ワールド
ラケルとの闘いでは経験値は入らなかった。
何故なら、引き分けにしたから。
だけど、経験値は入らなかったけど経験には成った。
というか、ボクはこのゲームのちょっと奇妙な事に気が付いた。
地形とかその他の要因で必殺技の威力が変わるみたいなんだ。
「良い所に気が付いたな。そうなんだよなー。」
「そのあたりはアルギヌが詳しいぞ。」
アーサーとヘクターが言うには、アルギネはこのゲームがベータ版公開の前の
アルファ版の頃からの古参プレイヤーなのだという。
アーサーとヘクターはベータ版からで、その頃から既にアルギネは恐れられていたらしい。
「このゲームにはちょっと不可解な部分があるのよね・・・」
例えば、必殺技とか魔法の様な物とかモンスターの体の構造的な物、つまり現実には無い超自然的な現象とか、構造的に自立出来そうもない構造物や生物なんかのファンタジー要素的な物、それら以外の物理現象がかなり正確にシミュレートされているという事。
確かに現実世界だったら、魔法の発生は物理法則無視だし、人間より大きな昆虫とかは自重で動けるはずがないとか、そこまで正確にしていたら、ファンタジーの世界は成立出来ないから、それは仕方がない。
アルギネが言っているのは、落下とか衝突とか、作用反作用とかの物理現象の事を言っているのだと思う。
「私が解析した所では、慣性運動、空気抵抗、浮力、摩擦係数、重力加速度、などの物理法則ね。」
あるギネの話によると、、二次三次四次・・・の連鎖運動まで、つまり、物体が動いて何かに衝突して、その衝突された物体が動いて更に他の物体に衝突してそれがさらに・・・・・・という様な動きまで正確に再現されているらしい。
これは、かなり凄いことで、一つのボールの運動とかなら家庭用のPCでもそこそこ出来るんだけど、これが数十個の数ともなると、事前に計算するならまだしも、リアルタイムのゲームで再現するのは不可能なんだそう。
それをやるにはもっと沢山の演算を並列に処理できるシステムが必要になるはず。
しかも驚いたことに、此処のフィールドでは、砂の一粒一粒に至るまで完璧に現実を再現されているとのこと。
そんなの、地球の大気の動きを計算する地球シミュレーターとか、それ以上のスーパーコンピューターでもないかぎり不可能だって。
「例えば、日本のスーパーコンピューター『京』を1時間借り切った場合の使用料金は、約120万円と言われている。
たかが、オンラインRPGごときがそんなにお金を掛けているのかしら?
どこの会社が?
何の為に?
不可解だわ。」
アルギネがなんかブツブツ言い始めた。
なんか昔からこういう人だってアーサーが言ってた。
アルギネって、一体何者なんだろう?
「サーバーの位置は、私の住んでいるスウェーデン国内みたいなのだけど・・・・・・」
「え?アルギネってスウェーデン人だったの?」
「え?あ、ああ、ごめんなさい。」
ボクの言葉に反応して、アルギネが戻ってきた。
「そうよ。アーサーはイングランドで、ヘクターはブラジル。そして、ダイスケは日本でしょう?」
「ここでもう一つ、奇妙な事に気が付かない?」
「えっ?何だろう・・・」
「時差よ。」
「時差?」
「私達の住んでいるで国では、それぞれ何時間も時差があるのよ?
ダイスケとヘクターに至っては、地球の裏表でしょう?それなのに、いつログインしても会うことが出来る。
不思議に思わなかった?」
言われてみれば、いつログインしても皆居るなーとは思ってた。
てっきり皆廃人プレイヤーなのかと思っていたよ。外国の廃人ハンパねーって思ってた。
「ダイスケはいつも夜更かしして遊んでいるわけではないわよね?」
「うん、学校から帰ってきてから2時間位遊んでいるだけだよ。」
「ほらね?」
「え?」
「わからない?私達も常に24時間ログインしているわけではないという事。」
「あっ!」
「皆、自分の生活時間の内、適当な時間に適当な時間だけログインして遊んでいるの。」
「なのに、全員同じ時間に会う事が出来る!?」
「そう、不思議でしょう?」
「でもさ、ダイスケが試用期限切れで落ちた後、再ログインしてくるまで間が開いたぞ?」
アーサーが疑問を口にした。
「あれは、試用期間が過ぎて、一旦退会した様な状態になっていたから。ユーザーが課金して継続するかどうかわからない状態になっていたから、アカウントは保留状態になっていたのね。」
「正規ユーザーとなってからは、ログアウト状態にはならないってことか。」
「それって凄いシステムなんじゃね?一体、どれくらいの時間までシームレスに繋がるんだろうな?」
「私の試してみた所だと、α版の時で32時間、βの時で64時間、正式サービス開始時で128時間、現在ではもっと伸びてるわね。」
「すげーな、まるで時空が歪んでいるみたいだ。」
「なにそれー?マトリックス的な感じ?皆気が付いてないの?」
「まあ、気が付いたら現実が人間電池って事では無いから心配しなくても大丈夫。」
「もちろん、殆どの人は気が付いているけど、すごいテクノロジーだなー位にしか思ってないんじゃないかしら。
「呑気な奴は、あいつ何時ログインしても居るなー、廃人なんじゃねー?って位にしか思って無いだろ。
ちょっとおかしいなとは思っても、通信が悪くてラグった位にしか感じないからな。」
え?なにそれすごい!
