ラケル
「あー、笑った。」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
アルギネは気が済むまでヘクターを馬鹿にして、スッキリしたようだ。
対象的にヘクターはアルギネに対するヘイトがマックスに溜まっていた。
「勝負しろ、アルギヌ!」
「いいわよ、ただし負けた方は以後、奴隷だから。」
「よーし、言ったな、取り消さねーぞ!」
結果、瞬殺。
もちろん、アルギネの勝ち。
ま、そうだよね、皆そう思ってたよね。
ここでヘクターの方が勝てば面白い展開だったけど、ちょっと期待しちゃったのは内緒だ。
確かにあの地下空洞ではヘクターの攻撃力の方が圧倒していたけど、神性を失ってこっちに来て、巻き戻ってからはアルギネに一日の長があるんだから。
一日どころじゃなく、かなりの開きがあるんだよね。
始めっからヘクターには勝ち目が無かったんだ。
「ま、奴隷は勘弁してあげるわ、いつも傍に居られたらウザいから。
ただし、戦闘中は私の支持に絶対に従う事、これは厳守よ。」
容赦が無い。
パーティーの編成は、ボクとアーサーとヘクターが前衛、アルギネ一人が後衛。
3枚盾だ。
アルギネは魔法を3つ同時に詠唱出来るので、攻撃魔法と治癒が同時にこなせる。
イザとなったら、変身してブレス攻撃も出来る、超優秀後衛だ。
アーサーはタンクとしては攻守バランスが取れた人材なので申し分ない。
ヘクターも『ex防御』を失ったとは言え、元々防御力特化のキャラだったため、防御力ステータスは高いキャラなんだ。
こっちもイザとなったら『ひよこカトリス』に変身してブレス吐けるしねー。
問題なのは、ボク。
アーサーのデコピンで死んだ位だから、敵の攻撃が当たったら、多分即死。
よく見て、また必死に避けるしかないのかー・・・
絶対、一番弱そうなボクに攻撃が集中するに決まってるんだよね。
他の二人の防御組は敵の攻撃が当たっても大丈夫だとは言え、多少はライフ削られるんだよね。
その点、避けたり回避出来れば、敵の攻撃を一回無駄にさせられる。
その一回無駄にさせたモーションの隙きに、他の人が攻撃を当てられるというわけ。
あ、『避ける』と『回避』は同じ意味だと思うけど、このゲームでは、ちょっと意味が違います。
自動的に、回避パラメーターでの確率的な計算で攻撃が当たらないのが『回避』。
自分でキャラを操作して手動で動かして避ける事をボクは『避ける』と言っています。
『避ける』には、キャラの素早さパラが高いほど素早い動きが出来るので、画面をよーーーく睨んで、敵がこっちに向けて何かする気配を感じたら、ちょっと横とか後ろに動いて避ける感じです。
これ結構疲れるよ。目も疲れる。
中の人の腕しだいだよね、文字通り。
アルギネに聞いたんだけど、アナログスティック付きのコントローラーをパソコンに繋ぐと遣り安いとか言ってた。
足も自由に動かすには、ゲームの設定からモードを切り替えて、テレビとかの大きなモニターにカメラを付けて、全身を映すようにして、無線コントローラーを持つという方法もあるみたい。
なんか、余計なお金かかるなー・・・お父さん、もうお金出してくれそうも無いや。
さて、第四戦。
あ、今度の相手はスケルトンばかりの5人チームだ。
前衛に剣を持った骸骨が2人、後衛の左右にフードを被った骸骨が2人、その真中に子供の骸骨が1人。
「「「あ・・・」」」
「え、なに?」
アルギネとアーサーとヘクターが同時に呟いた。
ボクだけがわからない。
「真ん中の子供の名前を見てみろ。」
「『Rachel』ラチェル?知らない・・・」
「ラケル。敵側の神だよ。
あ、そうか、ワールドボイスで通知が会った時にお前は居なかったんだっけ」
ワールドボイスというのは、全ワールドに向けて通知される声の事で、たしか、ボイスオブザホウルワールド ・・・なんとかインフォメーションだったっけ、なんか、そんな感じ。略してワールドボイス。
神が生まれた時に流れた、GMからのお知らせなんかがそれ。
「名前からすると、女性ね。
骸骨じゃ性別分かりづらいけど。」
「そうなんだ」
「私の名前と同じで、向こうはダイヤのクイーンよ。
私はクラブのクイーンで、アルジーヌ。」
「アルギヌじゃないんだ・・・」
「アルギネじゃないんだ・・・」
色んな国のプレイヤーが集まって、言語翻訳でプレイしているゲームだから、それぞれ国での呼び名で呼ばれてもあまり気にしてないらしい。
ラケルもレイチェルと読む人も居るって。
じゃ、アルギネは今までどおりアルギネで。
「骸骨も男と女でちゃんとグラ変えてあるんだぞ。細かい拘りだけど。」
「へー、そうなんだー。」
向こうの住人だったアルギネとヘクターは、何かと薀蓄があるみたい。
あ、向こうの神がトランプシリーズという決まりが有る訳じゃ無いって。
偶々だそうだ・・・って、あれ?
