早いだろ。」
と言うと
こっちに向き直って「なあ」とか言ってきた。
「?」(なあとか言われても、意味が分からないんだけど・・・)
「えーと、ダイスケっていうのか?おまえは神なのかい?」
「・・・???」(えーーー???意味がわかりませーん!!)
「もしかして初心者か?まいったな、事情わかんねーか?」
何か、このゲームのプレイヤーなら知ってて当たり前の事でも聞かれたのかな?
ボク、マニュアル読めないんだけど・・・・・・
その時、女の人の方が何かに気が付いたみたい。
ボクもその時気がついたんだけど、右下に話している相手の名前と翻訳先の言語が表示されているたみたい。
ボクの言語はもちろん『日本語』なんだけど、男の方は『English』で、女の人は『Svenska』だった。英語と・・・なんかわからないや。
世界中の言葉を相互に同時翻訳しているのって、結構すごい技術なんじゃないの?
そういえば、最近そういうイヤホン型の翻訳機とか売ってるから結構出来ちゃうのかな?
男の人の方もそれに気が付いたみたいで
「日本語って・・・・・・翻訳率悪そうだなこりゃ。」
「どちらにしろ、置き去りには出来ないわ。村まで連れていきましょう。」
「あ、あの・・・・・・助けてくれて、どうもありがとう。」
お礼を言うと、男の人の方がボクの背中をバンバンと叩きながら親しげに自己紹介してくれた。
「おまえ、俺達に最初に出会ってラッキーだぞ。俺はアーサー、こいつはアルギヌ。よろしくな、ダイスケ。」
アルギヌと呼ばれた女の人はちょっとムッとしながら、手に持った杖でアーサーの頭を小突きながら
「馴れ馴れしいわバケットマン。」と言った。
あれ?アーサーのボクに対する態度が気安過ぎて怒ってくれたのかな?
結構ちゃんとしてる人なのかな?
さっきのカマキリも言ってたけど、バケットマンってなんだろう?
聞いてみると、バケツ男って意味らしい。
今は黒い鎧だけど、本当はロイヤルナイツという12人の聖騎士団のメンバーに所属していて、国では金銀ピカピカの全身鎧に細長い円柱状のヘルメットをかぶっているんだって。
その見た目から、主にカオス側、つまりさっきの怪物達の側のグループからは、バケツをかぶっているバケツ男って馬鹿にして呼ばれているんだって。
「あだなっていうよりスラングだからな、お前は呼ぶなよ。
俺は気にもしていないんだけど、他の奴が聞いたら怒り出す奴も居るからな。」」
と、釘を刺されてしまった。
ここで衝撃の事実が発覚。
さっきのカマキリもプレイヤーキャラクターだったの?!
え?ちゃんとマニュアル読めば書いてある?
しょうがないじゃん!ボクは外国語読めないんだから!
えーー、怪物側もNPCではない。つまり、コンピューターで自動で動いているキャラでは無いという事らしい。つまり、人間が動かしている敵側のキャラだったという事ね。
「だから、あんなに流暢に言葉を喋っていたのか!」
普段日本のゲームしか知らないボクにとっては、これはすごくびっくりする事実だった。
ていうか、すごい仕様。
人間対人間なんだ。あ、向こうは魔物か。でも、中身は人間なわけで・・・・・・
あ、なんかヤバイかも。このゲーム背徳感凄いかも。でも、楽しそう・・・・・・