ボクはちょっと面白くなってきて確かめてみたく成った。
「すっげー、すごいよ!ちょっと実験してみる!、はい、ボクは今何時間ログアウトしたでしょう?」
「俺らから見たらログアウトしてないよ?」
「まじでー?!ボク今、お風呂入ってご飯食べて、宿題してから帰ってきたんだよ?」
どうなってるの?どういう仕組なんだろ?すごすぎるよね?!
「そのあたりの事は今は調べようが無いので、時間をかけて調査してみるわ。」
「ゲーム内の物理法則について話を戻しましょう。環境によって、技のの威力が変わる・・・さっき、このゲーム世界の物理演算はかなりリアルだと言った通り、例えば、ダイスケの竜巻では、その巻き込む砂や小石等の外部からの影響を受けて、威力が変わってくるの。」
「多分、河原とか砂浜とかだと威力は相当上がるんじゃないかな」
「そう、アーサーの言う通り、本物の竜巻をシミュレートされているとすると、中心付近の風速は、最高速度は藤田スケールの12、マッハ1.0相当。ダイスケの場合は、もしかしたら音速を超えているのかも知れない・・・・・・」
「おーい、アルギヌさん?ダイスケの歳を考えてあげてー。置いてきぼりですよー。俺もな!」
アーサー、ナイスフォロー。ボクは一瞬お経でも聞いている気分になっていましたよ。
でも、話の中に出てきたマッハ1.0という単語にはドキがムネムネしましたよ。
「あ、ごめんなさい。例えば、ニュース映像で見た事があるかしら?
竜巻の風で鉄骨が引き千切られたり、飛ばされてきた木の角材がコンクリート壁を貫通したり、とにかく、たかが風とは侮れないパワーがあるの。」
「うん、わかった!とにかく凄いんだね!!」
「そう、とにかく凄いの。そして、ここが重要なんだけど、その威力にはダイスケの筋力や攻撃力は関係無いという事なの。」
「つまり、敵にダメージを与えるのは、ダイスケの力じゃなくて、ダイスケが起こした風の力というわけだな。」
「音速で飛んでくる小石や砂なんて、ゾッとしないな、マグナム弾並の速度か・・・・・・」
「ほう、あの地下洞での決戦がもし地上だったら、あの時点で勝敗が決まっていたかもしれないんだなー。」
「まじかよ・・・・・・」
アーサーの何気ない呟きに、ちょっと身震いするヘクターであった。
「じゃあ、またあの時みたいに地面がただの岩だった時はどうすればいいの?」
「そこはそれ、工夫すればいいのよ。ふふふ。」
アルギネは何か思いついたのか、不気味な笑みを見せていた。
ボクら3人はちょっと引き気味。
・・・・・・・・・・・・◇◇◇・・・・・・・・・・・・
そのあと何戦か繰り返し、ボクの年齢は実年齢と同じ9歳にまでなった。
ヘクターも14歳になったそうだ。
「そろそろ上がりにくく成ってきたな。」
「やり方を変えましょう。」
ボク達パーティーは、オートマッチングの安全な戦闘を中止して、領域の境界までやって来た。
そこには前に見た、血のような色で紋章が描かれた、髑髏の飾りもお洒落な素朴な木の看板が在った。
その看板の向こう側は、完全にカオス側の領域だという目印なのだ。
一歩境界を越えてカオス側に踏み込むと、前の時には何も感じなかったのだけど、もの凄い違和感をに襲われた。
「あれっ?なんだこれ?凄いビリビリするー!?なんでー?」
「だろ?前の時は生まれたてでニュートラルな状態だったから分からなかっただろ?」
「これ、魔物が人間側に入っても同じ感じになるんだぜ。」
「ライフが少しずつ減って行くから気を付けて。」