とにかく、パワーレベリングしていたのは向こうも一緒だった。
向こうが5人でこっちとマッチングで釣り合ったという事は、最低二人は高レベル者と見て間違いないらしい。
「お前ら、どいつが高レベルか分かるか?」
「んー・・・、見分けられない様に装備を揃えて来てるわね。」
「分かるぞ、前衛の右と後衛の左のやつがそうだ。知ってる奴だ。」
最近まで向こう側の住人だったヘクターは、高レベル者は大体名前を知っているらしかった。
「ねーねー、ここで神対神の戦闘やっちゃってもいいの?国消えない?」
「なんだよ負けるつもりか?
心配無い、戦争以外で緩衝地帯での戦闘ではそれは無いから心配するな。
じゃないと、神キャラはレベル上げ出来ないだろ?
ここでなら死んでも蘇生魔法で生き返ることが出来るから、思いっきりやっていいぞ。」
そうは言われても、心配になっちゃうんだよね。
ボクだけの体じゃないから、・・・って、妊婦さんみたいなセリフでちょっと赤面した。
死んでも大丈夫と言われると、ちょっと気が楽になった。
「ラケル以外を倒したら、ボクと1対1で戦ってみたいな。」
「お、面白そうだな、やってみろ。」
「仕方ないわね、なるべく魔法を当てないようにやってみるわ。」
「うひょー、面白そうだなー。」
戦闘前にそんな相談をしていたら、相手チームの人がプルプルし出した。
「何勝手な事をほざいてるんだ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「お前ら全員、ラケル様の生贄にしてくれる!」
戦闘開始。
敵の前衛の2体のスケルトンがボクを目掛けて剣を振り下ろす。
(あれ?落ち着いて見ると、意外と動きが遅いのかな。)
緊張が解けたのか、相手の動きがよく見える。
しかも、相手が動き出してから避けても十分間に合う感じがした。
ボクはちょっと閃いて、普通なら横か後ろに避ける所を前方向に走り、前衛2人の間をすり抜けてラケルの眼の前まで来た。
ラケルはびっくりした顔をしている。
骸骨でも表情が分かる。まるで、某3D映画みたいだ。
「こんにちはラケル、ボクの名前はダイスケ。」
「デイシュキー・・・」
「ダ・イ・ス・ケだよ。」
虚を突かれた相手パーティーは、全員ボクに注目した。
前衛の2人なんて、完全に後ろを向いてしまっている。
アーサーとヘクターは、前衛の片方のレベルの低い方を二人がかりで屠ると、アルギネが残りの3人に向けてバインドの魔法を一瞬で掛けた。
「え、えっ?」
ラケルは目を白黒させている。
ボクはラケルの手を引いて、更に奥の方へ走った。
というか、巻き込まれない様に離脱。
そこへドラゴン化したアルギネが纏めてブレス攻撃。
生き残りにアーサーとヘクターが止めを刺して、ラケルを残して殲滅完了。
ここまで僅か10秒。
最初の予定通り、ラケルとボクとで1対1対決に持ち込んだ。
「おまえ、おまえー!ずるい!ずるいぞ!」
地団駄を踏んでるラケル可愛い。
「なんでヘクターまでそっちに居るんだよ!
アルギヌとヘクターの裏切り者チームじゃないか!
私だけ残して、なぶり殺しにするつもりかー!うわーん!!」
泣きべそをかき始めた。
うわー・・・日本以外ではR-15のはずだよね・・・
「あ、あのね、GvGの模擬戦やってみたかっただけなの、ごめんねー。
みんなは手を出さないから安心して。」
ラケルの中の人、歳下に慰められてるなんて、ボクの本当の年齢知ったら赤面かも・・・
「ほんとに?」
「ほんとほんと、バ◯カン人嘘つかない。」
右手の指を揃えて、中指と薬指の間を広げて∨サインする、バ◯カン式の挨拶をした。
何で知っているのかって?おじいちゃんがトレッキーで、お父さんがトレッカーなんだよ。




